転生①
大変お待たせ致しました。
ここから本編となります。
意識を取り戻した時、僕は暖かい布に包まれて、小さなベッド?に寝かされていた。
はっきりと物が見えないので何とも言えないけれど、少なくとも自分が産まれたばかりの赤ちゃんだということは理解できた。
あれからどれくらい経っているのだろうか。
目覚めたばかりのはずなのに、妙に頭は冴えていて、色々な事を思い出す。
僕は死んで、神様と出会い、とっても優しい神様の厚意によって生まれ変わることになった。
いくつかの力と、神様の祝福を貰って。
「……」
どうにか体が動かせないかと色々試してみるが、動かせない。
そして、
「……ぁぅ……ぇう~……」
しゃ、喋れない……。
いや、赤ちゃんなのだから当然だとはわかっていても、結構なショックを受けてしまう。
辺りを見回したくても、顔すら自由に動かせない。
「……ぁ……」
どうしたものかなーと思っていると、視界にぼんやりと人の顔らしきものが2つ入ってきた。
「あーちゃん!」
「マリー、この子がぼくたちのおとうとなんだよ」
「とーと?」
「そうだよ。とってもかわいいね」
「……かーいぃ、ねー」
はっきりと見えないが、どうやらこの二人は僕の兄姉らしい。
お兄ちゃん?に抱っこされた小さな子が、僕を見て「かーいぃ、かーいぃ」としきりに訴えている。
そこでふと、一つの疑問が浮かび上がった。
(……言葉が……わかる……?)
……もしかしてこの世界では日本語が広く使われているのだろうか?
前世からの記憶が残ることは事前に神様から聞いていたけれど、その影響で言葉が分かるのだとしたらありがたい。
僕は英語が得意じゃなかったからね。
この先大きくなって喋れるようになってからも、意思疎通をするのに不便はなさそうだ。
「ルー?マリー?どこにいるの?」
また新たな声が聞こえる。
大人の女性の声……?
「かあ様!アルのへやです!」
どうやら母親のようだ。
顔を向けることはできないが、近付いてくる足音が聞こえて少しすると、この部屋に入ってきたのがわかる。
「あらあら、大きな声を出して。アルが起きてしまうでしょう?」
どこかのんびりした声。
姿は見えないけれど、きっと優しい人なのだろうと想像する。
「ごめんなさい、かあ様。でも、ぼくたちが来たときにはもうアルは起きていました」
「かーさま!とーと!かーいぃねー!」
「そうなの?お腹がすいたのかしら……」
きゃいきゃいと小さなお姉さんがはしゃぐ声を聞きながら、なんだか暖かいなぁと思っていると、母親に抱き上げられてしまった。
「ルー、マリー。もう夕飯のお時間だから、お父様を呼んできてくれる?」
胸に抱かれ、「はーい!」と元気に駆けていく二人を高くなった視界で見送ると、母が優しく語りかけてきた。
「アル、あなたもご飯にしましょうね……」
(……?……まさか……!)
目の前で服がたくし上げられ、露出した胸にビックリすると同時に、どうしようもない程の空腹感を覚える。
(えぇぇぇぇ……?!)
頭はかつてない程混乱しているが、それが当然とばかりに体は胸に吸い付き、ミルクを飲み始めてしまった。
「いい子ね……」
僕がミルクを飲んでいる間、優しく頭を撫でる母。
前世の記憶から来る羞恥と、体の本能から来る食欲に挟まれるが、お腹が満たされていく何とも言えない感覚には抗えず、
(……まあ、いっか……)
結局抵抗は諦めて、満足するまで食事を続けたのだった。
◇◆◇
それから数週間。
一日に何度も食事が必要な体で、毎度羞恥に身悶えていた僕だったけれど、もうすっかり慣れ……いや、諦めて、今もまた母の胸で食事中なのだった。
「はーい。いい子に飲めましたねぇ」
「……っけぷ」
ミルクの後のゲップにもすっかり慣れて、とんとんと背中を叩かれながら心地よい満腹感に包まれる。
あれからわかったことと言えば、自分も含めた家族の名前と、自分が産まれて半年というくらい。
この家の大黒柱である父、ランベルト。
そして母のエリアーナと、兄のルクワート、姉はマーリーナ。
僕の名前はアルヴィオと言うらしい。
兄のルクワートは5歳で、姉のマーリーナは2歳だそうだ。
兄は5歳とは思えないほどしっかりしていて、姉は年齢相応の無邪気さを見せ、とても元気だ。
最近は段々と目も見えるようになってきて、それぞれの顔もしっかりとわかる。
「エリア。アルのご飯はもういいのかい?」
母の肩越しに父の声が聞こえてきた。
低くて力強い声だが、厳しさよりも優しさを感じる、そんな心地の良い声だ。
「ええ。とってもいい子でしたよ?」
「ねー?」と言って、僕と目を合わせる母。
輝くようなさらさらの金髪と、どこまでも透き通る碧眼。完璧と言っていいほど整った顔立ちのこの人が僕の母だと言う。
「どれ……さあ、こっちにおいで」
母から僕を受け取り、父の逞しい腕に包まれる。
「大きくなったなぁ」と嬉しそうに笑う顔は、こちらもまた驚く程整っている。
男らしく短く刈られた濃い金色の髪と、少し深い色をした碧い瞳。
要するに美男美女。
前に“絶世の”と付けても全く過言でないこの二人が両親だ。
最初は驚いたけれど、この二人に良く似た兄姉もとんでもなく綺麗な顔立ちをしていて、そんな家族に囲まれていれば慣れるのも早かった。
今ではむしろ、自分の容姿がどうなっているかが楽しみなくらいだ。
「ぁぅ……あー……」
自分では『パパ』と言っているつもりなのだが、まだ言葉にはできないみたいだ。
にこにこしながら僕をあやしてくれる父の顔をぺちぺち叩き、
(僕もこんなイケメンになるのかなぁ……)
なんて益体もないことをぼんやり考える。
思ったように動かせなかった体も、この数日でどんどん自由が利くようになってきていた。
「まぁ。元気ねぇ」
きっと僕の成長が嬉しいのだろう。
無心でぺちぺちする僕を見て、両親の笑顔は更に深まるのだった。