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11回目の転生目録  作者: 上代 迅甫
第二章
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第ⅠLⅨ話 家族とは

この物語はただの創成物語(フィクション)である。

 あれから身体の臭いを落とした私達は、逃げるように町を出た。連邦にもう入国できているとは言え、いつ王国側から捜索が入るか分からない。滞在するだけ追っ手が迫るのは目に見えている。


 すっかり陽は落ち、辺りは闇で染まってしまったようだ。


 さて、フォルテとまともに過ごす夜はこれが初めてだ。

 昨日は町を出た後は、夜通し馬車を走らせていたし、そういえば食事もこうやって4人でゆっくり出来るのはこれが最初になる。


 献立はシンプルに野菜たっぷりのシチュウだ。大鍋で出来るこれは、旅人にとっては実にありきたりな晩飯にあたる。リリスの大食感も考慮して適正量よりも数回り多めに作っているが、まあ今回もペロリと平らげるのだろう。


 予めフォルテにも「苦手な食材や料理はないか?」とは質問していたが、彼の口からは「ありません」と聞いている。相変わらず、彼は育ちが良い。


「はい、どうぞ」


 私が彼によそったシチュウの器とパンを手渡すと、彼は申し訳無さそうに受け取った。

 彼も準備をしていたのだから、そんな(へりくだ)ることもないのに。まあ、まだ自己意識の低さは抜けないのだろう。人の事を言える訳でもないが。


「頂きます」

 食べるのに躊躇をするフォルテを他所に、そう言って、私達は先に食べる。リリスは美味しそうにがっつき、ベルは上品に、私は熱さに悶えながら頂いた。味は美味しい。以前にも作って食べたが、やはり自分で作った出来たては美味しさが段違いだ。


 そんな私達の様子を見たフォルテもシチュウを口に運ぶ。

「美味……しい」

 零れるように出たそれは、如何に彼がそう思っているかを如実に伝えてくれる。

 幾ら貴族とは言え、食べたことはあるはずだが、実に美味しそうに食べていた。

 こういう大人数で食事を囲むのが久しいのだろう。ジルフォードさんとの食事だって、あくまで2人だったはずである。しかも、こういった野営飯だ。外にあまり出たことのない箱入り息子の彼からすれば新鮮な体験である。より美味しく感じるのも理解できる。


 ■ ■ ■


「さて、そろそろ私は食後の運動をしてくるよ」

「はいはい、行ってらっしゃい」


 食事の片付けも終わり、私は立ち上がり、ランタンを片手に野営の場所から離れていく。

 ベルに私が夜な夜な魔法発動の練習と身体のトレーニングをしているのがバレてからは、もう隠す必要もないだろうと2人には告げてから出るようにしている。まあ、ふと居なくなって心配させても仕方が無いしな。


 少し離れたいい感じの丘を見つけると、ランタンを近くに置き、いつものように身体の(ほぐ)しから始める。これをしなければ身体を痛めてしまうからな。


 すると、後ろから声が聞こえた。

「アベル」

 どうやらリリスが私についてきたようだ。

「何だい、リリス」


「アベル、話、ある」

「話って……嗚呼、あの時言いそびれたことか……」


 彼女の内情を察した私は、素直に彼女の話に付き合うことにした。


「いいよ、答えられることなら答えるよ」


 ■ ■ ■


「何でアベル、皆を助ける?」


 私が日課のトレーニングを辞めてその場に座り込むと、リリスが私にそう質問してきた。


「何でって……まあ、そうか」


 それがさも当たり前かのように答えようとした私は言葉を飲み込んだ。

 私はお人好しなだけなのだ。それが「普通」と思ってはいけない。


「あの時聞きたかったことってそれかい?」

「うん」


 フォルテ捜索時、一度私に話をしようとしてそのままなあなあになっていた──その時、私に聞こうとしていたのは、どうやらその事だったらしい。


「ガーベ、アベルと、無関係だった。フォルテも、初めて会ったばかり。知らない人、何で助ける?」


 不思議そうにリリスはそう尋ねる。まるで『助けない』という選択肢が当然かのように。──いや、本来ならそうなのかもしれない。ギルドの規則だって、ギルドを通さない依頼は受けてはいけないし、事実彼女に手を差し伸べる他のギルダーはいなかった。規律を重んじているのか、はたまた厄介事に巻き込まれたくないだけなのか、どちらにせよ、彼女の選択肢は普通なのだろう。

