レベルEの冒険者(2)
ともあれ、無事に鉱石を入手して手持ちで受付まで到着する一行。
「お疲れ様でした。では実績を記録しますので、皆様順番に水晶に手を置いていただけますか?」
今回は、一応レベルEの獣についても運んできているので、かなり安いが買い取りされるし、実績にもなる。
もちろん、隼人、正典、俊彦、正樹の男四人パーティーの方に、少ない実績が追加で記録された。
もう一方のパーティーは、正樹達のパーティーとは異なり全て女性で、教師である愛子を筆頭に、京子、優香、千穂の四人だ。
雀の涙ではあるが、受け取る報酬にもパーティーの間では差が出る。
しかし、今回の差は分割できないほどの誤差ともいえる差額であったので、誰からも文句は出なかった。
この時点で、正樹一行が倒した獣の報酬がゴミのような物である事は理解できるはずだが、教師である愛子すら気が付かなかった。
実は、報酬は円で支払われたので日本と同じである事に驚き、そこまで意識が向かなかった事も有る。
「とりあえず、これで適当な宿には泊まれるだろ?」
それぞれのパーティーに渡された金額は、正樹側が4万307円、愛子側が4万円だ。
つまり、今回倒したレベルEの獣の金額は307円という事になる。
獣の状態が悪かった事も有ってこの値段なのだが、実際は、このラトルと呼ばれているネズミに似ている獣は、状態が良くても千円程度の報酬しか出ない。
レベルFの民でも、武器を持ち複数で襲えば始末できる程度の獣であり、一人で遭遇したとしてもあまり好戦的ではない獣である事、草食である事から、命の危険が無い為に、報酬も低く設定されている。
こうして初めての依頼を達成する事が出来たレベルEの八人は、受付に宿までの道のりを聞くと早々とギルドを後にした。
熟練の冒険者であれば、明日行う事が出来る依頼や、何かしらの有益な情報について受付と話し込む事があるのだが……
受付としては、その辺りの説明をしようか迷っていたのだが、自分が想像していた以上に態度が悪いレベルEの召喚者達を見て、暫くは様子を見る事にしたのだ。
ギルドマスターにもこの件は伝わっており、ギルドの総意として、登録初日にして要観察対象と言う異例の事態になったのだ。
「ここか……」
指定された宿に到着した八人。
二日前までは王城にいたため、外観を比較すると相当ランクが下がる見かけに気落ちしていた。
受付としては、与えた報酬に見合った宿を紹介したのだから仕方がない。
「ま、野宿よりましだろ?俺達も慣れてくればもう少し稼げるようになるさ」
「そ、そうよ。俊彦君の言う通りよ。それに、日本でも数時間で一人一万円を稼ぐなんて大変なのよ?」
珍しく愛子が口を挟んできた。
だが、この中では唯一の社会人経験者であり金銭に関しての知識も一番ある事から、正樹も含めて全員が一先ずは納得した。
この宿は王城での生活とは異なって、小さいながらも個室になっていた事から、全員のテンションが上がったのは言うまでもない。
しかし、夕食、朝食込みで一人一万円。
女子パーティーに至っては、一円も残っていない状態になっていた。
翌朝、食堂で食事をしている時……
「昨日の依頼、常時受け付けていると言っていたわね。そうすると、もう少し鉱石を運べればゆとりができるかしら?」
愛子の発言に、残りの女子パーティー三人が同意する。
「そうね。そうじゃないと、休みなしで働く事になりそうだし」
「その内、安全でもう少し実入りの良い依頼を紹介されるんじゃないの?」
「そもそも、実績を積めば購入金額が上がるみたいよ?」
ある程度今後の生活を見越した話をしているのだが、一方の正樹を筆頭とした男子パーティーは違っていた。
「個室で眠れたのは良いけどよ、もう金残ってねーぞ」
「そうだな、今日はもう少し稼げる依頼を貰う事にするか?」
「そうしようぜ。俺、その内またあの遊技施設に行きたいからな」
「そうだな、あそこは楽しかったな」
と、全く現実が見えていなかったのだ。
当然、鉱石採取以外の依頼を受けられるわけもない。
冒険者登録をして一度しか活動していないので、不安もあって両パーティーは暫く共に行動する事にしていた。
その後は毎日毎日ギルドに顔を出して、受付から常時依頼の鉱石採取を受注し、夕方に納品すると言う、その日暮らしの生活を続けていたのだ。
かなりの不満はあるのだが、実際は王城での生活よりも自由があり、結果的に宿泊時は個室になっている事から、何のトラブルもなく順調に活動できるようになっていた。
こうなると、人間とは欲深い生き物で、より質の高い生活を欲するようになるのだ。
普通の生活が幸せであると思える人間は、かなり不遇な扱いを受けていた人にしかできないのかもしれない。
召喚者である正樹達にとって、今が普通かは分からないが。
こんな生活を続けていたので、お金に余裕がなかった事、知識がなかった事、日本での生活に慣れてしまっていた事が相まって、依頼を実施している最中の昼食は取る事が出来ていなかった。
しかし、時折現れるラトルが食べられるという事に気が付いて、昼食にする事が出来ていたのだ。
その為に、わざわざラトルを探しに鉱石採取場までの正規の道を外れて活動する事すらあった。
その知識は受付側から教えて貰ったのではなく、偶然俊彦が受付に問いかけた結果によるものだ。
受付としても、本来であれば何も知らない冒険者、特に召喚者である正樹達に対しては有用な知識を教えた方が良いのだが、観察対象になっているような人物には聞かれた事に応えるのみに留めていたのだ。
その時のやり取りはこのような感じで、この世界の生活に慣れてしまったため、俊彦でさえ素の性格である他人を見下す姿勢が滲み出てしまっていた。
「なぁ、時折俺達が納品してやっているこの獣、ラトルだっけか?これは何に使うんだ?しけた金額だが、買い取っている以上は有効活用するんだろ?」
「……こちらは、食堂に卸しています。火を通す事によって安全に食べる事が出来ますので、人気の食材です」
と、こんな感じだ。
当然初めて現場で火を通して食べようとした時には、解体の知識もなく、見た目からか、誰も口にしようとはしなかったのだが、無駄に度胸のある正樹が強引に口に入れて咀嚼した。
もちろん火については、レベルEの力をつかって魔法で焼いた。
固唾を飲んで正樹を見守るレベルE。
「何だこりゃ、うめーぞ」
こうして、食糧事情も改善される事になっていたのだ。
だが、相反するようにギルドからの対応については悪化していた。




