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報われなかった人生④

「それでは早速、君のこれからについて話していこうか」


「よ、よろしくお願いします」


 真っ白なテーブルを挟んでお互い椅子に腰掛け、神様が話し始める。


「まず一つ。これは先程の話の途中でも言ったことではあるんだが、君が生きていた世界で君を生き返らせるということはできない」


「はい。えっと、たしか世界に大きな影響がある、でしたっけ」


「そうだね。君はすでにその世界の輪廻から外れた所にいるから、出来るとしてもその輪廻に魂を戻してあげることくらいだ」


 そ、そうだったのか……。

 改めてこう言われると、自分がとんでもなく非常識な状況にいるんだって嫌でも自覚させられてしまうなぁ。


「二つ目。君の魂を送る新しい器についてなんだけど、これについて何か君から要望はあるかい?例えば、人を超えた怪力が欲しいとか、賢者と讃えられるような頭脳が欲しいとか、はたまた性別を女性に変えたいとか。どんな些細なことでもいいんだが、この私の庭から新たな世界へ渡るまでには決めてもらいたい」


「器……新しい体ってことですよね。新たな世界へ渡るまでって言うのは、生まれ変わってから後出しで変更はできないとか、そういう感じですかね」


「あはは。理解が早くて助かるよ」


 新しい体……それに要望かぁ。

 今のところ思い浮かばないけれど、時間があるならもう少し考えさせてもらおうかな?


「それじゃあ最後、三つ目だ。君がこれから渡る世界について。まあ、所謂ファンタジー世界ってやつだね。剣と魔法、そしてモンスターが跋扈する浪漫溢れる世界だよ」


 ……え?

 ファンタジーって……いや、イメージできないわけではないけれど、魔法に剣にモンスターってそれじゃあ……


「あ、あの……それってもしかして、とっても危険な世界なのでは……?その、魔王がいて世界征服を狙っている、とか」


 もし僕の想像している通りの世界なら、さっきの神様が言っていた新しい器を、かなり強いものにしてもらわないと生き残る自信がない……。


「ん?ああ、危険かどうかって言われると難しいね……君の住んでいた現代日本の治安や平均寿命なんかは、世界的にも高水準だったよね?」


「そう、ですね」


「でも全く安全な環境だったかと言われたらどうだい?おそらく素直には頷けないのではないかな」


 ……言われてみればそうかもしれない。

 比較的安全な環境ではあったと思うけれど、危険が無かったとはとても言えない……かな。

 そうだったらそもそも僕が最後に経験したようなことはない気がする。


「これから君が行く世界も似たようなものさ。もちろん良い人もいれば悪い奴もいる。モンスターだってたしかに人を襲う危険な存在ではあるけど、四六時中人間と争ってるわけではない。モンスターが多くいる所で人間は生活していないし、逆に人間が住んでいる街の近くにモンスターは近寄らない」


「えっと、ということは……」


 聞いている限りでは、そこまで危険な世界とは思えない。少なくとも、さっきまで僕が想像していた世界よりは。


「絶対の安全が保証されている世界ではないけれど、君が心配しているほど危険に溢れた世界という訳でもないんだ。……まあ、地球とは文明レベルが違うから、そこはかなり違和感があるかもしれないね。イメージしてくれていると思うけど、概ねその通りじゃないかな」


 なるほど。

 自分から危険に飛び込むようなことをしなければ大丈夫と、そういう認識でいいみたいだ。


「危険についてはわかりました。文明は……中世のヨーロッパとか、そんなイメージをしていましたけど」


 ファンタジーと聞いてイメージするのは、中世ヨーロッパ風の街並みと、金属鎧を着た騎士、そして不思議な魔法とドラゴンーーとかかな。


「うん。そのイメージで間違いはないね。科学がそこまで発達していない代わりに、魔法技術があるって感じかな」


 聞けば聞くほど、なんと言うか……。

 神様にはちょっと失礼かもしれないけれど。


「……テンプレ?」


 僕もいくつか読んだことのある物語。

 異世界転生もの?って言うんだっけ。

 まさか自分がそうなるだなんて思いもしなかった。

 僕もあんな物語の主人公になれるかもしれない……と思うと、否応なくワクワクしてしまって、なんだか落ち着かない。


「お気に召さなかったかな?」


 そんな僕の呟きを、神様にはそう捉えられてしまったようだ。


「い、いえっ!そうじゃなくて!なんだかちょっと信じられない気持ちというか、なんて言ったらいいのか、えーっと……」


 慌てて否定すると、神様は「あはは」と笑って僕に少し悪戯っぽい微笑みを向け、そして。


「君は本当に可愛らしい人だね」


「えぅ……っ?!」


 からかわれてしまった……のかな?

