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11回目の転生目録  作者: 上代 迅甫
第一章
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第 ⅩⅡ 話 やはり分からない

この物語は、ただの創成物語(フィクション)である。

「違う」


 無慈悲にそれは問いを否定する。


「違う」


 これで何度目か分からない不正解の通達が私の耳を痛める。


 そうやって何度も、何度も何度も、思いつく限り問い続ける。

 そして、遂に万策が尽きた。


「ダメだ、全然分からない……」


 真っ白な世界に、私ともう1人の声が木霊(こだま)していた。


 あれから私は、自身の『キオク』に関してだけでなく、彼のことについても考えていた。

 他者の意識に潜む彼は何者なのか、彼は何を知っているのか、私にとって彼はなんなのか────いや、『キオク』よりもそれについて考えることが日に日に増していたのだ。


「やあ、3日ぶりだね」


 男はまた知らぬ間に()()に立っていた。


 ヌネ────変わった名を名乗った金髪の男である。


 3日ぶりというのは、そのままの意味である。

 どうやら、この世界を自由に行き来出来るようになるには、私はまだ実力不足なようだ。

 どうすれば来られるのか、不安定で、不確定で、せいぜい祈って3日に1回程度がやっとのことである。

 こうやって彼のお眼鏡にかなうのも、まだ4回目の話になる。


 いることは分かっていた。

 だが、姿だけは見せていなかった。

 彼は私がギブアップするまでずっと、私の問いに答え続けていたのだ。


 それは彼の正体の言い当て────正直、当てずっぽうだ。


 友人、親族、知人、新聞に載っていた名前、有名人、物語の登場人物、神話上の神の名に至るまで────私の知っているありとあらゆる名前を片っ端から言っていった。

 だが、それでさえ彼の名を当てることは出来なかった。


「流石に、それはないんじゃあないか?」

「じゃあ、私が挙げた名前の中に正解はあったのか?」

「残念だが、あの中にはないよ、私の名は」


 頑なに名乗らない男は、少し不気味な笑みを浮かべながら、ただ(たたず)んでいた。

「何だ? その笑みは」と、不貞腐れながら私が尋ねると彼はこう言う。


「嬉しいんだよ。キミが私に興味を持ってもらえて」

「───?」


 何を考えているかは分からないが、これだけは言える。

 少なくとも、あの笑みに悪意や裏はない。

 何故か私はそう確信めいたものを感じていた。


 ■ ■ ■


「当てずっぽうじゃあ駄目さ。落ち着きたまえ、一度キミの考えでも聞こうか」


「答えを焦りすぎだ」と彼は暗に伝えていた。じっくりでも構わないと余裕を煽るが、私の好奇心と答えが出ないモヤモヤとした気持ちが、それを急いていた。


 だが、彼の言うことも一理ある。

 取り敢えず、ここは考えを整理しよう。


「どうも、赤の他人には思えないことは分かるんだ。その顔、その声、その口調、考えれば考えるほど知っているような気がしてやまない」


「ふ〜ん……」


「でも、やっぱり見当がつかない」


 だが考えれば考えるほど、何かのどつぼにハマってしまい、今はこれ以上答えが出そうにない。

 流石に、今日はこれくらいにしておこう。考えるだけ無駄だ。


「おいおい、流石に鈍いにも程があるんじゃあないか?」


 呆れた顔で、彼はそう言った。知っているからこそ言える台詞、出来る表情だ。だが……


「まあ、キミらしいっちゃあキミらしいが。考え過ぎて、身近にある答えに気づかないのは、実にキミらしい」


 それも全て、彼には分かっていた事のようだ。

 何故だ……何故彼はここまで、分かっているんだ……。まるで彼とは幼い頃から過ごしてきたかのような、そんな振る舞いだ……いや、だとしても覚えはないぞ。


「キミは、何を望んでるんだ?」


 そう尋ねる。


「ああ、私かい?」


 だが、少しの間を開けて、いつものように悟ったように彼は口を開く。


「大丈夫、私は私さ。そのうち分かる」


