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11回目の転生目録  作者: 上代 迅甫
第一章
33/52

第一章 エピローグ

この物語は、ただの創成物語(フィクション)である。

 王城内のとある一室──。


 そこに、先日受けた(ドラゴム)襲撃の件により、対策本部が立てられた。我々対策本部は本事件を「レガリアの悲劇」と名付けた。


 死者数──約80,000人

 行方不明者数──5,000人以上

 倒壊家屋──約4,700軒

 本事件による被害総額──未知数(現在測定中)


 この数字を見るだけでも、被害の規模が伝わるだろう。正直もう、この数字は見たくない。被害総額なんて考えたくもない。


 この俺こと「リア=サルベージ」はこの本部長という任を与えられた、しがない右矛(ゆうぼう)隊の第9隊隊長。俺自体にパッとした特徴もなければ、10ある右矛(ゆうぼう)隊の後方で控えている──所謂、日陰者だ。


 正直、俺は今のこの仕事には気が乗らない。


 原因解明という王国の平和に関することなのは理解しているが、如何せん、私がやりたいものでは無い。

 もっと兵として、この剣を振るい悪を断つような勇ましい働きをしたいのが本音なのだが……。しかし、実力もなければ親のコネだけでここに居る俺は、上の司令には逆らえない。実力主義の衛兵団内でもあまり快く思われていないのは、俺でも分かっている。

 まあ、取り敢えずやるか。


 だが、そんな気の乗らない仕事でも、やってみると意外と作業の腕はそこそこ動くもんだ。

 それに気になる点もあって、ここで任を切るとモヤモヤもするしな。


 さて、状況を整理しよう。

 この「レガリアの悲劇」だが、妙な点が多々あった。


 まず第1に(ドラゴム)は基本的に格上と自身が感じた者にしか戦いを挑まないということだ。

 奴らはプライドが高い。1体1体が自身を絶対なる強者だと思い込んでいて、自身が強者たる所以を示すために格上に挑むのが殆どだ。

 格下には捕食目的で襲うことがあるものの、集団で町を襲わないといけないほど、飢えるものか。あの頂点捕食者の(ドラゴム)が。


 第2に、(ドラゴム)は基本団体行動をしない。

 (ドラゴム)は孤高の存在。プライドの高さも相まって絶対に集団行動は行わない。そもそも、同族嫌悪の象徴みたいな奴らが、お互いがお互いを憎み殺し合うような協調性の欠片もない奴らが、徒党を組めるはずもない。


 どちらも(ドラゴム)の習性の異変──どうやら、今回襲った(ドラゴム)には共通した異常事態があった様なのだ。

 しかし、その死骸の見た目には何も変化が無かった。外傷の痛みによる暴走でも、マナ暴走でも無いのだとすると……内部的な要因。


 だとすると1つ、懸念がある。

 無論、それはまず有り得ないと思っている考えだ。


 しかし、それは有り得ない。いや、あってはならない。

 それが1番最悪で、最低な結論。

 それだけは絶対にあって欲しくない。だから、俺は考えないように一瞬でその考えを振り払った。


 だが、その懸念は思いもよらぬ確信へと姿を変える。


「隊長! 一大事です!」

 若い新兵が、物凄い剣幕で室内に入ってきた。何があったんだ。まるで天地でもひっくり返ったかのような様相で、飛び込むように入ってきた新兵は俺の前で息を荒くしながら、何かを伝えようとしている。


「何だ? 何か分かったか?」


 新兵の手には1枚の紙。

 それを手渡され、中身を確認する。

 堅苦しい、例文じみた文章。文脈だけで、それが学者連中のものだと理解出来る。


 内容は……(ドラゴム)の身体検査結果についてか……。


 ──


 ───


 ────


 一つ一つ、見逃しのないよう、丁寧に閲覧し、数枚に纏められた資料を(めく)っていく。

 そして、その結論を理解した途端、私の顔が突然と青ざめた。


 ──っ!?!?


「今すぐ王子2人に内容を報告しろ! 本件の全容を纏め、直ぐに各国主要人物への伝達も行えるよう準備しろ」

 私の次の行動は速かった。反射的に、身体の全細胞が危険を知らせているかのような、そんな気がした。

 これは急いで上層部に……いや、この国だけでなく、他の周辺諸国にも伝達しなければならないほどの一大事だ。

「民への情報公開はまだだ! 唐突に伝えては国中大騒ぎになる。他の隊の者への伝達も行うな! 現時点で情報を認知している者のみで事に当たれ」

 民に報告するには、あまりにも唐突で、大き過ぎる。今は何としてでも秘匿するべきだ。


「これは……宣戦布告とも受け取ってもいい。早く対策を講じなければ……」


 そう、これは王国の……いや、王国どころか全世界の平穏を揺るがす大事件──こんな対策本部、小さ過ぎて話にならないほどの壮大で絶大な大異変。

 今すぐ対処しなければならない。




「着々と、魔王は力を取り戻しつつある……」




 俺の手の中には、(ドラゴム)体内から(・・・・)あるはずのない(・・・・・・・)邪素が発見された(・・・・・・・)という「報告書」が握り潰されていた。





 第一章《完》




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