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クイナ王国の侵攻開始と正樹、愛子

 翠と修一は、アーム王国に奪われた領地奪還を誓っていた。

 今回その任務のために遠征させるのは、直近で召喚した者達で王都に残っている全員だ。


 通常の大規模な戦闘になる事が予想されれば、冒険者や、捨て駒として使用するために放逐したレベルEすら招集しようとするのだが、今回の戦闘は大規模にならないと予想されているので、そのような強制招集までは行われなかった。


 そこまでしてしまうとアーム王国に情報が洩れて、最大限の警戒がされてしまう事も強制招集を行わなかった原因の一つだ。


……ついに、奪還作戦実行の日がやってきた。


 王城の門から出て来る一行の先頭には、詩織がいる。

 まるでギルドの依頼を受けた冒険者であるかのように、普通に門から出撃して行く。


 実は各国の外周にある門の出入りは比較的自由のため、異国の民も平気で出入りしているのだが、王城に近づくための門ではそうは行かない。


 どの国家でも、中枢から最も離れた門の出入国についてはユルユルで、異国の民の交流については一切口を出していなかった。

 いや、外周の近くに住んでいる民に対しての関心がないと言っても良い。


 逆に、自らの領域である中枢近くに異国の民が来る事は厳しく制限していたのだ。


 当然詩織一行の視界にも、王城の門を潜る前には見る事の無かった他種族が、城下町の外周にある門から外に出ようと歩を進めるほどに視界に入ってきていた。


 そんな中、一行の視界の先には薄汚れたレベルEであるかつてのクラスメイトである正樹のパーティーと、担任であった愛子のパーティーが見えたのだ。


 彼らは詩織一行に気が付くと、視線を外す。


 見た目豪華で、更には強者の雰囲気を醸し出している詩織を始めとした召喚者一行と、同じ時に召喚されたにもかかわらず、真面に宿にも泊まれずに、薄汚れた状態のままの自分達と言う意識があるので、気まずくて視線を合わせる事が出来なかったのだ。


 正樹達や愛子達は、宿の宿泊を拒否されて賠償金まで支払った翌日も鉱石採取の依頼を受けていたのだが、既に素行の悪さが噂になっているので、お金があっても宿には泊まる事が出来なくなっていたのだ。


 正樹達に気が付いて、軽い侮蔑の笑みを浮かべた詩織一行が悠々と進んで行く。

 そんな詩織達の後ろ姿を恨めしそうに見た後は、今日の依頼を受ける為にギルドに向かって、再び鉱石採取のための行動を始める。


 既に正樹の中では、結果を出してギルドの面々を見返す程の気力は残っていなかった。

 只々その日を必死で生きてく事に全力を注いでいたのだ。


 あれ程強気であったのだが、自分が弱い立場になっていると分からされた時点で心が折れるのも早かった。

 何も苦労をせずに只々傲慢に生きてきたため、耐性が一切なかったのだ。


 そんな正樹達が稼いだお金は何に使うかと言うと、何と全員で住める小さな小屋を購入しようと決めていたのだ。

 王城での共同生活以下の生活だが、今の生活よりは遥かに良い事は間違いない。


 その辺りを受付に相談すると、心底嫌そうな顔をしながらも適当な場所と凡その金額を教えて貰えたのだ。


「今日も行くぞ」

「私達も行くわよ」


 覇気がない声で両パーティーは行動を開始する。


 そしてギルドで受付を終えた後に門から出るのだが、その視線の先には楽しそうに話しながら移動している沙織とヒスイ。

 その姿を見たレベルEの女性パーティー一行は顔を顰める。


 生活環境改善を目的に毎晩ヒスイの自宅に突撃しているのだが、沙織だけでなくヒスイすら一向に反応をしないのだ。

 もちろん三体のぬいぐるみによって完全に妨害されているので、周辺の住民も含めて、毎晩騒音をまき散らしながらヒスイの家に愛子のパーティーが突撃している事を知らない。


「あいつら、私達を完全に無視して楽しそうにしてんじゃないわよ!」


 本当に理不尽極まりない逆切れだが、口に出さずにいられなかった京子。


 野宿の場所は男女で異なっているので、毎晩愛子のパーティーがヒスイの家に突撃している事を知らない正樹のパーティー一行。


 今も、男女の間にはかなりの距離が開いているので、京子の声は周囲にいる女性のパーティーメンバーにしか聞かれていない。

 それを良い事に、京子に続いて残りもさんざんな言いようだ。


「ホント使えないゴミね。どこかで獣に襲われて揃って死んでくれないかしら。そうすれば、あの家に住んであげるのに」

「本当よ。あんなに悪女なんだから、少しは私達の為に動くべき!」

「先生もそう思うわ。そもそもあの子は思いやりの心がないのよ」


 今の自分の惨めな環境で攻撃対象への憎悪を口にしてしまうと、更に悪感情が増幅してしまう。


 そのような醜いやり取りは、随分と先を楽しそうに歩いている沙織とヒスイの肩にいる三体には全て把握されている。

 しかし、今は沙織が楽しそうな事、既にレベルEは脅威ではない事から、完全に無視する事に決めていた。


 そもそも今の三体の意識は、完全に(・・・)先行して移動している詩織一行に向いていたのだ。


 彼女達の目的地や目的も全て把握済みの三体。

 これから大事になるのは把握できているのだが、余計な心配を掛けたくないので沙織には何も話していない。


 もちろん何かあれば即座に二人を守る事だけは決定しているし、守れる自信があるからこそ秘密にしているのだ。


 因みに、今日のヒスイの守護当番は亀吉だ。


 そんな二人と三体の姿を視認しているのは、正樹パーティーも同じだ。

 だがこちらは女性パーティーとは異なり、既に沙織達に何かをすると言う気力がないので、単純に存在を認識している程度であったりする。


 そんな正樹パーティーは、気力がない状態で視認している沙織とヒスイに何となくついて行ってしまっていた。


 前方の正樹達の行動に呆れた女性パーティーだが、沙織の行動を監視するために黙って後をついて行く。

 その行動に意味はないのだが、悪意が膨れているので沙織に関する何かしらの情報が欲しかったのかもしれない。


 三体のぬいぐるみは、取るに足らないパーティーが今更来ても問題ないと放置しており、前回のように煙に巻くような事はしなかった。


 やがて沙織とヒスイはいつもの薬草採取場に到着する。

 一見すると、一種類の雑草が数多く生息しているように見える場所。


「これは……ここが薬草採取場じゃないか?」


 ようやく口を開く正樹。


 ギルドで聞けば、本当に嫌そうな顔をされるが教えて貰えるであろう場所。


 しかし、ここまで落ちぶれた状態で今まで経験のない依頼を受けるわけには行かずに、正樹達の誰も薬草採取場について聞く事は無かった。

 今は何をおいても確実な収入を得たかったからだ。


 正樹と愛子の視界の先では、沙織とヒスイが腰をかがめて何かを探しており、時折遠目ではそこらに生えている雑草のように見える草を採っている。


「おい、これが薬草だろ!なんでここに来たか自分でも分からないが、俺達も採るぞ。運がよけりゃ、相当稼げる。そうすれば、こんなつまらねー町とはおさらばだ」

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