クラスのレベル
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理不尽に召喚された者は、ほぼすべての人物がこの世界の住民が得る事ができない程の強力な力を得る事が出来る。レベルはまちまちではあるのだが……
そしてその血を継ぐ者は、翠のように、その力を継げる可能性があるのだ。
そんな力を持つ者が暴れれば、甚大な被害が出る事は必然。
この辺りを考えずに突然召喚して甚大な被害を受けてしまった国家の情報を掴んだ他国は、召喚術と共に、その者を制御する術の開発を進める事になった。
こうして出来上がったのが、腕輪だ。
この腕輪、異世界人が得られた力のレベルに対応して作られている為に、作成するのにも相当な労力を使う。
結果的に全ての腕輪を最高レベルの召喚者を制御できる品質で作る事は難しいのだ。
当然他国でも同じように制御系の道具がある。
力のレベルによって腕輪の見かけも当然変わっており、上位のレベルであれば、その腕輪が特権階級の証にもなるように整備されている。
これは、力ある者に対しての飴を与える必要があるからだ。
しかし、クイナ王国に対して敵意をもって行動しようとすると、得られた能力に制限がかかり、ただの人に成り下がる。
当然、激しい痛みのおまけつきだ。
そんな道具を装着させる前に、異世界人に真実を告げてしまう程翠は愚かではない。
「実は、私の力で既に皆さんの潜在能力レベルについては把握させて頂いております」
その言葉と共に、バスの外から煌びやかな数種類のデザインが施された腕輪が持ち込まれる。
数は20個。丁度今バスの中にいる教師である愛子と生徒の総数だ。
その腕輪は、見るからに高級な物が一つ。
その一つを含めて徐々に品質が劣るように見える物まで五種類存在していた。
「これは、私が皆さんのレベルを識別した上で準備させた腕輪です。上位のレベルの方は、見かけ通り豪華な腕輪を付ける事が出来ます。上位であればある程、全てにおいて優遇されます。具体的には後で説明しますが、私達が皆さんの事を即座に覚えられないと言う事情も有りますので、レベル毎に識別の腕輪を付けて頂きます」
愛子を含む、異世界人全員が椅子から立ち上がって腕輪を見つめている。
確かに上位の者がつける事になるのであろう腕輪は見事な装飾が施されており、更には神々しい雰囲気を醸し出していた。
そして、腕輪にはアルファベットが彫り込まれているのだ。
見る限り、AからEまでの腕輪がある。
「念のため、私の力だけでは鑑定間違いがある可能性が捨てきれませんので、鑑定に特化した人物が確認した上で腕輪を付けさせていただきます」
腕輪をバスに持ち込んだ人物が、翠の話と共に深く頭を下げる。
「私の方で鑑定をさせて頂きます。鑑定の前に少々説明させて頂きますと、ほぼ全ての皆さんはこの世界では強力な能力を得ています。能力自体はこの世界にも存在しますが、そのレベルが大幅に異なるのです。例えば今から私が使う鑑定。これは、レベルが低い物は何も見る事が出来ませんが、レベルが高ければその対象の全てを見る事が出来ます。私もここにいる翠と同じく、母が日本人ですから、ある程度の力は有りますのでご安心ください」
こうして説明は続くが、この世界の力は日本と異なり、不思議な力が使える世界だった。
この人物が伝えている通りの鑑定や、既に翠が見せていた身体能力の異常な強化、更には魔法まで使えるのだ。
一部の生徒は、魔法と聞いて目を輝かせていたほどだ。
「それでは、それぞれ鑑定させて頂きます。ここは狭いですので、私が皆さんの方に向かい、各自を鑑定の上腕輪をお渡しします。この腕輪、サイズは関係ありませんのでご安心ください」
そう言いながら、一番前方にいる教師である愛子に近づく男。
「それでは始めます。私の目を見て下さい……愛子さん、あなたのレベルはEですね」
何も言っていないにも係わらず自分の名前を当てられてしまい、鑑定の力が本物であると信じざるを得なくなった愛子と、それを見ていた生徒達。
一番後ろでポツンと座っている沙織は誰にも寄り添えず、一人で不安と戦っていた。
いや、制服に忍ばせている三体のぬいぐるみと共に……
「それでは、これをどうぞ。腕に通すだけで、自動でサイズは調整されます」
明らかに一番下の腕輪で、Eと表示のある物を渡されて少々落ち込む愛子だが、それでも見かけはそこそこ立派なので、渡された腕輪に手を通す。
すると、男の言っている通りにサイズが自動で気に小さくなり、ぴったりと腕輪は装着された。
「えっ、すごい。重みも一切感じませんね」
そんな感想を漏らしつつ、腕輪をペタペタ触っている愛子。
そんな愛子をよそに、男は次々に鑑定の上腕輪を渡していく。
やがて、あまり腕輪の残りが無くなってきたところで、詩織の彼である昭の番になった。
男の手には初めから存在して誰にも渡されていない一番豪華でAと表示されている腕輪一つと、二番目に豪華でBと表示されている腕輪二つの合計三つが未だに残っている。
「俺が一番豪華な腕輪に違いないだろうな。見てろよ、詩織!」
「そうね、楽しみにしているわよ」
既にこの環境に慣れたのか、普通の会話すら出来ている。
但し、詩織が本音で話しているかは別で、実際は自分がただ一つ存在している一番豪華な腕輪に相応しいと思っているのだが……
「昭さん、あなたのレベルはCですね。こちらをどうぞ」
「ちくしょー!」
悔しそうにしながらも、腕輪に手を通す昭。
「残念だったわね」
労いの言葉を掛けつつも、本音は安心している詩織。
次に男が近づいたのは、男子の中では沙織と同じような立ち位置にいる宗次と言う男。
大人しく、常に昭に弄られている男だ。
「宗次さん、あなたのレベルは……素晴らしいですね、Bです」
「えっ?」
少々の驚きと嬉しさを表情に出した宗次。
「あん?宗次がB?俺より上だ?ふざけてんのか?」
思わず昭が睨みつけるので、今までの経験からか途端に大人しくなって下を向いてしまった。
だが、男はそんな事はお構いなしに腕輪を渡して淡々と作業を続けている。
そんな中、ついに残りは後方に位置していた詩織と、最後尾に一人で座っている沙織の二人だけになっている。
残っているのは、どう見ても豪華な一番上のレベルである腕輪一つ、そしてその次のレベルの一つ、合計二つだ。
二番手のレベルBの腕輪も二つしかなかったので、相当な力である事が分かる。
その内の一つは宗次が手にしたのだが……
クラス中が息をのむ中、詩織の番になる。
この時でも、クラスの事情など知る訳もないし、知っても興味も無い男は冷静に作業を進めている。
「詩織さん、あなたのレベルはBです」
驚きと共に、思わず沙織の方を睨みつけてしまった詩織。
残念ながら、沙織はクラス中から同じような視線を浴びてしまっていたのだ。