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到着地は?

 沙織と詩織の学年は一クラス。人数は20人だ。

 そこに、担任である愛子、そして引率の教師が一人ついている。


 飛行機に乗り、空港からバスに乗って移動する。


 沙織は初めての飛行機に少々怯え、制服の中に忍ばせている鳥坊をそっと撫でる。

 沙織のイメージでは、万が一の際には鳥坊が空を飛べるので、助けて貰おうと考えていたのだ。


 もちろん沙織の心配は杞憂に終わるのだが、そんな不安を一人寂しく感じている沙織と違い、周囲のクラスメイトは離陸の瞬間や着陸時には大はしゃぎだった。


 到着した空港は東京の羽田空港。

 そこから、隣県である千葉県の某テーマパークに向かってバスが進む。


 実は由香里は引っ越す前は千葉県に住んでおり、クラスで唯一某テーマパークに行った事がある人物だ。

 その由香里を中心にクラスメイトは沸き上がっていた。沙織を除いて……


 どのアトラクションが楽しめるか、どのような順番で行くか、興奮した状態で周囲と話しているクラスメイト。

 沙織は誰からも声を掛けて貰えないので、一人で勝手に行動する事になっていた。


 教師もその事実を把握しているのだが、何も言ってこない。


 沙織としては、適当にブラブラして時間を潰しつつ、販売されているぬいぐるみを眺めて裁縫の技術の糧としようと考えていた。


 そんな中、とある国道の進行方向右側に海が見え、その進行方向には明らかにテーマパークと言う主張を繰り広げている場所が視界に入ってきた。


 この時のクラス中の興奮は最高潮に達していた。ただ一人、沙織を除いては。


 その沙織だが、ボーっとテーマパークを見つめているのだが、上空に渦巻く雲が急激にでき始めている事に気が付いた。


 他のクラスメイトは興奮状態で気が付いていない上に誰にも話しかける事が出来ないので、不安を隠しつつも制服の中の三体に触れつつ不安を払拭しようとしていた。


 だが、その雲は厚みを増し、やがて不自然にバスに向かって来た。


 次の瞬間……

 一瞬窓の外が真っ暗になったと思うと、再び周囲が見えるようになった時にはテーマパークの姿は一切なくなっていた。


 窓の外を見ると、どうやらどこかの建物の中のようで、比較的早い速度で動いていたバスも、何の衝撃もなく停止しているようだ。


 最高潮のテンションから、違ったベクトルで興奮しているクラスメイト。


「何が起きたんだ?」

「えっ?何これ??」


 何が起こったかなど、理解できる人物がいるわけはない。

 テーマパーク周辺の地理に詳しいはずである運転手ですら唖然としているのだから。


 そこに、突然一人の人物がバスの中に現れた。


「皆さん、ようこそお越しいただきました。私は(みどり)と申します。皆さんと同じ、日本人の血が流れています」


 まるでここは日本ではないと言わんばかりの物言いに、引率の教師とクラスのやんちゃな男である幸次が席を立って、翠と名乗った女性の元に近づいていく。


「突然現れて何を言っているのかな?君の物言いは、まるでこの事態を引き起こしたのは君だと言っているように聞こえるが?」


 まずは比較的冷静に話ができる引率の教師が問いかける。


「ええ、その通りですね。私の母も今のあなた方と同じ状況であったと聞いています」


 何とも理解しがたい事を伝えてくる翠。

 目の前の楽しみを奪われた学生としては、その落ち着いた物言いに怒りが抑えられないのか攻撃的になる。


「おい、何を言っているか分からねーが、今すぐ元に戻せ」

「それは無理ですね。皆さんを召喚するのに今回は30年間力を溜めました。ですから、送還できるほどの力を蓄えるのにも30年かかる事になります。そもそも、召喚の実績はありますが、送還の実績はないので、安全の保障は出来ませんが……」


「はぁ?お前、舐めてんのか?痛い目見たくなかったら、今すぐ何とかしろよ!」


 目の前にいる翠に殴りかからんばかりの勢いで詰め寄る幸次。

 とりあえず現状の理解は出来てはいないのだが、暴力を止めようと背後から幸次を抑えようと動く引率の教師。


 だが、次の瞬間幸次は吹き飛ばされ、その背後にいた引率の教師も共にバスの後方に吹き飛び、バスを破壊して外に消えた。


 どう考えても致命傷。まるで巨大なダンプカーが高速で衝突したかのような攻撃が繰り広げられたのだ。


 幸か不幸か、バスの一番後方の席には単独で端に座っている沙織しかいなかったので、引率の教師の他には、更なる二次被害はなかった。


 そんな攻撃、いや、攻撃である事すら理解できないバスの中のメンバー。

 どう見ても華奢な体で、少々重い物すら持てなさそうな人物である翠が手を前に突き出している事から、この女性が攻撃した事だけは理解する事が出来ていた。


「まったく、もう少し落ち着いて話を聞いていただけませんかね?」

「ふ、ふざけるな。お前は何をしているんだ?」


 バスすら破壊されて、翠の横に位置する運転手が思わず叫んでしまう。


「煩いと言っているのですよ?」


 その言葉と共に、バスの運転手はなぜか倒れ込むように前のめりになって動かなくなってしまった。


 その姿を見て生徒達が悲鳴を上げそうになっているのを必死で堪えている状況の中、翠は満足そうに頷くと、説明を始めた。


「静かにして頂けて何よりです。こちらの指示に従って頂ければ、このような事にはなりませんよ?」


 華奢な腕で運転手を軽々と持ち上げて、既に破壊されているバスの後方に投げ飛ばす翠。

 その結果、この場で誰一人として口を開けるような強者はいなかった。


「では説明を始めましょう。この世界は地上、地下にそれぞれの国家が存在しており、残念ながら皆さんが生活をしていた日本のように平和ではありません。常に国家間で争っているのです。私も母から日本の話を聞いて、羨ましく思ったものです」


 ここまで異常な力を見せつけられているので、ここが日本でない事は薄々理解してしまっている学生と担任の愛子。


「ある時、とある国家が異世界から召喚した人物が強力な力を得る事を発見したのです。その当時はその国家がかなり優勢になり、このクイナ王国も甚大な被害を受けました。当然我らもその秘密を暴き、力を溜めて同等の力を得るべく定期的に召喚を行っているのです」


 事実は少々異なるが、翠は今この時点で完全な真実を伝える事はしなかった。

 その事実とは、確かにとある国家が新たな力を得るために模索している中で異世界召喚を実行した。

 当然送還の技術などは確立されていない。


 そこで召喚されたのは、この場にいる者達と同じ学生の一人。

 そう、たった一人だけだったのだ。


 動揺した一人にこの世界についての説明と、自らの国家の助力を強制したのだが、召喚された者は素直に従うわけもない。


 その理不尽な行動に対する怒りを爆発させ、召喚によって得られた強力な力でその国家を破壊したのだ。

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