 フォルテにしてもそうだ。助ける義理なんてない。知り合いならまだしも、あの時点では私達からすれば、まだお互い「ただの他人」に過ぎない。


 どう返せばいいものか悩ましいところではあるが、私は素直に、そして優しく諭すようにリリスに話し始める。


「リリス、私はね、故郷を(ドラゴム)に滅ぼされたんだ。親や友人、知人、お世話になった学園の先生、皆殺されて、私とベルだけが助かった……それを今でも後悔している」


 あの時の私には力が無かったことに対する後悔

 自分以外に救える人間がいたんじゃあないのかという後悔

 もっと親や友人達と話をしておけばという後悔


 様々な劣情が今の私にも付き纏っている。恐らくこれは死ぬまで払拭されないのだろう。もう、諦めているくらいだ。……だが、


「だからこそ、私は救えるものは救いたいんだ。世界はきっと弱肉強食が絶対的規則なのだろう。でも、私にとっては手を差し伸べる対象は強者とか弱者とか関係ない。あの時救えなかった後悔を二度としない為に、誰も失わない為に、独りにならない為に」


 過ぎ去ったものはもう戻らない。人は、過去に縛られながら前を向いて生きていくしかない。なら、その後悔を、次の機会に繋げる。私が二度と後悔しない為に、私と同じ後悔を誰にもさせない為に──。


「まあ、所詮はただの自己満足だよ。私が助けないことを後悔したくないから助ける。そうしたいからそうする──それだけだよ」

「……」


 何とも言えない空気が流れる。彼女の顔を伺えば、何やら考え事をしている様子だった。

 この私の回答が、彼女の持っているモヤモヤを少しでも晴らしているといいのだが……。


 暫くの沈黙のうち、この空気を解消する為に、私は彼女に1つ話を振る。


「ところで、リリスの育ての親ってどんな人?」


 ふと気になった。彼女の義理の親──育ての親は一体どんな人なのだろうか。

 彼女の言い方からすれば、どうやらひとり親のようではあるが……。


「強い。とにかく強い。私よりずっと、強い」

「そ、そうなんだ……まあ、リリスがそう言うんならそうなんだろうね」


 あまりにも自慢げというか、生き生きと話すリリスに私は少したじろいでしまった。どうやら関係は良好のようで少し安心する。

 ──しかし、親の特徴を述べる上で真っ先に"強い"が出てくるだなんて……相当なんだろうな。


「ガーベもフォルテも親がいた。一緒にいたい家族がいた。でも私にはもういない。だからこそ、2人にはそんな思いを味わせたくなかったんだ」


 まあ、こんな思いも『押し付け』と言ってしまえばそれまでだが、しかし、これが偽善だろうがお節介だろうが、間違いなく手を差し伸べて彼らが救われたことは確かだ。

 失うことは容易い、取り戻すことは出来ない。だからこそ、違っていてもお節介でも、助けるべきだと私は思う。


「リリスだって、お義父さんを失いたくないだろ?」


 つい、当たり前のように聞いてしまったが、私はリリスもそう思っているのだろうとそう踏んで聞いたみた。父親の……育ての親の話をする時、そんなに嫌な顔をしなかったところを見ると、。少なからずそういった感情を持ち合わせているものだと私は考えたのだ。

 暫くの沈黙が空いた後、彼女はか細い声でそれを告げる。


「……分からない」


 少し意外な返答が彼女の口から紡がれた。

 先程の彼女の口振りから、彼女はお義父さんについて尊敬や羨望を抱いているものだと思っていた。あまりにも嬉しそうに話しているからてっきり肯定するものだと思っていたが……いや、様子を見るに何か迷っているのだろう。


