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あの日のメモリー

地球と人間の関係を考えたお話です。

難しい哲学的な話題のはずですが、

僕の書きかたでは、どうも柔らかくなってしまいます(笑)

暇なとき、コーヒーを片手にでもご覧下さい。

あなたの心が、温かくなりますように。

「ねぇ」

「あん?」


「ヒトって…一体、何なのかな?」


ある夏の日。

その蒸し暑い夜。

陽炎がネオンを揺らめかせる街角で、唐突に。

まったく唐突に、恐ろしいほど難解で哲学的な質問を投げかけられた。

白いフリルのワンピースを身に纏う、浮世離れした、儚くも美しい少女に。

「き、急になんだよ。

 つか、アンタ誰?」

俺は返す刀で、そう答えた。

まぁ、その切り返しは当然のことだろう。

「どうでもいいじゃないそんなこと。

 ヒトってそんなちっちゃな事気にするの?」

そんなの、当たり前だ。

何処の誰かも知らない奴と、腹割って喋れるわけがないだろう。

それが、自然というものだ。

誰彼構わず、親しげに話しかける奴はそういないし、誰もそいつとは話したいとも思わない。

少なくとも、俺はそう思う。


「私は私。あなたはあなた。それ以上に何か必要なのかしら?」


っ!

そ、それは――


「ねぇ、ヒトって一体何なの?

 教えてくれない?人間の一人としてさ」


……変な物言いをする少女だ。

自分が人じゃないみたいに言いやがる。

あ〜、あれか。

新手の悪戯か何かか。

騙される方が悪いと言うが、俺は騙す奴の方が断然悪いと思うがね。

む、それとも、電波系とか言う奴か。

顔が良いだけに威力は三割り増しだ。

くそ、大人を舐めてんのか。

「ねぇったら。ヒトって何か――」

「あぁ、しつこいな!分かったよ答えりゃ良いんだろ答えりゃッ!」

ませた餓鬼だな、まったく。適当に何か言ってずらかるとしよう。

俺、餓鬼嫌いだし、何しろ時間の無駄だ。

「地球上で、最も発展繁栄してる生物群じゃねェの!?」

半分やけくそだ。

そもそも、「人とは何か?」ってまともに答えれる質問じゃあ無い。

〈霊長目ヒト科の哺乳類生物〉なんて答えは求められてないだろうし。

哲学的なニュアンスで答えろってことだろう?

俺そっち系苦手だし、理系人間だし。

フロイトとかユングとか区別つかねぇよ。

まぁ、そんな理系のオレでも覚えてる言葉はある。

え〜と、確か…。


『人間は一茎の葦に過ぎない。

 自然の中で最も弱いものである。

 だが、それは考える葦である。

 彼を押し潰すために、宇宙全体が武装するに及ばない。

 蒸気や一適の水でも彼を殺すのに十分である。

 だがたとい宇宙が彼を押し潰しても、人間は彼を殺すものより尊いだろう。

 なぜなら、彼は自分が死ぬことと、宇宙の自分に対する優勢とを知っているからである。

 宇宙は何も知らない。』


今のは誰の名言だっけ?

パスカルか?

この考えならば、人類はやはり宇宙上で最も発達した生命体と考えられる。

地球も宇宙も思考することは出来ないが、人間にはそれが出来る。

オレの答えはあながちハズレじゃないと言うわけだ。


「それ、傲慢じゃない?」


意識もぶっ飛びかける程の痛烈なカウンター。

何だよコイツ。

大人相手にトークバトルする気か?

パスカル様の言葉を、反復してやろうか?

「んだよ、地球は人間のもんだと言っても過言じゃねぇだろうが」

「なッにそれ!?ヒト何様!?

 何やる気!?私に喧嘩売ってる!?」

何でだよ。質問に答えただけだろうが。

逆ギレもいいトコだろ。


「私はあなた達のものじゃない、あなた達が私の一部なのよ!

 そこんとこ解ってる!?」


……また訳の分からない事を。

病院に連れてった方が良いかな?

少女の透き通るほど白い頬は、見る見るうちに紅潮してゆく。


「あなた達がここまでしたの!ヒトって自分がしたことに責任持てないわけッ!?」


「あ?お前何言って――」


「尻拭いぐらいしなさいよッ!被害を受けるのはあなたたちだけじゃないの!

 自業自得なら良いけれど、他の生物にも迷惑がかかるのよ!?

 みんなあなたたちのせいで苦しんでる!どうしてくれるのよ!」


と、一気にまくし立てた電波系美少女は、しばらく荒い息をしていたが、

ふと何かに気づいたような顔になって、恥ずかしそうにうつむいた。

「ごめんなさい。私…」

良いって。

餓鬼相手に真剣になる方が悪かった。

そんな事でキレてたら大人失格だしな。

え、言ってる事が最初と違う?

気にすんな、元も子もないから。

これは性格さ。

一貫性が無いってよく言われるよ。


「でも、お願い。真剣に、考えて。

 じゃないと、じゃないと、私は―――」


そこまで言うと、少女は不意に姿を消した。

否、消したんじゃない。

消えたんだ。

オレの視界から。

そう、まるで、

幻覚のように。

夢のように。

蝋燭の上で揺れる、


儚い命にも似た焔のように。



――今思うと、アレが俺の転機で、神様からの思し召しだったのかもしれない。

あの夜の出逢いが無ければ俺は、今頃何をしていただろうか。

気ままに過ごして、人生をを無闇やたらに浪費していたのではないか。

そう考えれば、あの出逢いは十分転機と言えよう。

もしくは、奇跡とも言い変えても過言じゃない。

あの子は、この母なる大地の精霊で。

馬鹿で、自分勝手で、傲慢な人類に警鐘を鳴らそうとして、


―――俺に辿り着いて。


良かったな、相手が俺で。

じゃないと、今頃は不毛な土地にでもなってただろうなぁ。

もしかしたら、破滅ってのもありえたかもしれないぜ?


周囲を見渡す。

空のキャンパスは惚れ惚れとするほど青く、所々に散りばめられた流れ雲の白とのコントラストは、見る者の心を涼やかにする。

天空に座する太陽の日差しも、依然とは比べ物にならないほど清々しい。

深呼吸をする。

鼻腔をくすぐる空気は澄んでおり、

確かに地球は蘇ったのだと知覚できる。

あぁ、良い気分だ。

季節は、あの時と同じく夏。

小高い丘で、爽やかな風が吹きぬけ、さわさわと幸せそうに草木が揺れる限りない深緑の大地を見渡しながら、美しい青い惑星を本当の意味で救った、偉大な科学者の一人は、己の過去を、眩しそうに思い出していた―――



「ありがとう」


そんな声が、

風に乗って、

聞こえた気がした。


    


いかがでしたでしょうか?

いささか、難しい哲学者の台詞が入っていましたが、

雰囲気を求めるために挿入したものですので、

あまりお気になさらずに。


全体的には、儚い数分の出来事です。

人生、数分で劇的に変わるものなのですね(笑)

感想お持ちしております。

これからも、小説家を目指す文学青年、

灯流 昼行灯をお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] パスカルのことばを読めて、幸せでした。すごく良い引用だと思います。こういう話は好きです。
[一言] 妙な所で改行をされているのはミスでしょうか? それともケータイの人への配慮でしょうか? と偉そうに言っていますが、すいません文法にはあまり詳しくないので…。表現の一つというのはわかりますが、…
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