第 ⅩⅩⅠ 話 足りない刃
この物語はただの創成物語である。
今日も今日とて、私たちは
今回は"ゴブリム"の討伐である。
ゴブリム────全身緑色、群居性の魔物。別名「小鬼」。生存本能が強く、種を残す為に格下の魔物や他種族を襲う習性がある。その際に邪素を感染させてしまう為、子供や非力な者は出会ったら逃げることが推奨されている。また、相手が格上だと知ると直ぐに逃げる。
今回の目的地であるここ"ダルダスタン山地"は岩肌が目立ち比較的標高が低い山々が連なるところだ。魔物が暮らしやすい温度、暗さが保たれている洞窟が多い地帯である。
アニキはアニキで闘い易い場所であるからか、前よりも生き生きとしており、火属性魔法を纏った触手を存分に振るいながらゴブリムを薙ぎ倒している。
アンジュもルークも周りが開けていて動き易いからか、その足取り、手取りが軽い。
一方のもう1人だが、相も変わらず後衛だと言うのに前に立って闘うし、お得意の雷属性魔法で次から次へと討伐していく。流石の剣幕に怖さすら感じるほどだ。
さて、私は前回と同じ雑用だ。
まだ息のある魔物にトドメを刺し、今回は周囲に燃えるものがない岩場の為、その魔物に火をつける。燃えない骨やコアなどはギルドに提出、換金するために回収する。
地味だが、ギルダーとしては重要な行いである。
そう、これは前回もそうだ。
しかし、今回は前回とひとつ違う点が存在する。その違う点とは、人数が1人増えていることである。
「おい、そっちに1匹逃げたぞ!」
「任せろ」
そう、リリスの参戦である。
彼女の戦闘センスはずば抜けていた。肉弾戦を主体としているのに篭手や鎧といった装備を付けず、凶暴な魔物相手に素手で殴り込んでいく。
傍から見れば普通の少女なのに、魔物相手に1つもたじろがずに挑んでいく。
そしてどう考えても、動きが玄人じみている。まるで相手の次の行動を知っているかのように予測し、的確に急所に拳を叩き込んでいる。あのゴブリムが殴りの一撃で吹き飛ばされ、その場に伏しているのを見ると、相当強力なものが叩き込まれているのだろう。
その実力が伺えるのは攻撃だけではない。回避にもその片鱗が顔を見せている。
獣人は五感が研ぎ澄まされていることは知っている。だがそれにしても背後の敵に対して見えているかの如く可憐に避け、流れるように次の行動に移るのは流石としか言えない。
闘い慣れしているのは火を見るより明らかである。
あまり期待していなかったアニキ達もこれには唖然である。
そもそも、アニキ達は彼女を仕事場に連れてくるのは否定的だった。命に関わる危険な仕事だからだ。そんな場所にあくまで居候しているだけの少女を連れて行けないと思っていたのだろう。
本来は家で留守番してもらう予定だった。が、リリス自身がそれを嫌がった。「私も闘う」と言って聞かなかったのだ。あまりにもしつこい彼女に「戦わないこと」を理由に追従を許可した次第である。
しかし、結果はこの有様だ。
あくまで私のような雑用としてこの場に連れて来たはずだったのだが、戦闘本能が刺激されたのか、その仕事を放棄してまでゴブリムに殴りにかかっているのだ。
しかし、アニキは何も言わなかった。
■ ■ ■
「ほれ、身体が追いついてないぞ!」
痛っ!
