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神様は善人に報われてほしい  作者: しろがね
転生、それから
10/11

閑話 愛しい弟へ

 私の弟は、とても可愛い。

 艶のある黒い髪も、全てを呑み込んでしまいそうに深い黒瞳も、真っ白で吸い込まれそうな程柔らかい頬も。

 弟を構成する全てが可愛いと言っても過言ではない。と、私は確信している。


 弟が産まれた時は私も小さかったけれど、一目見た瞬間から大好きになってしまったのだと言うことは覚えている。

 母様が言うには弟はその頃から、“全然泣かないし手のかかからないとてもいい子”らしい。

 私から見てもこの子がいい子であることは疑いようがないので、きっと誰が見てもそう感じることだろう。

 そんな可愛くていい子の弟が私は大好きだ。


 初めて弟が私を「ねーさま」と呼んでくれたのは、一歳にもならない頃だった。

 まだハイハイが出来るようになったばかりの事だったと思う。

 あのころころろなる鈴のような声で「ねーさま」とたどたどしくもしっかり呼ばれた時は、びっくりしてしまったのもそうだけれど、あまりの嬉しさに体が震えて泣いてしまう程だった。

 そう。弟は「かーさま」でも「とーさま」でも「にーさま」でもなく、最初に「ねーさま」と言ってくれたのだ。

 これはきっと私の大好きが伝わって弟が応えてくれたことの証明であると確信している。


 そして弟は本を読むのが好きだ。

 本人はそんなことないような事を言うけれど、いつも近くで見ている私にはわかる。

 本を読んでいる時の弟の瞳はキラキラ輝いてそこに書かれている文字を追っているし、次へ次へとまるで焦っているかのようにページを捲る様子も、自分が本好きだというのをまるで隠せていない。


 弟はとても頭がいい。

 時々私や兄様、父様と母様ですら驚くようなことをするのだ。

 本を読むこともそうだった。

 ハイハイが上達してくると、弟は毎日のように父様の書斎へ突撃して本を取り出し、誰かが止めるまで夢中で見ていた。

 流石に読めてはいなかったようだけれど、もうすぐ一歳になるかという赤ちゃんが、日がな一日飽きもせずずっと本を見ているのには母様もかなり驚いていた。

 その頃は私だって小さかったし多少わがままなところがあったのは覚えているけれど、弟は決してわがままを言うことがなかった。

 あまりにも本ばかり見ている弟を心配した母様が、一度やんわりと本を取り上げたことがあったのだけど、その時だって泣きもせず、嫌がったりもせずにただ一言「ごめんなさい」と言ったのだ。

 それを見た時に私もわがままを言うのはやめると誓った。

 私は弟の「ねーさま」なのだ。

 弟がわがままを言わないのに、姉様がわがままを言っていては呆れられて嫌われてしまうかもしれない。そんなのは嫌だ。


 弟は二歳を迎える頃には、もう魔法を使えるようになっていた。

 私も一緒になって母様から魔法を教えてもらっていたけれど、弟の上達の早さには全く追いつけなかった。

 詠唱言語を覚える時も、ようやく魔力操作を教えてもらえるようになった時も、私が少しでも躓けば、まるで前に立って私の手を引くかのようにアドバイスをしてくれるのだ。

 姉様としては少し悔しさもあったけれど、それ以上に弟の優しさがとても嬉しかった。


 さらに弟は、すごい魔法の才能を持っていた。

 私や母様が使う魔法よりも大きく、そしてその分威力も高い魔法を使えると言うのだ。

 父様も母様もとても喜んでいたけれど、私だって自分のことのように嬉しかった。

 家族みんなでしばらくの間、弟を褒めて褒めて褒めちぎって過ごすくらいには皆喜んでいた。

 その時の弟はとても恥ずかしがっていて、いつもその真っ白でスベスベの頬を真っ赤に染めていたけれど、そんな表情の弟もとても可愛らしくてますます大好きになってしまうのだった。



 ーーけれど最近の弟は、どうやら兄様と一緒に剣の練習をするのが好きらしい。

 一度父様と兄様が模擬戦をしているところを見学してからというもの、二人を見る弟の目が変わったことに気付いた。

 まるで弟が初めて本を開いて見た時のような輝いた目に。

 ーーいや。いやいやいや。

 まあ、弟が一番好きなのは姉様である私に決まっているのだけれど、弟も男の子だ。

 きっと力強い父様や、素早く剣を振るう兄様の姿に自分を重ねて“憧れた”……いや。“興味を持った”のだろう。

 そう。きっと弟は姉様である私を将来守る為に、剣に興味を抱いたのだ。

 ……まったく。

 私を守る為と言うなら、私と“二人で”練習している魔法があれば十分だと思うのだけれど。

 弟がそこまで私のことを想っていてくれるのならば、私も口を出すのはやめよう。

 だって、弟はとにかく剣の鍛錬に一生懸命なのだ。その理由はこれ以外にないだろう。いや、ない。


 あの時、弟がまだ一歳になっていない頃、本を夢中で読んでいる弟に「わたしを愛している?」と聞いたところ、たしかに、しっかりと「うん」と返事をして首を縦に振ったのだもの。

 目が私じゃなくて本に釘付けだったのは残念だけれど、たしかにあの時二人の将来は決まったのだ。

 だったら細かい事には目を瞑って、弟が迎えに来てくれるのを待つのも立派な姉様としての役目だ。


 ーーうふふ。だからね、アル。

 きっと、早く迎えに来てちょうだいね?

弟が好きで好きでたまらない姉様のお話。

……なんだかちょっと危ない?

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