第二章 プロローグ
この物語は、ただの創成物語である。
この世には絶対に相容れない存在が幾つか存在する。その例として挙げられるのは以下の通り。
水と油
猿と犬
そして、人間と龍──
昔からそんな龍と人間の因縁は深い。
それは神話と呼ばれる太古から続く、長きに渡る対立──
龍は頂点捕食者。
生まれながらの強者にして、絶対なる支配者。
神すらも恐れぬその気質は、常に高みを目指し、ありとあらゆる生物を征する圧倒的存在。
誰も彼もが奴らにひれ伏す。
まるで生物としての細胞1つ1つに彼らに対する恐怖が植え付けられているかのように畏怖し、跪く。
数千年前まで、地上は彼らの世界だった──。
だが、そんな龍に果敢にも立ち向かう愚かな生物が存在した。
それが"人間"だ。
彼らはその強さに憧れ、それを欲した。
支配される側から支配する側へ
弱者から強者へ
渇望し、鍛え、上を目指す欲望──人間はそれを持ち合わせていた。
無論、それに対し龍は挑む者には容赦はしない。
時には1つの国軍を討ち滅ぼし、時には返り討ちに遭い、国を消し炭にされた。
それによる被害は甚大。心半ば討伐に折れる者もいれば、彼らを崇める者を出始めた。
しかし、人間は諦めが悪かった。
ある者達は数で押し攻め、ある者は策を張り巡らし、またある者は力で圧倒した。
一進一退の均衡状態──そんな中、1体の龍が生まれた。
彼は生まれながらにして龍の王。総てを統べる為に生まれてきた生物界の最強。
そんな彼はたった1体で瞬く間にこの世の勢力の均衡を一変させた。
その炎息は地を焦がし、
その風圧は嵐をも呼び起こし、
その爪はあらゆるものを無に帰す。
人間も、獣も、同じ龍さえも、彼を恐れた。
いつしか人々は、彼をこう呼ぶようになった。
龍帝──と。
そうして、それまで競っていた人間と龍の均衡が一気に逆転し、流れは龍の時代となった。
しかし、彼はとある時を機に姿をくらました。
対魔戦争──
そう、魔王に戦いを挑み……そして──敗れた。
それからというもの、人間と龍は均衡状態を保っている──いや、そんなわけがなく、人間が圧倒的に優勢となっている。
人間が龍を狩るようになったのだ。
爪や牙は工芸品の、表皮は革製品の、鱗は防具の素材となり、コアはオリハルコンとされるほどの希少品として扱われ、魔道具の一部として高値で取引されている。
それは現在も続いており、対魔戦争が終わって以来、人間が世界を統治している。
このように、人間と龍は接することはあっても、決して仲を交えることはない。
私は、ずっとそう思っていた。
──そう、あの時までは。