「ねえ、アベル。もう1つ質問、いい?」

「ああ、別に構わないけども……」


 少し間を開け、私に真剣な眼差しで見つめながらこう尋ねてくる。


「親って、何? 家族って、何?」


 これまた意外な……いや、先程の悩んでいる様子から察すればそう飛んでくるのも当然か。


「それはまた、悩ましい質問だね……。それって、君が今の親と血が繋がっていないからかい?」


 確かリリスは『本当の親は知らない、今の親は育ての親だ』と言っていた。その時は特に気にしていない様子だったが、ガーベの件やフォルテの件を受けて彼女も複雑な感情になっているのだろう。


「血が繋がっているとか、関係ないと思うな。そこに親と子という"絆"がある限り、家族だと思う限りその人は君の親だよ」

「……?」

「嗚呼、絆っていうのはだな、そうだなぁ……うぅん……」


 少し曖昧だっただろうか。……いや、ここは確かに明確にしておく必要があるのかもしれない。多少なりとも彼女の道標となる為には。


「無意識にも感じる繋がり──ただ、居たいと思う気持ち……それが"絆"。それが"家族に必要なもの"だと、私は思うよ」


 捻り出した(つたな)例え。今、思えば安っぽい。だが、結局のところ家族とは、絆とは、そういう形のない何かなのだろう。

 血の繋がりはただの目に見える指標に過ぎない。私なりの考えではあるが、言葉には出来たと思う。


「そして、私は……今は皆が家族だと思っている。ベルにアニキ、ルークにアンジュ、フォルテ……そしてリリス、君もだ」


 小っ恥ずかしいが、敢えて言葉にしておくべきだろう。彼女の為にも、そして自分の為にも。


「私は独りが苦手なんだ。勝手に家族扱いされて、迷惑かもしれないけど……まあ、あまり気にしないでくれ」


 血の繋がりもない、慕い慕われだけの関係。平たく言ってしまえばこれも『ただの他人』だ。

 だが、だからこそ、独りが苦手な私にとってはそれが心地良い。ギルダーになるという制限をつけてまでも選んだ今の関係性──私にとってはとても大事なのだ。


「いや、いい」


 私の言葉に対し、リリスは拒絶しなかった。

 心地良いのか、それともどうでもいいのか、今のリリスの顔からは伺えなかったが、その言葉は私にとっては何よりも嬉しかった。


「じゃあ、私からもリリスに質問いいかな?」


 質問に答えたのだ。こちらもひとつくらい質問してもいいだろう。


「今回、『ゼノビア』に向かう理由って、君のその親絡みなのかい?」


 この旅の目的──彼女が『ゼノビア』に行きたい理由をまだ聞いていない。

 予想は幾つかしたが、


「まあ、答えたくなければそれでいいよ。既に受けた依頼だ。今更──

「お義父さんから、頼み事、された」


 私が全て言い終わる前にリリスが食い気味で答えてくれた。

 私は彼女がすんなりと答えてくれたことに驚いま。てっきりまた濁されるのかと思っていたから──というか、家出とかそういう家庭内事情では無さそうで少し安心する。


「届け物と伝言、頼まれた」

「届け物と伝言……」

「内容は……言えない。言っちゃいけない」


 懐から取り出した布袋。私はそれを初めて見た。他人に見られてはまずいのか、ただ単に誰にも見られたくなかったのか──中に何が入っているかは分からないが恐らく大切な物なのだろう。


「それ、他の誰かには言ったのかい?」


 横に振るリリス。どうやら、私に初めて打ち明けてくれたようだ。


「そうか、言ってくれてありがとう。嬉しいよ」


 彼女の意見を尊重し、2人に話すのはその時が来るまでよしておこう。


 私はリリスに心の中でそう誓った。

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