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今日は何を話そうか。  作者: 琴梅
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揉み消された真実は、嘘と同義かもしれない。

モドキ「私ね、ふわっとした理由で嫌われることがよくあって。ふわっとしているというか「明確な理由はないけどなんか気に入らない」という理由なんだけれど。それを私は納得できていないんだけど、周りは一定の理解のもと、それを正当な理由として「ふわっと嫌われる理由」が私にあると断定して粗探しするじゃない? あれってなんでなのかしらね?」


ナニカ「それをナニカに聞かれても·····、ナニカは人間の事がよく分からないからなあ。ただ、知識からくるナニカの意見でよかったら言えるよ」


モドキ「ふうん? なあに?」


ナニカ「ナニカはね、違う視点で考えれば理解出来なくはないんじゃないかなあ、と思う」


モドキ「違う視点? 例えば?」


ナニカ「例えば、悪意や嫌悪ではなく、一目惚れ。ふわっと「なんか良い」という理由で好きになる。そしてその後、好きになった理由を『粗探し』するだろう?」


モドキ「なるほど、たしかにそうかも。でもそれって、見つからなかったらそれで終わり、にはならないじゃない。「そんな人だとは思わなかった」て勝手に裏切られたって被害者ヅラするでしょ」


ナニカ「そういう話もよく読むよ。ナニカが思うに、人は自分の期待値を0とするからじゃないかな。何も思わないこと――何も期待していないことを0とするお前と違って、被害者ヅラをする独りよがりな期待値を0とする世論は、期待値よりも低いだけでそれはマイナスになる――本当は勝手に目測を誤った奴が悪いはずだけど、そう思わないのがまた世論で、それが正解なんだよ」


モドキ「みんながそう思うから、みんなが期待値を測り間違った場合他人のせいにするから、だからそれを正当な理由として普通に生きてるだけの――何も間違ったことをしていない観測される側に問題があると責め立てることが正解、と?」


ナニカ「簡単に言えばそうだね」


モドキ「それって観測される側はどうしようもなくない? 観測する側の不満をされる側に押し付けて、観測される側が飲み込んで解決――なんて、そんなの納得できないわよやっぱり。そんなの、先に攻撃したもん勝ちじゃない。加害者擁護も甚だしい」


ナニカ「そう言いたいのは分かるが、他人の期待は悪いことじゃないだろう? だからするなとも言えないはずだ。その期待値がプラスかマイナスかは、後からじゃないと分からない。ナニカはモドキのことを期待以上だと思ったし今だってどんどん大好きになっていくが、お前を嫌う人はモドキを期待以下だと思った、それだけの話なんだよ」


モドキ「うーん? 期待という耳触りのいい言葉で表すのも、よくないわね、それだと。ようは想像通りか否かってことでしょ。自分より下だと思った人間が以上だった、というのもまた「裏切られた」ということになるわけだし、それが癪に障る! と思ったらそれはまた嫌いになる要因になるわけだし、型にはまらない人間は嫌いって言うのと一緒じゃないの」


ナニカ「その辺は人それぞれかなぁ。ハグレの場合は型にはまらない人間を見ると面白くなるって言っていたよ」


モドキ「うーん、それもそうね。それなら想像するのも期待するのも、外れる前提でいることはできないのかしら」


ナニカ「外れる前提?」


モドキ「その通りでなかったときに「そういう人なんだな」ってデータ自体を書き換えるの。その人は今まで通り普通に生きているだけで何も変わってなんかいないんだから、想像や期待通りではなかったのはそもそも目測を誤ってた方が悪いじゃないの。間違えていたのは自分の方なら、想像や期待は独りよがりのただの憶測であることを認めるべきよ」


ナニカ「うん、まあ確かに」


モドキ「私が最初に言った人に嫌われる――人を嫌うって、その書き換えをしないから起こることだと思うのよ。人の意外性を受け入れて書き換えることができるタイプの人間は受け入れられずに押し付けるタイプの人間からしたら一枚も二枚も人として上手だから癪に障るのでしょう。そして癪に障ったから、嫌いになって無闇矢鱈と攻撃してくる――という流れになるわけで。でも、その人が勝手に設定した期待や想像は明確な理由や根拠を元にしたものじゃないから、常に『何故嫌いになって攻撃したのか』と聞かれるとふわっとした答えしか出てこない」


ナニカ「あー、なるほど。とはいえモドキ。君は書き換えるどころか、人に期待しないだろう? 期待しないから怒りもしないし、もし嫌いになった場合はその理由を明確に分析して並べ立てるし、思ってた人とは違ってもプラスにもマイナスにも振り切らず、すぐにデータを更新する。それって悪い方にも働くんだ。なんで期待してくれないの、もっと頑張れるよって。そういう人の気持ちは考えたことある?」


モドキ「過度な期待はその人を傷つけるし、私にはその量が分からないからありのままを受け入れるポジションにいるようにはしているわ。全員がナニカの言うような期待してますよ!っていうタイプじゃあ、暑苦しいじゃない。それに、私はわりとなんでもそつ無くこなすから、私が他人に期待すると「どうしてこんなことも出来ないの」になるのよ。簡単なものは出来るものと思ってしまうでしょう? そうなると、みんながみんなお前みたいに出来るわけじゃない、だからできない人の為に出来る人間が譲歩して態度を改めろって、なるの。期待しているつもりはなくても、私が何も苦労せず出来てしまうことを他人が出来ないとか小さい頃って考えつかないじゃない。自分が普通じゃないなんて思わないもの。だからその感覚で作業を割り振ったりしちゃって反感を買ったりもしたわ。その度に出来ない人ではなく出来る私が折れてあげないのが悪いって言われてきたの。だから期待しないで相手がどこまでなら出来るかを聞くようにしてる。それでもふわっとした理由で嫌われるの。

