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レベルEの生活

 既に四人となっているレベルEの愛子、正樹、俊彦、千穂。


 王城からは離脱し、同郷の者からは囮にされ、レベルDですら前回の龍の戦闘時に全滅していると言う事実を把握して、漸く自分達の立場が理解できた。


 王城からは見放されてはいるが、制限のみ存在する腕輪はそのままであり、同郷の者達からは何の迷いもなく囮にされてしまう立場だという事、そして今まで横柄な態度を取っていた為に、城下町の民にも嫌われてしまっているという事を。


 そうは言っても、民とは違ってレベルEである為、何とか冒険者として活動をする事で日銭を得ていた。


 その結果水と食料は入手できるのだが、いかんせんまともな宿泊は未だにできていない。

 そんな四人は、少し前までの男女で分かれていた行動を改め、共に活動するようになっていた。


 そんな日常を過ごしていたのだが、いつもの鉱石採取の依頼を受けていた四人は、少し前を歩いている一団を発見した。

 そう、沙織とレベルCのパーティー四人、そしてそこに纏わりつくようにしている詩織のパーティーメンバーである三人、昭、由香里、剛だ。


 何故か詩織がいないのだが、彼らには関係のない事なので遥か後ろをトボトボついて行く。


 好きでついて行っているわけではなく、途中までは方向が同じなので止む無くこうなっている。


 既にレベルEのこのメンバーは、沙織に対する嫌悪感すら湧かない程に活力が低下していた。


 高校二年生……愛子は教師だが、平和な日本で生活をしている中で突然異世界に連れてこられて、結果的には大した力も得る事が出来ず、死と隣り合わせの生活。

 そして、三大欲求であるうちの一つ、睡眠が真面に取れない環境に置かれているのだ。


 活力が低下するのは当然だ。


「あいつらの収納袋さえあれば、真面な生活が……」


 既に彼らの目には沙織は移っておらず、そのほかの詩織パーティーの三人に視線が言っていた。

 正確には、詩織パーティーが持っている収納袋に。


 既に周知の事実になっているが、この収納袋は王族所縁の者しか持てないほどの超貴重品だ。

 これ程の品を詩織パーティー全員が持っているのは翠の力に他ならないのだが、最強パーティーとして成果を出した結果でもある。


 本来は龍の討伐に失敗して翠と修一が出撃した時点で、パーティーに一つだけ収納袋を持たせて、余りについては没収するはずだったのだが、図らずも龍を始末してしまったために、没収せずに現在に至る。


 その収納袋に視線を送っているレベルE。


 その熱い視線には理由がある。

 少し前になるが、今後の活動拠点とするために貯蓄していたお金を、ついに耐え切れずに高級宿の宿泊費に使ってしまったのだ


 その日は、食事も豪華で久しぶりのお風呂にも入れ、更にはフカフカのベッドで眠る事が出来ていた。

 しかし、一泊20万円。


 日々の生活でカツカツの彼らが連泊できるわけもなく、癒しの時間は一泊で終了した。

 そして過酷な日常である野宿と鉱石採取の日々を送っていたのだ。


 もちろんこの鉱石採取時に収納袋があれば、鉱石は取り放題。

 あの高級宿にさえ毎日宿泊する事がある程度は可能だ。


 毎日それ程の鉱石を入荷してしまった場合、値崩れが起こる事には知恵が回らない。


 そんなわけで、じっと収納袋を見つめているレベルE。

 その視界には、先行している沙織とその周辺の一団が何やら揉めているように見えていた。


「正樹、あいつら揉めてねーか?共倒れで収納袋だけ残して死んでくれねーかな」

「確かに揉めているみたいだな」


 空恐ろしい事を言っているが、最早教師であった愛子ですら頷いている。


「チッ、あの野郎、これ見よがしに収納袋を見せびらかしやがって……」


 先行する一団の様子を嫌でも見させられているレベルEの視界には、収納袋を態々手に取って、二人の女性に自慢げに見せている昭と剛の姿が見えていたのだ。


「ねぇ、いっその事こっそり奪っちゃったらどうかしら?」


 既に道徳だの正義だのと言う言葉は、レベルEの一行の辞書には存在していなかった。


「それが出来れば苦労しねーよ。あいつらは腐ってもレベルC。反撃に会ったら俺達は瞬殺だ。それくらいわかるだろうが」


 千穂の提案に、流石にイライラが収まらない正樹が返す。

 だが、このおかげで若干の活力が湧いてきたのも事実だ。


「じゃあどうしましょうか?このペースだと、次にあの宿に泊まれるのは二か月後ですよ?」


 愛子が何とも言えない、切ない事を言って来た。

 しかし、活力が少々戻った正樹は以前のように少々悪い笑みでこう告げた。


「確かにあいつらには力じゃ敵わねーよ。だけどな、人には弱みが一つくらいあんだろ?ここを使うんだよ、ここをな」


 頭を指で軽く叩く正樹に、残りの三人は正に活路を見出したかの如く頷いて見せた。


 沙織達がいる集団からかなり後方にいるレベルEの四人は、今日の鉱石採取は一先ず中止し、現状の把握に努める事にした。

 そう、彼らの後をついて行くのだ。


「だが用心しろよ。あいつらは平気で俺達を囮に使いやがるからな」


 その“あいつら”の中に、何故か沙織も含まれているようで、未だに脳に本当の活力は戻っていないのかもしれない。


 レベルEの四人としては、先行している集団が揉めているので、万が一にも巻き添えにならないように距離を取って、慎重に後をついて行く。

 その揉め事の原因を掴んでうまく立ち回る事が出来れば、場合によっては収納袋の一つ程度は手に入れる可能性もあると踏んでいたのだ。


 彼らの追跡を把握しているのは、亀吉と鳥坊の補助を受けている沙織ただ一人。

 ただ、その沙織も今の時点では由香里の悪意に晒されて、いくら吹っ切れたとは言え、今までの経験から小さくなってしまっているが、何とか無視を決め込んでいた。


 亀吉と鳥坊は近くにレベルCのパーティーがおり、由香里の対策をするために沙織の方に急ぎ足で健司と忠明が来ている事から、何とか殺気を抑えている。


 レベルEの者達では、存在を把握されないようにかなりの距離を取って隠れつつ移動しているので、何が原因で揉めているかは今の所は分かっていない。


 しかし、収納袋一つで明るい未来が待っていると信じているので、何とか情報を得ようと大胆かつ慎重に行動していたのだ。


 彼らレベルEの集団の目には、どうやら一旦揉め事が解決したのか、沙織とレベルCのパーティー、そしてその少し後方を、詩織を除く詩織のパーティー三人がついて行く姿が見えていた。


「何があったんだろうな?」

「そんな直ぐにわかれば苦労はしない。まだまだこれからだ。油断するなよ!」


 すると、突然一番先頭付近にいる沙織が立ち止まり、街道の方を向いて手を合わせたのだ。


 そこは……少し前に龍との戦闘でレベルDが全滅した場所だった。

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