アニキの木刀が私の右肩を打ち付ける。
「今のが本物だったら致命傷だぞ!」
そう言いながらまた一撃、一撃と私の身体を痛めつける。私も反撃に出るがいとも容易くいなされ、そして2、3倍になって返ってくる。
「よし、一旦休憩だ」
ようやく猛攻が止まった。
その言葉を待っていた私はゆっくり木陰に腰を下ろすが、疲れよりも痛みが打ち勝つ。
見ればあちこち赤く腫れ上がっている。服越しなのだが、全く緩和剤にもなっていないところ、相当強い一撃だったのが窺える。
しかし、そんな事よりも、私はアニキに対して1つ疑問に思っているところがある。
「ところで、何で剣なんだ? アニキならてっきり武術だと思ったけど」
アニキは普段、剣を使わない。神の恩恵と肉弾戦を得意とした戦法で敵を仕留める、どちらかと言えばいわゆる武闘派の人間だ。
神の恩恵でたまに剣を模した武器を精製したところは見たことあるけれど、それでもアニキがそんな武器で真っ向から戦っている姿は見たこと無かったのだ。
ふとそれが気になったので聞いてみる。何か文句があるわけでもなく純粋にそう思ったからだ。
するとアニキは徐に立ち上がってその理由を話し始める。
「剣を教えるのは、まあそれが一番俺にとって教えやすいからだ」
「知っての通り、俺はどちらかと言えば接近戦が得意なんだ。だが、それは今のお前には無理だろう。もう少し筋肉がないと基礎も教えられん」
ぐうの音も出ない。
もし、あの中での筋力の順位付けを行うなら、私はベルに続いて2番目に低いだろう。リリスはともかく、アンジュさんにも勝っている気がしない。それほどまでに非力なのだ、私は。
自己満足でもいいから、もっと鍛えておけばと今更ながら後悔だってしているほどだ。男として情けない。
そんな私が、今の段階でアニキの教える武術に到底追いついていけるはずがないだろう。だったら、他のことを教わりつつ身体を鍛えていき、そして武術に移る方が効率もいい。
「それに肉弾戦は対魔物に関しては不利なんだ。体内に邪素が侵入すれば命に関わる対魔物において、本来は魔法や弓などで距離を取ってことにあたるべきなんだ。だから生半可に武術を教えてもどうかと思ってな」
近接戦は不利という発言を聞いて、ふと思う。
あの半獣半真の少女はどうなのかと。
「リリスの事か? アイツは……ハッキリ言って異常だよ。そもそもの身体能力が常人離れしている上に、動きが卓越されていて無駄が無い。少なくとも俺が体術で彼女に教えられることはないし、俺達が心配することは今のところないだろう。ったく、あんなのどこで教わったのだか……」
続けて「あの動きを見ていれば、俺達が狩る相手には特段問題はないだろう」と言っていた。
傷を負うどころか、返り血すらものともしない彼女に安心したのか、はたまた余計不安なのか、どちらにせよアニキは浮かない顔をしていた。
というか、魔獣の血は触れると炎症を起こして赤くなってしまうのだが────彼女は特に問題なさそうであったし大丈夫ではあるだろう。
だが、どおりでアニキが何も言わなかった訳だ。まあ、アニキ達からすれば心強い戦力が増えただけに、ありがたい気持ちも多少はあるのだろうが……。
もっとも、アニキ達はそれでも彼女が戦うことに気乗りはしないらしい。
「弓も使えるが、教えるほど得意じゃあない。ならせめて少し距離をおける剣くらいと思ってな。近接戦に変わりは無いが、直接触れるよりマシだろう?」
弓はアンジュさんの専売特許だ。
「魔法じゃあダメなのか?」
「魔法は別に構わないんだ。だが、俺が言いたいのは"魔法だけ"じゃあダメだってことだ」
私は「逆にそれの何故ダメなのか」と返した。
だってそうだろう。魔法ができる人が体術を極めたところで何の役に立つ。結局出来ることは肉弾戦の劣化だ。
だったら得意分野を伸ばせばいい。そうじゃあないのだろうか。
そう思っていた。だが────
「そもそも俺は第1級魔法が使えるが、だがはっきりいってお前の方が魔法のセンスはあるだろう。しかし、それだけではダメだ」
「なら、尚更……」
「例えば、魔刃を失ったらどうする? そんな時お前には他に何がある? どうやって相手と戦うんだ?」
武術は常人未満、剣技は素人、弓矢なんて論外。
私に残っているのは、せいぜい人並みの知能くらいだろう。だがそれも、戦闘にはあまり役に立ちそうにない。
まあ、今思えばそれもそうだろう。元来私はギルダーになど成る気が無かったのだから、成り行きで後先考えずにこの道に足を踏み入れた身としてはあまりにも持ち札が弱過ぎるのだ。
「一つだけしか戦い方を知らないギルダーの寿命は短い」
それに、私が考えていたのは、あくまでも「他の誰かがいる」という状況に過ぎない。
己の身を守るのは、結局は己自身。
頼みの綱の魔法も、魔刃を奪われればあの様だ。路地でチンピラ達に絡まれたあの時を思い出す。
「甘い気持ちで踏み入れた結果だ」とでも言いたげなアニキはいつもよりも真剣な面持ちで私を見下ろしていた。事実、それに何も言えなかった。
「『第2、第3の刃を持て』────俺の師匠の言葉だ」
的は射ている。
その言葉を発したアニキはどこか誇らしげで、真っ直ぐだった。
だが────
「器用貧乏ってのは、あまり好きじゃあないんだけどな……」
「おい、器用貧乏とは失礼な! 万能型と呼べ!」
そう茶化すと直ぐにいつものアニキに戻った。




