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初めての薬草採取と(3)

「ヒスイさん、あの、今の揺れ、なんだか近くで龍が暴れているそうです!」

「何だって?」


 オロオロする二人。


 沙織とヒスイの声が大きかったので、龍の存在を把握した八人のレベルE。


 疲れているからか、今の状態から脱却したかったからか、真面な判断力があるはずもなく明後日の方向に向かっていく。


「おい、聞いたか?あのクソ女、龍と言ったぞ。あの女の事だからそのまま信じるわけには行かないが、もし本当だとしたら!」

「わかったぞ。俺達が倒せば一躍英雄になれる。そうだな、正樹?」


 正樹と俊彦が興奮して話している。

 つられて、残りの六人も同様の事を言っている。


 そんな中、時折同じように大地は揺れ、目視で少し遠くには立ち上る煙が見えるようになっていた。


「あっちだ。行くぜ!」


 その煙を見た正樹は、いち早くその方向に移動し始め、追うように残りのレベルEも後に続く。


『沙織、こっちは全く問題ないから安心しろよ』

『鳥坊の言う通り』

『僕達がいるから、安心だよ』


 三体のぬいぐるみは沙織を落ち着かせようと話しかけ続けていると共に、チョコチョコ動いては沙織とヒスイの体を優しく叩いているのだ。とはいえ、不安な沙織。


「沙織、今日は安全のためにこの位にしておこうか?」

「そ、そうですね。じゃあ早速帰りましょうか」


 未だに揺れ続けているのだが、音と揺れ以外には何もないので、安全な今のうちに町に戻る事を決めた二人。


 いそいそと準備をして、いつもよりも若干早足でこの場を後にする。


 誰もいなくなった薬草採取場。

 この場から先に移動したレベルEのパーティーは、煙の立ち上る方向に全力で移動をしていた。


 森を抜けてレベルEの視界が広がった先には、崩れ去っている町並みと、上空には傷を負っている龍、その龍に対峙するように、詩織のパーティーと宗次のパーティーがいた。


 正樹を始めとしたレベルEのパーティーは、次元の違う強さを持つ龍の存在に怯えて無意識に地面に意識を向けると、瓦礫の他に、玲子、桃子、葉月、雄二、仁志の五人のレベルDのパーティーと、見た事がない者達が倒れていたのだ。


 今朝、門の近くですれ違った時には自分達を嘲笑すらして見せた元クラスメイト。

 その内の五人が倒れ伏しているのを見て、簡単に龍が倒せると思い上がっていた事を嫌でも理解してしまったレベルEの八人。


 慌てて引き返そうとするのだが、龍の威圧がそれを許さない。

 龍としては、人族の援軍が来たと思っているので、誰一人としてこの場から逃がそうとは思っていなかった。


 この龍、アーム王国の宏美、大夢、友康の思惑通りに、クイナ王国所属の侵攻してきた召喚者達を敵と認識し、戦闘しているのだ。


 アーム王国所属の召喚者であるレベルDのパーティーは、果敢に魔道具を使用してクイナ王国側の侵攻者を攻撃していた。


 レベルが一つ上がる攻撃を行えるため、同レベルの玲子、桃子、葉月、雄二、仁志の五人パーティーは呆気なく破れるが、魔道具の副作用によってレベルFに成り下がった者は、クイナ王国の詩織達によって攻撃され、魔道具を使用していなかった者達もレベルBやCの攻撃を防げるわけもなく、地に伏している。


 その時の詩織達の攻撃の余波が、隠されるようにこの場にいて意識が中途半端に覚醒しつつある龍に当たったのだ。


 突然の覚醒によって咆哮を上げる龍。

 目の前に自分を攻撃した詩織一行がいるので、この場での敵が誰なのかはすぐに理解する事が出来た。


 詩織達は龍と言う存在に驚きはするが、今までの修練の成果か隊列を崩す事無く龍と戦闘を開始する。


 その最中、視界の片隅にかつてのクラスメイトと教師であったレベルEの集団が入ってきたのだ。


「あのクズ、丁度良かった。囮になって貰おうっと」


 最早猫を被る必要もないと思っていた詩織は、最悪の提案を事も無げに言い放つ。


 既に自らが特権階級であると共に、最大戦力のパーティーの一員であると認識している昭、由香里、剛も反対する事は無く、むしろ詩織の作戦を褒めていた。


 もう一方の最大戦力パーティーである宗次と美幸は、詩織の提案には何も反応しなかった。良いも悪いもなく、いかにして無事にこの場を切り抜けるかのみを考えていたからだ。


 想定していた戦闘は、さほど苦も無く領地を取り返せる戦闘であったのだが、まさか龍が出て来るとは思っていなかったのだ。


 その結果、無事にこの場を離脱する事が出来るか、龍を始末する事が出来るのであれば、囮作戦を否定するつもりは無かったからだ。


 詩織は、当然龍を牽制しつつも、何も言ってこない宗次に安心していた。

 この場で同じレベルの宗次ともめる事だけは避けたかったのだ。


「じゃあ、あいつらを王都の方向に逃がす事にするわ。あいつらのレベルであれば、龍も手負いであっても問題なく追いつけるでしょう?その間は、私達もある程度の速度で王都に向かうの。そうすると、いやでも先に目に付くあいつらとの戦闘になるわ。その時点で後ろに回り込み、背後から攻撃するのよ」


 この案に対して宗次と美幸は何も反対する事は無く、この時点でかつてのクラスメイトと教師であるレベルEが無条件で囮になる事が決定した。


 詩織や宗次のパーティーが龍に攻撃を仕掛けている間、剛が一旦龍との戦闘から離脱し、レベルEのパーティーの所に向かう。


「お前ら、俺達がお前らを逃がしてやるから、このまま王都に帰れ。但し俺達にも余裕が有る訳じゃない。お前らの全力で王都に向かえよ」

「ありがとう、剛君!」


 お情けを掛けられた気がしている正樹のパーティーは苦い顔をしているが、愛子のパーティーは涙を流さんばかりに感謝の意を示していた。


「良し、じゃあひたすら前を見て進め。行け!」


 剛の号令で、正樹のパーティーも含めて全力で王都に避難を始めた。

 その姿を確認した剛は、再び龍との戦闘を行っている詩織の元に戻る。


「詩織、上手く行ったぞ。あいつらを視認させるために少し攻撃を緩めろ!」


 剛の合図によって、全員が一旦攻撃を中止する。

 龍も詩織や宗次達を警戒しつつ見ているが、確実に新たに敵と認識している正樹や愛子のパーティーも視界に入っている。

 一瞬、王都方向へと視線が動いたからだ。


「よし、これで作戦通りね。離脱の為の一瞬の隙を作るために、全員で一度だけ攻撃して離れましょう」


 今度は詩織の号令によって龍に対して全員攻撃が炸裂する。


 既に完全に覚醒している龍は何とかその攻撃を相殺する事に成功したのだが、詩織達の目論見通りに隙が出来、その間に今まで目の前にいた詩織や宗次一行は王都方面に移動してしまっていた。


 怒れる龍は、詩織の思惑通りに自分を傷つけた人族を追跡する。

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