 で、結局色々試したところで、やってたとしてもふわっと嫌われる私が悪いことになるのよ」


ナニカ「試行錯誤をたくさんするモドキが意見を求めて来た時点で、自分で考えつくものは色々試したんだろうとは思ってたけど·····」


モドキ「ふわっとした理由――具体的には他人が私の悪口を言っていたから、その悪口も明確なものじゃなくて「なんか気に入らない」というふわっとしたものだけど悪口を言われている私に不信感を持ったから嫌いになった。そんな理由が罷り通るの。なんでも出来るからムカつくって言うのもあったわね。あと美人だから気取ってるとかも――これはまあ、褒め言葉かしら? くすくす」


ナニカ「·····それは、人間社会において理不尽じゃないかい? そんなのは正しくない、正しいことだと本には書いていないよ」


モドキ「理不尽だけど、事実よ。過去に言われた事実」


ナニカ「言い返したりしなかったの? 反論すべきだ」


モドキ「したわよ? 具体的に言えって。そしたら泣かれたの。相手が泣いたら最後、泣かせた私が結局悪いのよ。私には守ってくれる人がいないから泣けないだけなのにね」


ナニカ「·····今はナニカがいるだろ。それからハグレだって駆けつけてくれるさ」


モドキ「いないわよ。私にとって、学校や私が身を置くコミュニティに属している人間すべて、信用していないもの。誰がどこで私の悪口を言っているか分からないなら、私には火種になりたくないから誰にも言わないし、誰の前でだって悲劇的になってたまるもんですか」


ナニカ「それじゃあずっと繰り返し嫌われるじゃないか」


モドキ「それでも、そうしなければ生きにくい以前に生きる、ということすらできないの。生きるためには生きにくくなるしかなかったのよ。私が弱いままでいられるほど周りは助けてなんてくれなかったから、私は一人でどうにかするしかなかったし、何ともないって顔して自分を守ることでしか〝生き続けること〟が出来なかった。

 だから納得いかないのよ。証拠を揃えて真実だと言っても、真実とわかった上で私に折れろという社会が許せないし、納得できないし、信用できない」


ナニカ「生きやすく生きようとは思わないのかい?」


モドキ「生きやすく生きようと思ってるから、未然に防ぐよう努力しているんじゃないの。期待せずつつがなく生きられるようにニコニコしてるわ。やらなければならない仕事はやって、人ともそれなりに話をして、みんなが答えている普通の答えを自分の答えのように言ってみたり、出来なさそうなら分からないと正直に言ってみたりしているわ」


ナニカ「言うほど出来てないんじゃないから、違和感があるんじゃないのかい?」


モドキ「そりゃそうよ、繕っているんだもの。完璧とは言ってないじゃない。ただ私を出すよりマシ――それだけの話だわ。私の率直な本音を言って、変な空気になったことがどれだけあると思ってんの?」


ナニカ「人間の毛穴ぐらい」


モドキ「そこまでじゃねえわ」


ナニカ「じゃあ――じゃあモドキの味方のナニカは、これからもそれを聞くだけなの? 根本的な拠り所にはなれないの? こんなに信用してくれって言ってもダメなのかい?」


モドキ「なれないわ、その言葉も信用できないもん。ここには、私が属しているコミュニティ――学校や家族がひとつも繋がっていないから、その話が出来るだけだもの。あなたが私の学校の人と仲良しなら、もうしないわ」


ナニカ「·····信用されるまで、この位置で居続けるよじゃあ。君がナニカを探してナニカの前で泣いてくれるまで。他の人が来ていないってことを、証明できるまでずっと君とだけ――いや、君とハグレとだけ話をする」


モドキ「いいわよ、しなくて。色んな人間と関わったほうが、色々な意見を知れる。そのほうが人間らしくなれるわ。ダメよ、主観的概念で偏った意見ばかりを身につけちゃ。マトモな人間にはなれないわ」


ナニカ「モドキを迫害する社会が、まともな人間で構築されているとは思えないから、それでもいいよ」


モドキ「それが主観的概念だって言ってるの。私の話は私の視点の話であって、客観的なものではないの」


ナニカ「そんなの全員だろう、ナニカは人間らしくなるために中立ではない思考を身につけるよ。君みたいに、ニンゲンモドキにはならない為にね」


モドキ「何にそれ。くすくす」


ナニカ「素晴らしいでしょ、人間ぽいでしょう」


モドキ「そうね、それが出来ない私よりずっと」

最近はマイノリティをアイデンティティとしている人間が多いですが、本来、マイノリティというのは社会的にはじきものにされるものです。

自己申告型の、人が想像し得るマイノリティは、もうそれは凡庸ではないのでしょうか。

人が許せる範囲を分かっていて、「変わってるね」と言われたくてマイノリティを気取る――私には理解できません。

普通でいることがどれだけ難しいか。普通の人と同じことをしていても拭えない違和感を持ち、なんか気に入らないと言われる私からすると、あえて人と違うことをして好かれようとしている人間は理解できません。

いえ、心理的に理解はできますが、それが成功していることは納得ができません。

理解はできる、納得はできない。

私はどこまで繕えば、普通を身につけられるのでしょうか、甚だ疑問ではありますが。

今日はここまでいたしましょう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今朝拙作情報をRTして頂いたので、御礼RT返しをしようとしたところ、何やら好きそうな作品があったので来てみました。こういう会話だけの、それでも問題提起が元にある話って大好きです。この先も読ま…
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