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相変わらずの性格(レベルE)

 とある日、ヒスイとレベルEの二つのパーティーは同じタイミングでギルドに納品に行く事になってしまった。

 あくまでも偶然だ。


「ヒスイさん、お疲れ様です。今日もありがとうございます!」


 いつもの通り、心からの笑顔でヒスイを迎える受付。


「こっちこそ、いつもすまないね」


 ほのぼのとした空気が流れる中、ヒスイは採取してきた薬草を受付に提出する。

 既に熟練の域に達しているので状態はすこぶる良く、薬師からもヒスイの薬草を指定で入手したいと言われている程だ。


 ただ、残念な事にヒスイはレベルFであるが故に冒険者登録は出来ない。

 本人もするつもりはないのだが、実績による買取加算が行われないのだ。


 しかし、薬師からの指名依頼のような形もある事、ギルドとしても遊技施設周りに住む召喚者の犠牲になった親族達に対して保証をしたい事から、比較的高値で購入していた。


 納品の量によって差はあるのだが、一回の納品で平均的に二万円を支払っていたのだ。


 既に老齢と言っても良い年齢の女性が一人で受付に納品に来ているのを見て、丁度鉱石を納品に来ていたレベルEの八人は、何故このような女性がギルドにいるのかを不思議そうに見ていた。


「これが今日の納品だ」

「私達はこれです」


 やはり偉そうに納品する正樹。

 同時に、愛子の方も納品する。


 報酬がパーティー別になるので、行動は共にしているが採取した鉱石の提出や報酬は全く別で管理していたのだ。


 最近は行動すら別にしようと互いに言い始めており、その分岐点となる条件も決定しているので、間もなくこの二つのパーティーは完全に二つに分裂するだろう。


 そんな中、ヒスイに視線が向いている八人に気が付いた受付は、ギルドの仕組みを簡単に説明した。

 そう、実績はつかないが、冒険者でなくとも納品する事は可能である事を……そして、今薬草を納品している女性は安定して納品してくれている優秀な方であるという事を。


 その話を聞いて納得した八人だが、相変わらず心根は腐っているので、受付の説明に対して悪意ある感想を持っていた。


「あの年齢で毎日納品か。余程貧乏なんだろうな。ご苦労なこって」

「そうね、大変そうね。私は、あんな惨め(・・)にはなりたくないわね」


 正樹の言葉に、教師である愛子ですら同意して見せたのだ。

 当然その後ろにいるレベルEの全員が、同意するような話をしている。


 その話を目の前で聞いていた受付は、この二つのパーティーが観察対象になった事が正しかったと理解すると共に、現状をギルドマスターに報告する事にしていた。


 しかし、受付としての技量は非常に高いので、内心に怒りを押しとどめながら淡々と業務をこなした。


「本日の報酬は、各五万円になります。ご確認ください」


 しかし、やはり感情を完全に押し殺す事は出来ないので、完全に事務的な対応になっていたのは仕方がない。


「お、ようやくここまで来たか。じゃあ約束通り、これからは別行動だ」

「そうね、正樹君達も気を付けてね」


 この二つのパーティー、行動方針に大きな違いが出来ていたので、受け取る報酬が五万円を超えた時点で別行動をする事に決めていた。


 正樹達のパーティーは、鉱石採取ではなくもっと稼げる依頼を受けるべく行動したいと主張し、愛子達のパーティーは安全に、且つ安定して稼ぎたいという主張でぶつかっていたので、こうなる事は必然だった。


 こうして互いに報酬である五万円を手に取ろうとしたときに、隣の受付と話していた声を聞いて、二人の手が止まる。


「それではヒスイさん、こちらが報酬の二万円(・・・)になります」

「ありがとね」


 ヒスイが受付からお金を受け取ろうと手を伸ばしかけた時に、思わず正樹が口を挟む。


「ちょっと待て!」


 正樹たちの対応をしている受付と、正樹の怒りの含まれた声を聞いたヒスイとヒスイの対応をしている受付も、正樹を見る。


「おい、その報酬はどう言う事だ?冒険者登録をしている俺達の鉱石が一人当たり一万二千五百円。お前の納品した薬草が二万円?俺達は実績による加算もついているはずだ。何だ、この差は?おい、お前。なんで俺達に薬草採取の依頼を紹介しなかった」


 怒りの表情で、自分達を担当している受付を睨む正樹。


「薬草採取には経験が必要です。鉱石はそのまま持ち込めば価値は変わりませんが、薬草は採取から運搬に至る過程で、大きく品質が変動します。何も知識のない方が持ち込んでも、数十円にしかなりませんよ?」


 受付としては事実を説明しているのだが、正樹達は納得する様子を見せなかった。


「だったら、俺達のもその知識を与えれば良いだろうが!」

「そうよ、あんなババァ(・・・)でも出来るような依頼、私達であればすぐにでも出来るわよ」


 正樹の攻撃に京子も追撃を加えるが、受付は表情を変化させる事は無い。

 隣の受付に至っては、我関せずとばかりに業務を再開し始めて、さっさとヒスイを帰宅させていた。


「随分と失礼な物言いですね。良いでしょう。希望があれば薬草採取に関する講習を行います。実地も含めて二日ほど必要になりますが宜しいですね?」


 受付側としては二日も依頼を受けられないとその間はお金を得られず、宿泊すらままならないだろうと言う配慮もあったのだが、ここまで言われてはそのような配慮をする必要はないと判断した。


「当然その間の報酬はありません。明日にでも受講されますか?」


 二日も実入りが無くなると困るのは事実で、その現実を知った正樹を始めとしたレベルEは途端に大人しくなり、スゴスゴと引き下がった。


「流石は初日から監視対象になるだけはありますね」


 受付の独り言に、同僚達は深く頷く。


「クソ、ふざけやがって。こうなったら、あのババァの後を付けて技術を盗むか、直接教えるように言ってみるか?」

「それがいいわね。あの様子であれば、毎日納品しているみたいだし」

「だけど、冒険者じゃないって言う事は、受付で依頼を受けているわけではないでしょ?そうなると、ギルドに向かわずに、家から直接現場まで行っているんじゃないかしら?先ずは薬草採取をどこで行っているかを調べないと」


 こうして、悪意溢れるレベルEに目を付けられてしまったヒスイ。


 ギルド職員はギルドマスターから召喚者の情報を得ているので、沙織の事も知り得ている。そう、レベルEの一行と共に王都を追放された沙織の事を……


 そして、その沙織については、ヒスイから話を聞いていたのだ。

 もちろん、ギルドの受付で堂々と話すのではなく、レベルEの一行が冒険者登録をした話を聞きつけたヒスイが、受付に頼んで個室でギルドマスター同席の元説明したのだ。


 その結果、レベルEの面々がある程度生活基盤が確立できた時点で、沙織の存在を明らかにしても問題ないだろうと判断していた。

 そして、今日のヒスイの納品時には、沙織についてもう問題ないだろうと言う結論が既に伝えられていたのだ。

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