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レベルEの冒険者(1)

 ガイラスが討伐される一日前……ギルドの受付には、レベルEの集団が訪れていた。


「冒険者登録をしたいんだが……」


 代表して、俊彦が受付と話をしている。

 その他の面々は、冒険者ギルドの壁に貼られている依頼書が読めるか確認しに行っているようだ。


 遊技施設からここに辿り着くまで相当迷って歩かされているので、さっさと稼いで休みたいと思っている俊彦が、受付と交渉する事にしていた。


 何故か会話は日本語のまま通じるので、文字も問題ないと思っている俊彦。

 予想通り、規約らしき書類を提示されたが、全て問題なく読む事が出来ていた。


 それによれば、


・冒険者同士の争いは余程の事が無い限りご法度。当然依頼の阻害行為もご法度

・ギルド内部での争いは理由如何に係わらずご法度

・国家からの招集には応じなくてはならない

・レベルFは、冒険者登録は出来ない

・レベル相応の依頼を受け、基本的にはギルドの指示に従う事


 とあった。


 国家による強制招集の所だけは渋い顔をしてしまったが、その他は特に問題がないので、依頼書が提示されている部分にいる他の仲間を呼び寄せる。


「それでは、レベルがE以上である事を確認させて頂きます」


 受付は、何やら鑑定の出来る人材を手配している様子であったため、俊彦は腕輪を見せる。

 当然そこにはEと言う文字が見えるのだ。


 その腕輪の意味は、城下町の人々は当然知っており、ギルド職員も例外ではない。

 むしろ、ギルド職員の方が良く知っているだろう。


 その表示を見た受付は、表情を一切変える事無く鑑定士の手配を中断し、満面の笑顔を浮かべ、立ち上がって深く礼をする。


「確認させて頂きました。皆様が今回の召喚者様ですね?よろしくお願いいたします」


 このギルドに登録しているレベルE以上の者達は、三十年前の召喚者所縁の者がほぼ全てだ。そして、ギルドに登録している者の親である召喚者は、遊技施設での騒動において民の味方をした者。


 つまり、ギルドとしては、王族や貴族関連から弾かれた召喚者と言うのは印象がすこぶる良いのだ。


 そんな事は知らない俊彦や、昨日から機嫌がすこぶる悪い正樹も、受付の態度を見て機嫌が良くなってくる。

 自分達を特別な存在として敬っている態度であったからだ。


 この二人や、教師の愛子を含むレベルEの八人は、これで野宿と言うような無様を晒さなくて良くなると安堵していた。


 心に余裕ができた八人は、受付に指示されるままその手を水晶のような物の各自が触れていく。


「皆さまの登録、終了いたしました。特に冒険者としての身分を証明するようなものはありませんが、どこのギルドに行かれても納品の際には、都度水晶に触れて頂く事になります。この水晶で、皆様の実績は全て管理されておりますのでご安心ください。それでは、これかのご活躍をお祈りしております」

「あぁ、全てこの俺達に任せておけ」


 既に機嫌が良くなっている正樹は偉そうに受付に宣言しているのだが、実際はこのギルドで最弱である事をわかっていない。

 その為に、正樹の宣言を聞いた受付の笑顔に若干の呆れがある事に気が付いてはいなかった。


 当然ギルドに登録した時点で、各自のレベルも把握されている。

 勝手にレベル以上の依頼を受けようとしても、受付で弾かれるのだ。


 この措置は、冒険者の安全確保と共に、二次被害を防ぐために必要な行為だ。

 だが、勝手に依頼を遂行した後に、結果だけを伝えに来る事も出来てしまう。


 そのために、冒険者登録時の規約に記載されている項目があるのだが、基本的に今までの冒険者達は良識があるので、ギルドの指示に従っているし、偶然レベル以上の獣を見つけ、民に被害がありそうな場合は、緊急的に一部の冒険者が出来る範囲で対応し、直ぐにギルドに応援を頼んでいた。


 こうして現時点では順調に機能しているギルドにおいて、八人もの毒素となり得る召喚者が混入されたのだ。


 レベルEの一団は八人にもなっているので、受付のアドバイスもあって、四人に分割した二つのパーティーとして登録している。

 これは、その四人の中で実績を当分に配分できる仕組みになっているので、正樹は不満そうな顔をしていたが、残りの賛成の意思によって行われていた。


「で、早速依頼を受けたいが、俺達召喚者はこの世界の事が良く分かっていない。慣れる為にも、適当に見繕ってくれないか?」


 俊彦が受付に頼むと、受付は手元の資料を素早く見て一枚の紙を提示してきた。


「これは如何でしょうか?常に依頼が出ている魔道具の原料になる素材の入手です。この近辺にはレベルE相当の獣がおりますが、単独行動を行っている獣ですので、皆様であれば問題ないと思います」

「は?そんな地味な依頼じゃなくて、もっと俺達が活躍できる物はないのかよ?」


 依頼の内容を聞いていた正樹が、横から口を挟んでくる。

 正樹としては、日本で得た知識から相当な強さの獣を始末して、一躍ギルドでのヒーローになる事を夢見ていたのだ。


「正樹様、先ずは依頼に慣れて頂く事が先決です」


 流石は受付、この正樹の暴言にもにこやかに正論で返す事が出来ている。


「この人の言う通りだ正樹。俺達は何も知らない。まずは経験のある人が勧めてくれた依頼をこなしていくべきだ」


 俊彦にも宥められ、渋々ではあるが黙る正樹。


「それでは、その依頼をお願いします」


 こうしてレベルEの一行は、初めての依頼に出向く事になった。

 当然目的地も分からないので受付の丁寧な説明を全員で聞く必要があり、出発は受付を行ってから一時間以上が経過してからだった。


「は~、なんだか思い描いた冒険者とちょっと違うわね」

「仕方がないでしょ?でも、慣れればまた違ってくるんじゃない?」


 レベルEの一員である千穂と優香は、これで野宿しなくて済むと言う思いから、比較的軽い気持ちで依頼の場に向かえていた。


 そこそこの距離があるのだが、レベルEになってからは日本の時とは違ってあまり疲れなくなっていたので、特に問題なく現場に辿り着き、目的の鉱石を拾っていく。

 その間、隼人、正典、俊彦、正樹の四人は、受付からアドバイスを受けた通り、鉱石を拾って無防備になっている仲間の護衛を行っていた。


 正樹については何かを拾うような行動をしたくなかっただけで、護衛の方が格好も良いと言う勝手なイメージから護衛をしているだけだ。


 王城で少しは訓練をしていたので、一度だけこちらを伺っていた獣は四人で瞬時に始末する事が出来ていた。


「やっぱり俺達はゴミ拾い(鉱石採取)なんてする必要はないと思うぜ?さっさとこう言った獣共を始末する依頼を受けようぜ!」


 倒した獣はレベルE相当で四対一であったにもかかわらず、労せず始末する事が出来て増長する正樹。


 何も知らない残りの三人も、自信満々の正樹の言葉と王城の連中に見返したいと言う気持ちもあった事から、否定する事はしなかったのだ。

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