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召喚者のトラブル(1)

 レベルが一つ違うだけで繰り出せる技の威力は格段に違っていた。正に別格と言っても過言ではない。

 つまり、レベルがそのまま戦闘力に直結しているのだ。


 そんな中で、クイナ王国が行った今回の召喚者の最高レベルはB。


 他国に潜入させている間者の情報によれば、一般的には中々出ないレベルBが二人も出たのだから、クイナ王国の召喚は大成功と言っても良いだろう。


 当然クイナ王国側も自国に他国の間者がいる事は想定済みではあるが、レベルBが複数召喚された事、そしてその潜在レベルと同等の実力を得た事が知れ渡れば、戦闘をせずに優位に事が運べる可能性がある為、情報漏洩に対しての対策は行わなかった。


 これが悪い方向、例えば全てがレベルFであれば、かなり厳しい情報統制が引かれていたに違いない。


 そのような期待を受けている高レベルの召喚者達は、レベルに応じた待遇を受けていた。


 最高レベルのBの二人である詩織と宗次については、有り得ないほどに広い部屋を与えられ、訓練時以外は自由気ままに生活していた。


 もちろん準ずる強さを持つレベルCについてもかなりの広さの部屋を分け与えられているのだが、正直日本での立場から、レベルCの昭は、レベルBの宗次の待遇に納得する事が出来なかった。


 宗次は所謂昭の手下。良いように使える使い走りだったのだ。

 その上、宗次は根暗と言うイメージが定着しているので、まるで男性版の沙織のように、話しかける者はおらず、宗次自身から話しかける事も無かったのだ。


 たまに話しかけられる事があるとすれば、昭から不条理な要求がある時だけ。


 そんな宗次が、自分よりも良い生活をしている事に納得できるわけがない。


 宗次は、以前の性格からは明るくなってきてはいるが、やはり生徒達からは受け入れられていなかったので、単独で行動していた。


 逆に、レベルは少々異なるが、常に共に行動している四人。


「なあ詩織、この間お前が宗次と俺の部屋交換を翠に進言してくれて断られただろ?いっその事、俺が直接あいつに伝えてやろうかと思うんだが」

「そうだよね。あいつ、偶然レベルが少しだけ高かったからって、ちょっと調子に乗ってるよね?」

「私は、あの根暗と話した事がないのでよくわからないけど、昭と詩織がそう言うのならばそうなのかしら?」

「俺も良く分からないな。だけど、とりあえず力にはなるぞ」


 それぞれのレベルは、レベルBの詩織、レベルBの宗次、レベルCの昭。レベルCの剛。レベルCの由香里だ。


 はっきり言って日本での力関係は全く参考にならず、現実的にこの世界で宗次の相手になり得るのは、同じレベルの詩織だけだ。


 残りのレベルCの三人が束になっても、宗次一人に勝利する事は出来ないだろう。

 だが、深層心理に植え付けられた恐怖によって、宗次の動きが鈍れば話は別だ。


 この世界での実戦経験がなく、魔法を習得してから日が浅い生徒達はこの事実に気が付く事が出来なかったのは仕方がない。


 そもそも修練場では、異なるレベルの魔法をその目で見る機会はあまりなかったのだ。

 単純に比較した状態をその目で確認できていたのは、一切の修練に参加していなかった沙織だけ。


 こうして、日本にいた頃の意識が根付いている昭は、普段は自室で食事を取るのをやめにして、食堂で食事を取る事にした。


 もちろん、いつもの四人と共に宗次を呼び出した上で……だ。


 この食堂には、狭い個室を与えられてはいるが、メイドはいないレベルDと、共同生活をしているレベルEがいつも食事をしている場所だ。


 普段見る事の無い高レベルの者達が食堂にいる事に気が付いた者は、そのメンバーを見て少々距離を取る。


 そう、いつもの四人のメンバーに宗次がいたからだ。


「おう、座れよ、宗次」


 テーブルの上に食事はなく、明らかに食事目当てでこの場にいる事ではない事だけは確実だ。


 四人に見つめられている宗次は、少々怯えつつも言われたとおりに席につく。


「お前、最近少し調子に乗りすぎじゃねーのか?偶然少しだけレベルが高かったからって、俺より良い部屋で優雅に過ごしているのは見過ごせねーな」

「そうよ、本当は自ら昭に部屋を譲るべきだったのよ」


 昭と詩織に詰め寄られ、モゴモゴしている宗次。

 流石に由香里と剛は口を開く事は無かったが、厳しく宗次を睨みつけていたので、宗次にとって十分な脅威になっていた事は間違いない。


「で、でも、翠さんがこの部屋を使えって……」

「あん?だ・か・ら、その部屋を俺に譲るのが筋ってもんだろ?違うか?お前はバカか?理解できないのか?」


 昭の恫喝に怯える宗次。


「こいつ、暫く痛い目見てないから、上下関係を忘れているみたいだな。よし、ちょっと来いよ」


 まるでどこぞのチンピラのような物言いで、強引に宗次を立たせて修練場に引き連れていく昭。

 もちろん、残りの三人も面白そうに後をついて行く。


 取り残された低レベルの生徒は巻き添えがなかった事に安堵して、ようやく食事を取る事が出来たのだが、何時再び彼らがこの場に現れるか分からないので、急いで食事を始めている。


 こうなると、いや、こうなる以前から、教師である愛子は頼りになるわけもなく、他の低レベルの生徒と同じく、必死で食事をしている始末だ。


 そんな中、修練場に到着した四人と宗次。


「ここなら、魔法をぶっ放しても二次被害は無いからな」


 そう言いつつ、拳に魔法による強化を施した上で力いっぱい宗次の腹を殴りつける。

 だが、こうなる事を予想していた宗次は、体を魔法で強化していたので何のダメージも無かった。


 全力で殴りつけたにも拘らずびくともしない宗次に驚く昭だが、そのまま宗次の髪の毛を無造作につかんで恫喝しようとする。

 しかし、宗次はその手を跳ねのけた。


「お、お前、ふざけてんのか?」


 怒りで震えている昭をよそに、宗次は自分の手を見つめた後に薄い笑いを浮かべる。


「フフフ、この世界は最高だ。理不尽な扱いを受けていた日本とは大違い。あぁ、神様っているんだな~」


 そんなセリフに一瞬呆ける昭と残りの三人だが、次の瞬間に昭は壁に叩きつけられて膝をつき、嘔吐しながら苦しんでいた。


「な、お前!」


 驚く剛にも宗次は攻撃をしようとするが、自分の交際相手を難なく捻り潰した宗次に対する怒りが湧いた詩織によって、辛うじてその攻撃は逸らされる。


「う~ん、流石は同じレベルの詩織さんだ。だけど、僕の方が少し力は上のようだね」


 同じレベルであれば、習熟具合と共に地力が勝敗を分ける。

 そして今の攻撃によって自分が上であると確信した宗次は、迷うことなく詩織に攻撃を仕掛けたのだ。

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