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第 Ⅶ 話 共有

この物語はただの創成物語(フィクション)である。

 白い光が(まぶた)の隙間から差し込む。

 分かっている、ここが天国じゃあないことくらいは幾ら鈍感な私にでも容易に理解出来る。

 目を開けると、白い空間、何も無い私1人だけの空間────「意識の世界」と彼は言っていただろうか。


「やあ、さっきぶり。ひとまず、外の様子も落ち着いたようだね」


 噂をすればなんとやら────渦中の人物の声がどこからともなく聞こえてくる。

 ふと気配を感じ、右に視線をやれば、当たり前かのように彼はそこにいた。肘をつき、頬に手を当てながら、彼はニヤつきながらこちらを見ている。

 やはり何かおかしい。急に彼が現れたような気がしたのだが……。


「それで、質問はちゃんと考えてきたのかい?」


 そんな気持ちを介さず、彼は話を進める。

 時間制限があるからか、手短に進めたいのだろう。

 私はまず、真っ先に疑問に思っていることを彼に伝える。


「まず、初めに聞きたいのは君が一体何者なのかについてだ」


 だが、直ぐに彼の返事がくる。


「残念だが、それは言えない。いや、言うことが出来ない」


 やはり、この人は私の何かを知っている。


「私は私さ。私の正体はキミ自身がキミの手で導き出さないといけないんだ。もっとも、キミは私のことを、もう知っている(・・・・・)はずなんだが……」

「知っている、だと……」

 彼は自信ありげにそう言い放っているが、何度も言うように私は彼を全く知らない。そもそも「ヌネ」という名前自体が珍しいので、忘れるはずもないのだが……。

 しかし、彼の様子を見るに、とても嘘をついているようには見えなかった。

 ────彼と話せば話すほど、彼に対する胡散臭さと謎が深まるばかりだ。


「何故、話せないんだ?」

「それも言えない」

「じゃあ、キミは一体何が話せて、何が話せないんだ」

「言えないことについては遠回しな発言になるが、『キミが知りたいこと』は言うことが出来ない」

「それって、この『キオク』の事なのか?」


 だが、彼は「さて?」と言いたげな表情で私の問いかけを受け流す。


「『納得がいかない』そういう表情だね」


 当たり前だ。答えてないも同じの返答で納得なんて出来るものか。

 すると彼はしばらくその場で、何かボソボソと自問自答をしていた。「気が進まない」だの「仕方ない」だの、何やら言っているようだが……覚悟を決めたのか遂に目線をこちらにやって、口を開く。


「分かった……そこまで言うなら仕方ない。あまり気は進まないんだが……」


 ごくり……

 そんな音が鳴るくらいに、生唾を飲み込む。



「私の正体についてなんだが、実は────」



 だが次の瞬間、静寂が支配していた空間に突如として大きな破壊音が鳴り響き、それは彼の四肢を、身体をいとも容易く貫いた。

 飛び出てきたモノは、『(くさび)』。それが彼の自由を奪い、私の目の前でそのまま彼を空中に固定する。

「グハッ!」

 彼の口から、傷口から血が(ただ)れ落ち、(むご)く、そして痛々しい。

 その凄惨な姿を目の当たりにし、急いで駆け寄る。

「ヌネさん!!」

 しかし、その時だった。


「う"っ……ぐぁっ!?」


 信じられない痛みが全身を襲った。

 まるで身体を抉られたような、激しい痛み。

 右肩、左肩、右足、左足────そして腹部。目の前のヌネさんが受けている傷の部位と同じ場所だ。

 まさか……この痛みはもしかして。

 すると、思ったことをまるで理解しているかのように、ヌネさんは説明し始めた。


「ああ、そうだ……キミも理解できた……だろう……。ここは"君の"……意識の空間だ。この中で起きた事象は……全て、現実のキミへ、そしてここにいる、キミにも……反映される。ハァ……ハァ」


 つまり今、彼が体験した『痛み』が、意識の空間を通じて私にも共有されたのである。

 そして、この痛みは現実の私の身体にも影響を与えるという────まるで彼と私は一心同体というか、運命共同体のようである。


 暫くするとするりと、まるで彼の意思でも()み取ったかのように、楔は彼の身体から離れていく。彼がもう私に伝えるのを諦めたからだろうか────この仕組みはあまり理解できない。

 すると、なんとヌネさんの身体の傷口がみるみるうちに塞がっていく。そこらに飛び散った鮮血も、まるで蒸発したかのように綺麗に消えていっているのだ。

 そして、それと同じように私の身体から痛みが引いていく。

 傷が完全に治ると、彼はこれについて説明をし始めた。

「ここは、現実とは違うんだ。あくまで"意識"の世界。実態のない我々はこんなもので消える(・・・)ことはない」

 どうやら、ここで受ける傷は本物の傷ではないらしい。痛み、もとい苦しみは現実の自分に反映されるが、あくまでこれは精神的苦痛に近いものらしく、現実の自分が落ち着きを取り戻せば、自然とこちらの空間の私達の傷も塞がるようだ。


「現実の君は……恐らく苦しそうにしてるだろう。意識の空間は現実のキミとも繋がっているからね……。だが特に問題はない。例えるなら悪夢を見ているようなもんだ」


「だが、あまりこれをやり過ぎると、あくまで"意識"である私は消されてしまう……」

 だが、こちら側の世界の我々にはもろに影響を受けるらしく、強引に制限を破ろうとすると、あの楔によって存在を消されるらしい。となると、別の疑問が湧く。

「あの(くさび)は、一体何なんだ……まるで何かを抑えているかのような……"封印"」

「"封印"か……いや、封印というよりは呪いに近い。これはただの"呪縛"だと思ってくれ」


 遠回り、回りくどい彼の発言の数々に1人頭を抱えていると、ヌネがまた意味深な言葉を発した。


「だが、これはヒント(・・・)でもある」



「そ、それはどういう……」


「おっと、残念ながら時間だ」


 まるで狙ったかのように時間が訪れる。

 私から逃げるかの如く、いきなり視界が光に包まれる。眩しくて徐々に瞼が塞がっていく。


「けど、私はキミのことを信じてるよ。キミが必ず答えを導き出すと」


 その言葉が何を意味しているかは、今は分からない。

 だが、その真意を考える暇もなく刻限が訪れる。



 誰かの、呼ぶ声が聞こえる────

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