冒険者達
ギルドからの依頼を受けていた冒険者一行。
全員のレベルがCと言う、最高戦力に近い四人組のパーティーだ。
そのパーティーに指名依頼が入るのだから、相当高難度な依頼である事は理解できる。
「今日はガイラスを仕留めて貰いたい」
ギルドに呼び出されていた一行。代表の男が受付にて依頼の詳細を聞く。
「ガイラスか……」
依頼の内容、具体的な討伐対象の獣の名前を聞いて渋い顔をする。
当然だ。
ガイラスと言う獣、人のレベルで換算するとBからCの個体。場合によってはBの上位に位置するとも言われている。
冒険者側の唯一の利点としては、独立意識が強く、決して群れる事が無いと言った所だ。
「薬草群生地からかなり離れた場所に生息しているのが確認されているが、何時縄張りを広げるか分からない。あの場所はかなりの人が薬草を採りに行っているから、安全を確保しておきたいんだ。それに、王都側に縄張りを広げないとも限らない」
「そうは言っても、王都には翠がいるだろう?」
翠のレベルはAであると知れ渡っている。
当然ガイラス程度は瞬殺できるレベルであるのだ。
「確かにな。だが、あの人は王都に関連する場合は動けるが、そうでなければ動けない。その為に俺達冒険者ギルドがあるんだ」
「ああ、わかっているよ」
諦めたように代表の男は呟き、依頼書を手に取る。
「こりゃ久しぶりに難儀な依頼だ」
そう呟きながら受付をしてくれているギルドマスターから離れ、仲間の待つ方向に移動する。
その表情を見ていた残りの四人は、かなり高難度な依頼が来たと判断して表情が少々強張っている。
「お~い、今回はガイラスだ」
軽く伝える男だが、残りの四人は渋い顔をしている。このクラスになると、ほぼすべての獣の情報は嫌と言う程知っているからだ。
このパーティーは、既にガイラスの討伐実績がある。
そのために今回選抜されたのだが、その時の個体はC寄りのBと言った個体であったのだが、かなり苦戦していたのが事実だ。
本来はもう少し安全に討伐できるパーティーを選抜するのがギルドの仕事なのだが、あいにくガイラスレベルになってしまうと、対応できる冒険者に限りがあるのだ。
その中で、安全に対応できる人物は存在しなかった。
翠を始めとした王都関連の者達を除いて……になるのだが、そもそも彼女達は冒険者ではないので、助力を求めるわけには行かなかった。
こうして渋々ではあるが、冒険者パーティーはガイラスの討伐を受注する。
ガイラスが目撃されているエリアに侵入して、慎重に歩を進める冒険者達。
「いたぞ。あの中腹だ」
冒険者の一人、健司が指し示す先には、確かに見た目がトラのような獣が悠々と歩いていた。
「今回の個体は……デカイな。以前の個体よりも強いのは間違いないだろうな」
一目見てかなりの苦戦を強いられると覚悟したパーティー一行。
だが、ここで退避するわけには行かない。
ギルドからの依頼を受けた以上、完遂する必要があるのだ。
「俺達もかなり修行したんだ。その成果を見せる時がやってきた!」
鼓舞するようにリーダーの健司が小さく呟くと、全員に気合が入る。
そもそも、彼らはレベルC。普通の住民では決してたどり着ける事の無い高みにいるのだ。
但し、同じ召喚者所縁の者でありながら王都関連の高レベルの者と違うのは、レベルが記載されている腕輪、特権の得る事が出来る腕輪をしていない事だ。
三十年前の召喚者の一部が市井の者と結ばれて、やがて子供が産まれ、その者達が冒険者になっているのだ。
当然、王族や貴族とは大きく立場が違っているので特権階級とは認識されておらず、そのために腕輪もしていない。
つまり、冒険者はどちらかと言うと、王族・貴族寄りではなく、市民寄りであると言えるのだ。
そんな冒険者一行は決死の覚悟でガイラスを囲うように移動して、ついに戦闘が始まる。
もちろん初撃は遠方からの魔法攻撃なのだが、かなりレベルの高い個体の様で、魔法がガイラスに届く前に気配を察知され、難なく躱されてしまう。
当然その程度は想定範囲であり、万が一にも攻撃が当たれば良いと言う思いでいた冒険者達は、連続して近接戦闘に切り替えて攻撃をする。
だが、背後からの攻撃でさえもガイラスは防御して見せたのだ。
後方からの攻撃は、後ろ足で簡単に弾かれる。
弾かれた冒険者は瞬時に魔法によって攻撃しつつ、再び近接する。
しかし、その魔法はガイラスには届かない。
ガイラスは冒険者の物理攻撃を防ぐと同時に、魔法による防壁を作成していたのだ。
「こいつは戦いなれていやがる」
思わずリーダーの健司の口から憎々しげに言葉が漏れる。
必死で食らいついている冒険者だが、傾斜の厳しい場所での戦闘であるが故に少々動きに精彩を欠いていた冒険者。
ついに包囲していた一角を担当している理沙が破られてしまったのだ。
「大丈夫か!」
吹き飛ばされた理沙に声を掛けつつ、何とかこの場でガイラスを仕留めようと必死で攻撃する残りの三人。
だが、四人で攻撃した時ですら劣勢は否めなかったのだ。三人で対応できるわけもなく、攻撃ではなく、逆に防御を行う方が多くなっていた。
ガイラスは鬱陶しそうに攻撃しつつ、一旦この場を後にしようと高速で移動を始めた。
丁度吹き飛ばされた一人の冒険者が担当していた方向、その先は、薬草の群生地だ。
その事に気が付いた冒険者は、必死で防御から攻撃に切り替えるが、その分隙が生まれてしまい、ガイラスの攻撃を受けてしまう。
冒険者達の動きがまるでレベルFであるかのように落ちてきた頃、既に勝利を確信したガイラスは冒険者に興味を失ったかのように方向転換し、再び薬草の群生地の方に高速で移動し始めた。
必死で後を追うが、ぐんぐんその姿は小さくなっていく。
次の瞬間……
冒険者の視線の先一帯が全て一瞬で真っ白になったのだ。
思わず目を瞑り、暫くは視界を確保する事が出来なかった冒険者。
ようやく視力が戻って来た時には、遥か先にいたはずのガイラスは黒焦げになっていたのだ。
「何だこれは?誰がやった?」
何が起こったか分からない冒険者。思わず心の声が口から零れる。
唯一わかるのは、自分が理解できない力でガイラスが攻撃された事だけだ。