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ヒスイの出立と

 翌朝、未だに薄暗い時間にヒスイは出立する事にした。


「じゃあ行ってくるよ。向こうで何があるか分からんし、往復になるので数か月かかるかもしれない。心配しないで待っていておくれ。その間の薬草は、沙織あんたに任せたよ!」

「はい、任せて下さい。それに道中の安全は犬助がいるので安心ですよ」


 沙織は本心から言っているのだが、犬助の本当の力を知らないヒスイは肩にいる可愛らしいぬいぐるみがそんな力を持っているとは一切思っていないので、気休めであると理解していた。


 だが、旅の途中に一人は寂しいのは事実。

 そんな時に、言葉は発する事はないが、自分に明らかになついてくれているぬいぐるみがいるだけでも助けになるので、嬉しそうにしている。


「そうかい。じゃあ犬助、道中の安全は任せたよ!」


 犬助は任せろと言わんばかりにヒスイの肩で立ち上がり、短い脚で自分の胸を叩いているつもりなのだが、実際は胸には届かずに、お腹当たりを必死で叩いていた。


 その姿が愛らしく、ヒスイは微笑みながら出立する。


「じゃあ、沙織、亀吉、鳥坊、行ってくるよ!」

「行ってらっしゃい、気を付けて!」


 周囲の住民には昨夜のうちに事情を話してあるので、ヒスイの家に沙織が一人で住んでいても何も怪しまれる事は無い。

 更に、薬草採取に関しても既にギルドにも説明の上に、ヒスイと同等の品質を納品できているとのお墨付きを貰っているので、今後の薬草採取に関しても問題ないと思っている沙織だ。


 そしてもう一つ。ヒスイには把握されていないが、ヒスイと同行している犬助とは遠距離でも会話が可能なのだ。

 つまり、いつでもどこでもヒスイの安全を確認する事が出来る、いや、犬助が同行している時点で安全は担保されているのだが、やはり遅滞なく状況を把握できると言うのは非常に助かるし安心なのだ。 


「よし、亀吉、鳥坊。今日から私と三人での行動だけど、よろしくね。早速ギルドに行こうかな」

『僕、頑張るよ』

『任せておけって』


 二体の優しい言葉を聞きながら、いつもよりも少し早めに家を出てギルドに向かう。

 ヒスイがいない分、何か不測の事態が起こったとしてもカバーできるように、そしてギルドに寄り道をしてから現場に向かうので、自発的に早く家を出たのだ。


「おはようございます!今日から暫く一人ですけど、頑張ります!よろしくお願いします!」

「おう、沙織ちゃんおはよう。ヒスイさんから聞いているよ。今日から頑張って」


 何故か受付には、普段はいない晋ギルドマスターが座ってにこやかに対応してくれている。

 沙織としては、突然ギルドで一番偉い人が自分程度に笑顔で対応してくれているのだから、少々緊張してしまっていた。


 そんな中、沙織の背後からレベルCのパーティー、健司をリーダーとした一行である忠明、千尋、理沙がギルドに入ってきた。


「おう、お前らもいつも通り早いな。助かる」


 ギルドマスターがレベルCのパーティーに気さくに話しかけるものだから、その間にいる沙織は少々小さくなってしまう。


「晋君、沙織ちゃんが縮こまっちゃっているじゃない。もう、配慮が足りないんだから!」

「本当ね、晋君は後でお説教かな?」


 そんな中、レベルCパーティーの千尋と理沙が助け舟を出してくれたので沙織はホッとした表情をしており、言われた晋は少々納得がいかない表情をしていた。


 冒険者ではない沙織は、特段ギルドから依頼を直接受ける事は無く、任意で採取した薬草をギルドに購入してもらっていると言う事になっている。


 しかし、今までヒスイが築き上げた信頼からほぼ指名依頼のような形になっているので、沙織単独で行動するようになった初日位は出立前にギルドに挨拶しておこうと思ったのだ。


 その為、千尋と理沙による助け船が出された後は問題なく薬草採取に向かえると思っていた沙織だったが、これで逃げられるわけもなく、何故かこの流れからギルドマスターとレベルCのパーティーと共に、ギルド併設の休憩所で飲み物を飲む事になっていた。


『なんで私、こんなすごい人達とお茶しているんだろ?』

『僕も分からないよ』

『気にすんなよ。驕りだから良いじゃん』


 目の前でピコピコ動く亀吉と鳥坊と話しながら、目の前のジュースを飲む。


「キャー可愛い!触っても良い?」

「本当よね~、あれ?でも、前はもう一匹いなかった?」


 亀吉と鳥坊を見た千尋と理沙が食いついてきた。しかも、犬助がいない事に気が付いたのだ。

 特段隠す事でもないので、ありのままを沙織は告げる。


「えっと、ヒスイさんの旅のお供をしてくれている犬助がここにはいません」


 ヒスイの名前が出てから、晋達の顔が明らかに変わった。


 このパーティーと晋、いや、このギルドに所属している召喚者所縁の者達は、ヒスイ達には償いきれない罪があると思っている。

 自分達の親と同時に召喚された日本人が、現地のヒスイ達に有り得ないほどの惨い行いをしていた事を負い目に感じているのだ。


 正直、彼らには何の罪もない上に、むしろその横柄な召喚者を止めようとしていた者の一族なのだから、ここまで気に病む事は無いのだが……


 そのヒスイの話が出たのだから、一瞬で顔つきが変わるのは仕方がない。


「沙織ちゃん、今日から一人で行動するって昨日ヒスイさんから聞いた。でも、万が一があってはヒスイさんに申し開きができない。だから、沙織ちゃんにとっては気を遣うかもしれないが、こいつらと共に行動してくれないか?もちろん、沙織ちゃんの行動は制限しないし、日中は基本的に薬草採取で構わない。もちろん、休日を入れてくれても良い」


 ギルドマスターの晋から、突然の申し出を受けた沙織。


 昨日、何故か詩織のパーティーがこの冒険者ギルドに登録したために最強パーティーではなくなっていたが、それまではギルド最強の位置に君臨し続け、民のために表裏なく常に全力で行動しているレベルCパーティー。


 そんなパーティーが、長期間沙織一人の護衛のような形になると言っているのだ。

 第三者から見ると破格の待遇であり、正直有り得ないのだが、晋とレベルCのパーティーは始めからこうする予定だった。


 晋は沙織の人柄をヒスイから聞いているので、初日は必ずギルドに挨拶のために顔を出すだろうと確信していた。

 そのため、レベルCのパーティーにもいつもの通り朝早い段階からギルドに来るように伝えていたのだ。


「えっ、大丈夫ですよ。皆さんも依頼があるでしょうから、そちらを優先してください。私には亀吉と鳥坊がいますから」


 沙織の言っている事は本心だ。


 真実を告げるわけには行かないが、目の前のギルドマスターである晋を含めたレベルCのパーティー、更には詩織達のパーティー、翠や修一を含めても、亀吉や鳥坊一体に手も足も出ない。


 しかし、そんな事実は理解していない晋とレベルCの冒険者パーティーが、沙織が遠慮していると判断したのは仕方がない。


 晋としては、強引に同行させる方法も取れるのだが、強硬手段に出る事も憚れたので手法を変えてみる。


「えっとな、沙織ちゃん。俺達がヒスイさんに頭が上がらないと言うか、そんな立場なのは知っているよね?」

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