 ドキドキする胸と、きっと赤くなってしまっている顔を手で抑えて、精一杯のジト目を作って意地悪な神様を見るけれど、あんまり上手くできていなかったのかまた「あはは」と笑われてしまった。


「ごめんごめん。悪ふざけが過ぎたようだ。あんまり君が可愛いものだからつい、ね?話を続けよう。世界の常識や文化についての詳しい話なんだが、まずーーー」


 話を続ける神様を見て、もうしばらくこのドキドキは落ち着きそうにないな、と小さく息を吐く。

 そして、僕がこれから生まれ変わる新しい世界の文化や常識。

 それはやっぱり“テンプレ”と呼ばれるものにそっくりで、でも自分がその中心にいると考えると、期待はずれだとか、そんな残念な気持ちには全然ならなかった。

 不安と期待が混ざりあい、また別のドキドキに胸が膨らむのを感じながら、僕は神様の話に耳をかたむけるのだったーーー。



 ◇◆◇◆◇



「ーーそれでは、心の準備はいいかな?」


「はい!よ、よろしくお願いします……!」


 あれからたくさんのお話を神様からしてもらい、「これくらいで最低限困ることはないと思うよ」という一言を貰って、生まれ変わる世界についてのお勉強が終わった。


 その後、僕が生まれ変わる新しい器についていくつか要望を伝え、いよいよ転生……!と、現在に至る。


「新しい器は……本当にこれでいいのかい?君が望むならどんな力でも授けられるんだよ?」


 僕が神様に伝えた要望は3つ。

 できるだけ健康な体と、生きていくのに不便がない程度の知能、そして今度こそ後悔しないように、目の届く範囲の人を守り、助けることのできる力。


「……はい。多分、これ以上貰ってしまっても僕には上手く使えそうもないですし。たくさん考えて出した答えなので……」


 不安が無いわけじゃないけれど、ただでさえ貰いすぎだと思っているから、これ以上は本当に必要が無い。


「そうかい?……まあ、君がそう望むのならいいさ」


 そう言って神様は僕の頭に手をのせ微笑むと、ふわっと全身が光に包まれた。


「君はとっても優しくて勇敢で、素晴らしい人だ。そんな君のこれからに、私から心ばかりの贈り物を」


 頭に触れる神様の手から暖かい何かが流れ込んできて、体の内側から満たされていく。


「神様……?これは……」


「私からの祝福だ。愛しい君が、健やかなる毎日を送れますようにってね」


 神様からの祝福。

 とても暖かくて不思議な感覚に包まれて、頭の隅に追いやって見ないようにしていた不安が、洗い流されるように消えていく。


「ありがとう……ございます……」


 優しい神様の想いに包まれているようで、思わず涙が零れてしまいそうになるのをぐっと我慢して、なんとか感謝の気持ちを言葉にできた。


「気にしないでおくれ。これは私の願いでもあるんだ」


 両手を広げ、優しく僕を抱き締めた神様は最後に頭をさらりと撫で、体を離す。

 すると僕を包む光が輝きを増し、徐々に視界を白に塗りつぶしていく。


「それでは、名残惜しいがそろそろお別れだ」


 そう言った神様をもう見ることも出来なくなり、体が浮き上がっていく感覚に身を任せる。


 ーー私はいつも見守っているよ。だからどうか、君の望むままに生きておくれ。きっと今度こそ、幸せな人生をーー


 そう微かに聞こえた言葉を最後に、僕は意識を手放した。

 きっとこの優しい神様の厚意を無駄にしないようにと決意を固めて。



これでプロローグは終了となります。

予定していた以上に長くなってしまいましたが、とりあえず第一部が終了するまではこのままでいきます。


ご意見ご感想等、いただけると作者が大変喜びます。

お手数ではありますが、どうぞよろしくお願いします。


次回より本編の開始となります。

できるだけ早い更新を心掛けますので、あがった際にはそちらも併せてよろしくお願いいたします。

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