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閑話 ヒスイの旅(2)

 犬助は、この魔国リジドまでのヒスイの護衛は沙織に頼まれた事なので、バレない様にではあるが自由に力を使って来た。


 ただ、今回の件を対応するには沙織の許可が必要になると思っていたので、即行動は起こさなかった。


 三体のぬいぐるみは、大きすぎる自分の力を使う時には、余程緊急性がない限りは沙織の許可を取る。 

 沙織の危険に対応する事等で許可なく力を行使した場合には、事後ではあるがこちらも絶対に報告を入れていた。


 当然犬助もヒスイの肩にいる状態のまま、沙織に許可を取る。


『沙織、ヒスイさんの友達、状態が良くない。治して良い?』

『えっ、そうなの?早く治してあげて。でも、上手くやってね。全ての人を助ける事は出来ないから、犬助の能力のおかげって明らかになっちゃったら、大変よ』


 誰しも病状や怪我からは回復したい。

 もし回復できる人がいるならば、何をおいてもお願いしに行くだろう。


 お願いする方はそれぞれでも、お願いされる方は一人。

 そんな状態になると全員の対処ができる訳もないので、なるべく能力を隠すようにと言っているのだ。


 一見非情に見えるかもしれないが、本当に助けたい人の対処ができなくなる可能性や、自業自得の人……極悪人もその中に含まれているかもしれないので、止むを得ないのだろう。


『わかった』


 沙織の許可も得たので、どのようにバレないように力を行使するか考える犬助。

 結局、ヒスイの採取した薬草から作ったポーションの能力を少しだけ上げ、複数回の摂取で回復する程度に調整する事にした。


 そもそもポーションの出来は、薬草の状態と薬師の腕で決定する。

 そのため、仮にこのポーションの異常な回復について明らかになっても、薬師の状態によってポーションの効能にばらつきが出て来るので、誤魔化せると判断したのだ。


 つまり、気合十二分の状態でポーションを生成したので、奇跡的に上物が連続して出来上がったが、今はそこまで作る事は出来ない……と言う事だ。


「さっ、イルミア、これをお飲み」

「ヒスイ……こんなに高級そうなポーション……ありがとう。でも無理しないでね。私の体は私が一番わかっているのよ」


 ヒスイの優しさ溢れる行動に、イルミアは感動しつつも無理をしないように告げる。

 互いが互いを思いやる、美しい光景だ。


「はっ、あんた私を舐めて貰っちゃ困るよ。まだまだ現役、ピチピチの60だ。無理なんてこれっぽっちもしちゃいないさ。イルミアは、私が持ってくるポーションを飲んで、体を癒せばいいんだよ」

「ありがとうヒスイ。貴方と友人になれた事が、とっても嬉しいわ」


 そっけなくも優しさ溢れたヒスイの言葉に、涙ぐみつつポーションを飲むイルミア。


 その直後、イルミアは今まで感じた事の無い感覚を味わっていた。

 そう、体内が活性化しているような不思議な感覚。


 ヒスイが必死で薬草を採ってきてくれた素材でポーションを作ってもらった事は理解しているイルミア。

 その優しさが効いているのかと思いつつも、その日は横になって意識を手放した。


 翌日、そしてその翌日も同じようなポーションをヒスイから与えられたイルミアだが、明らかに体調に変化があったのだ。

 自分の体は自分が一番わかる……その言葉の通りに。


「えっとヒスイ。なんだか私、すごく調子が良いんだけど」


 オズオズと今日の分のポーションを渡しに来てくれたヒスイに問いかけるイルミア。

 実は既にイルミアは犬助の助力によって全快している。


 能力を隠している犬助にはそれを伝える術がないので放置しているのだが、もちろん既に助力はしていないので、ヒスイの手にあるポーションは、少し前のイルミアの病状を改善させるには至らないが、かなり質の良いポーションとなっている。


 突然そのような事を言われたヒスイは、必死で薬草を採取する事に意識を持って行かれていたので、改めてイルミアの顔を見る。


「……確かに、どこも悪そうには見えないね」


 長年の経験から、イルミアの言っている事に嘘はなさそうだと判断したヒスイ。


「とりあえずこれを飲みな。その後は、鑑定でもしてもらうかい?」


 イルミアは魔族だ。

 人族と異なる病気を患うので、ヒスイにできる対処は種族共通のポーションに頼るしかなかった。

 その病状が明らかに改善されたので、正確な判断を行うように勧めたのだ。


 人族であれば医者に行くか病状によっては鑑定してもらうのだが、魔族が同じかは知らないヒスイ。

 とりあえず鑑定と言う言葉を使ってみたのだ。


「フフフ、そうね。私の病状は鑑定でも判定できるから、そうしましょう」


 本当に体調の良さそうに受け答えしているイルミアを見て、傍にいるリンネルは泣きそうだ。


「ヒスイさん、本当にありがとうございます」

「リンネルも苦労しただろうからね。だけど、鑑定で確定するまでは気を緩めるんじゃないよ」


 こうして、リンネルは急ぎ鑑定が出来る人物を手配した。


「ふ……む。素晴らしい。何の異常も見当たらないばかりか、状態はすこぶる良いですな。どうやって治したのですか?」


 この鑑定士はイルミアの病状を鑑定していた人物である為、イルミアの以前の状態は正確に把握していた。

 そう、回復する見込みは無いと判断していたのだ。

 それ程イルミアの状態は悪かった。


 当然この鑑定士も何とか助かる方法を探していたのだが、前例がほとんどない病状であったために対策も確立されておらず、対処療法しかできなかったのだ。


 そのイルミアが、この短時間で劇的に改善した理由を知りたくなるのも仕方がない。


「私の親友が助けてくれたのですよ」


 イルミアはヒスイを紹介する。


「私は何もしちゃいないさ。ただいつもの通りに薬草を採っただけ」

「でも、こんなに素晴らしいポーションが出来ているじゃないですか」


 謙遜するヒスイに対して、予備に作っていたポーションを持ち出すリンネル。

 もちろん犬助の補助は入っていないポーションだ。


「確かに素晴らしい。これ程とは……」


 このポーションを鑑定士は鑑定したようで、驚愕の声を上げるのだが……誰にも気が付かれない程度に少しだけ納得できないような表情をしていた。

 

 そう、イルミアの病状を正確に鑑定したことのある人物であれば、このポーションでは全快する事は無いと理解できるからだ。

 しかし、結果的にイルミアは全快している事は間違いない。


 余計な事を言って雰囲気を壊す事を避けた鑑定士は、友情の奇跡と強引に自分を納得させて、何も言う事は無かった。


『沙織、ヒスイさんの友達治った。危なかった』


 いつもの通り、言葉が少々足りない犬助のせいで、沙織は焦ってしまっていた。

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