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11回目の転生目録  作者: 上代 迅甫
第二章
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第ⅩⅩⅩVI話 お人好し

この物語は、ただの創成物語(フィクション)である。

 アルデート王国首都「ギルティア」から北東に進み約4日。連邦へと向かう街道にある、1つ目の中継地点──「タタリバ」。

 そこまで大きな町ではないものの、ギルティアに近いこともあり、観光客や行商人達によってそこそこの賑わいを見せている。


 今回はここで一泊する予定だ。

 急ぎの旅路で久々の街、まだ陽も落ちる気配がない──普通なら素通りするところではあるが、喜ばしいことに我々は必然的にここで足止めされなければならない。


 と言うのも、大鬼(オウガ)によって崖から落ちたあの時、馬車の屋根の布がボロボロになってしまったからである。車軸には大きな被害がなく、荷物を運ぶという点においては運用上大きく問題になる要素は無いが、しかし雨風を凌げないというのは流石に看過できない。

 幸い、ここに至るまでに雨は降っていなかった為、大きな影響は受けずに済んだが、これからは分からない。屋根があるのとないのとでは、旅路における安心感も全然違う。


 どうやら、今回泊まることとなった馬宿は1階で馬車の貸し出しや修繕も行っているようで、一緒に任せることにした。修理に数日居座ることも予測したが、繁忙期を外れている為か、どうやらこの程度なら1日で終わるらしい。少し残念だ。

 また、馬の状態も診てもらえるようで、念の為診てもらうことにした。馬車同様、崖から落ちて足を痛めてしまっていたため、ここまでの道中心配ではあったのだが、結果としては特に大きな異状は見受けられなかったようだ。彼女の適切な回復魔法と処置が効いた模様である。良かった。まだまだ、彼には頑張ってもらわないといけないからな。


 馬宿で屋根の貼り換えと馬の面倒を頼みつつ、私達は2階の客間に向かう。


 3人で寝るには少し心もとない客室。ベッドが2つの為、1人はソファに寝ることになるのだろうが、それでも安心して眠れるだけで、硬い寝床ではないだけで物凄くありがたい。5日ぶりか──1度身を埋めると、もうそこから動けなくなりそうだが……やることはまだまだある。温かみを感じる寝床を少し惜しみながらも、ベッドの上で跳ねるリリスとベルを引き連れ、私達は街へと繰り出していく。


 陽はようやく折り返し地点へと差し掛かっていた。


 ■ ■ ■


 街に繰り出した目的は、「魔物の素材の換金」と「食材や消耗品の確保」だ。

 ギルドには素材の買い取り屋が併設されていることが多く、ありがたいことにその支部は大きな大都市だろうが小さな町だろうが関係なく設置されていることが多い。この町にも2つ存在するほどだ。

 そして重ね重ね幸いなことにこの前の大鬼の角や牙はそこそこの値段で買い取ってくれる。道中他に討伐した魔物の素材も含めて、宿泊費と馬車の修繕費を差し引いてもお釣りが余裕で発生する程だ。まあ、オリハルコンを売却したことでお金には余り困っていないのだが、あるに越したことはないだろう。

 そしてこっちが本命であるが、その余ったお金で食料と消耗品の調達──特に食料はリリスという大食感がいるため、旅の為に6人で1週間分の食材を準備していたはずがたったの3人の4日でもう底が見え始めている。道中のあの崖崩れで幾つかの食料が台無しになってしまったものの、流石にこのペースは想定外だ。

 別に自給自足が出来ない訳ではないが、安定した食事を行う為にも、ここでの補給は必須条件である。


 換金所はギルドの施設の内部にある。扉を開けて正面には受付があり、向かって左手には依頼を張り出している掲示板、そして右手に報酬の支給場、素材の換金所が設置されている。内部の構造は派遣業務の多いギルダー達に配慮し、何処も同じらしい。

 早速、換金所に素材を持ち込むと職員には大変喜ばれた。どうやら素材の状態がかなりいい模様だ。まあ、何故か解体に優れたリリスと、何故か素材の保存に優れたベルのお陰なのだが──何か本当に、自分が情けなくなるな……。

 何はともあれ、思ったよりも大きな値段で換金することが出来た。有難い限りだ。


 その帰り、ふとギルド内で気になる光景を目撃した。


 それは、依頼者用の受付窓口で少し問答している光景だ。


 普通であれば、厄介な客が訪ねてきたんだろう程度でさほど珍しい様子でもないが、その依頼主はギルドにいる人間としては明らかに不釣り合いで、他のギルダーからも注目の的になっていた。

 見た目と手に持ったぬいぐるみからして、年齢は──6歳くらいだろうか。耳の長い特徴から精人と断定できる幼い少女。何を話しているかは離れていて分からないが、とても困っている様子は見るだけで分かった。必死に受付の男性職員に何かを訴えかけている。


 職員も職員で困り果てている様子だった。


 すると奥から別の女性の職員が出てきた。

「あっちで話そうか」と子供の扱いに慣れているのか、優しい声で誘導し、テーブルへと案内していく。


 これを見て私は安心を覚えた。

 何とかなるだろうと、少し楽観的な感覚を抱いていたのだ。


 だが、それと同時に何かモヤモヤとしたやるせない感覚も、その時ハッキリと覚えたことは今も忘れない。


 ■ ■ ■


 次の日。


 久々のベッド──ではなく、ソファの上ではあるが、私は何故かあの時のモヤモヤで思うように眠ることが出来なかった。

 日課のトレーニングと魔法の練習で疲れてはいたはずなのだが……寝た心地がしない。


 だが、そんな私に配慮なんてなく、朝は当然の如くやってくる。


 宣言通り1日で綺麗に修繕された馬車は新品同様とまではいかなくても、借りる前よりも綺麗になって返ってきた。


 準備は万端。昨日買い込んだ荷物を積み込み、私達は馬を連れ出して私達は連邦側の門へと歩いていく。


 すると、ギルドの近くで1人の少女を見かけた。

 階段で座り込み、ぬいぐるみを抱えた精人の少女──そう、昨日ギルドの受付で困っていた少女だ。

 まだ、朝早いというのにギルドに赴いていたのだろうか、どうやら並々ならない事情があるのは目に見るより明らかだった。


 私は声をかけようと彼女に近寄る。

「あの、キ──

 ……すると後ろから誰かが私の腕を掴んできた。


「予め言っておくけど、やめておきなさいよ」


 私がこれから何をしようとしているのかを感じ取ったのか、ベルが釘を刺す。


「あの様子だと、ギルド側が断ったんでしょうね」


 ベルが淡々と話しているところを見ると、彼女に同情しつつも割り切っている様子である。

 彼女らしいと言えば彼女らしいが、流石に少し冷たい気がした。


「けど、私達は紛いなりにも“仕事人”なの。ギルドから斡旋された依頼を請け負い、解決するのが役目。ギルド以外から仕事を引き受けるのはご法度だってキミも知ってるよね」

「ああ、分かっているさ」


 ギルドの規約として「ギルドを通さない依頼の受注の禁止」というものがある。

 この規約が制定されているのには理由が2つある。

 1つは「国が金銭の流れを把握するため」。税金を主な収入源とする国家として、取り引きを管理するのは仕方のないことだ。特に九大国と協力関係にあるギルドとしては、ここは厳正にならざるを得ないのは当然である。

 そしてもう1つ、理由としてはこっちの方が本命であるが、それは「ギルドがギルダーの仕事を把握するため」だ。

 まだ、旧組織「シュバルツ」から現ギルドに再構築されて間もない頃、規約の整備が進んでいなかった当初、ギルドでは個人で仕事を引き受る裏取引が横行していた。当然そうなると力のある者が大きな仕事を独占したり、口約束による金銭的理由を主としたトラブルが多く発生したりしたという。当然、その問題が発覚したあかつきには、責められるのはギルド側だ。流石に組織の知らないところで起きている取り引きのいざこざに巻き込まれては、ギルドもやるせない。

 だからこそ、ギルドはギルダーが引き受ける依頼を制限した。仲介役として報酬や依頼内容を正式なものに調整することで、ギルダー、依頼者へのやり取りを円滑に進められるようにしたのだ。


 その為、ギルドはギルダー達に対しては「受けられる仕事を制限」し、依頼者に対しては「請け負う仕事を選ぶ」ことで、双方のバランスを(もたら)している。

 国からの援助によって依頼者の負担が少なくなり、多少依頼を発注するハードルが下がった現代においても、こちらまで届かない仕事未満の依頼がまだ多く存在している。


 彼女も……その1人なのだろう。


 報酬を払えない者は、依頼者として認識されないのだ。彼女がその報酬を払えるような存在には見えない。

 平穏という化けの皮を被ったこの世界ではこういった事例は少なくない。それに慣れてしまった人々は、彼女の泣いている姿に一度目を向けるも、そのまま何事もなかったかのように通り過ぎていく。


 皆、関わりたくないのだ。


 事実、ひと月前の私なら、同じような反応だったかもしれない。「私では無理だ」「誰かがやってくれる」──そんな言い訳が私の耳元で私を誘惑する。


 私達は再び、歩き始めた。

 彼女に背を向けて、私達も見なかったことにしようとして──。


 しかし、私の頭にとある情景が過ってしまった。

 あの日、私の人生が狂った、あの地獄──ぬいぐるみを持って泣き喚く、1人の少女。

 あの少女と彼女の輪郭が重なって見えてしまったのだ。


 そうか、私が抱いていたモヤモヤは、これが原因だったのか。


「ベル、リリス、ごめん。私にはやっぱり出来ないや」


 だから、今の私には、彼女を放っておくことなど──出来なかった。

 ここで見捨てては、必ず後悔する。

 そう思うと自然と身体が動いていた。


「どうしたんだい?」


 そう言って、彼女に手を差し伸べる。

 例えギルダーとして間違っていても、人としては間違っていないはずだ。


「全く、キミはお人好しだな」


 そんな呆れた台詞が、私の背中から聞こえてきた。

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