 またもやはぶらかす。……いや、言えないんだったっけ。それを私が見つけなければならないのであり、それが私を答えへと導く────確か、そのようなことを言っていた。


「何度も言うが、キミはそれを見つけなければならないんだ。いや、もう分かっているはずなんだ」


 やっぱり妙だ。

 幾らなんでも、私に期待しすぎじゃあないか。そんな彼の眼差しが、私をより違和感で包み込む。


「何故そこまで分かるんだ?」

「分からないさ。私は何も分からない。でも、キミは分かっているはずなのさ。それが何かなのかは言えない」


「分かるだろ?」とでも言いたげそうだった。……いや、分かるが、その顔が少しイラつく。


「成程、分かった」


 そうとしか私は言えなかった。


「そう焦らなくてもいい、キミはいずれ答えに辿り着く」


 彼はそう言った。いつものように、全て分かった口調で。


 ────そうこうしているうちに、そう言えば聞き忘れていたことがあったのを思い出した。ずっと聞きたかったのだが、ついタイミングを逃してしまい、聞けなかった話だ。


「1つ、聞きたいことがある」


「なんだい?」




「あの第1級魔法(まほう)を使ったのは、私なのか?」




 この人はそれを知っていた。まるで知っているような素振りをしていた。……いや、知っているんだ。

 確かにあの時、彼はこう言った。


 あの時キミは、赤い(ドラゴム)に追われながらも……────


 つまり彼はその後のことも知っている。

 ならば、あの時何が起きたか、あの場では何があったのかを知っているはずなのだ。


「急にどうしたんだ? それはキミが否定していたじゃあないか」


 彼が質問を否定で返すが、これはわざとだ。鈍い私にでも、このくらいの罠は分かる。

 それが顔にも出たのか、彼は私の表情を見ると「ハハッ」と笑い、話し始めた。


「確信はしていないが、そろそろ諦めを覚え始めているようだな」


 目を瞑って彼はそう言った。


「じゃ、じゃあ……」

「君がそう思うんなら、そうなんじゃあないかな」


 どこまでも、素直でないというか、私を逆撫でするというか、あやふやな男である。

 だが、彼のその返し方は、私の考えをより確信へと近づけた。


 しかし、認めたくなかった。

 だが、認めざるを得なかった。

 少なくとも、私はあの時、何も覚えていないのだ。意識が飛び、気がつけば凍りついた(ドラゴム)が目の前にいた────これを本当に私の力として認めていいのだろうか。


 自惚れたくなかった、そう思った。だから今まで目を瞑っていた。薄々そう思っていた心を自分で閉じた。


 悩む私など、気にもせず彼はこう言う。


「悩むキミに、ならば問おう。他に誰がいる?」


 よく言ってくれる。こっちの気持ちも知らずに……私しかいないと言えば彼はこう言うのだろう。

「キミが言うならそうなんだろうね」────と、また掴みどころのない台詞を言うのだろう。

 ますます奇妙で謎だ。


 取り敢えず、返された問いには答えなければならない。私は私なりの答えを返す。


「あの時、声が聞こえたんだ。脳に直接話しかけてくる声────意識が朦朧としてたから声色なんて覚えてないけど、誰かにこう言われたんだ」


 〘キミに力を貸そう〙


 あの時、聞こえた声────いや、声ではなかった。声ではなく、意思伝達。まるで脳に直接語りかけるようなテレパシー。

 その感覚に慣れていない私は、まるで耳で感じ取ったかのように認識してしまったのだろう。だから声と錯覚した。

 だが、あの時も分かったように、間違いなくあれは口から発せられた空気の波ではない。信号とかそれに近い。


 すると一つ、案が生まれた。大した根拠もないが、質問してみる価値はある。


「君にこれを相談してて、もう1つ聞きたいことが出来た」

「何だ?」




「君は現実に存在するのか?」




 ■ ■ ■


 ふと思った。こうして、私が話している彼は、果たして実在している人物なのかと。

 こうやって私が知らないことを知っているだなんて、そもそも彼が人間なのかとすら疑う。"意識の世界"なら、彼は私が作り出した空想だという可能性もあるが、私が私以上の知識の存在なんて作り出せない。

 ならどうだろう。彼は私と違った他人と考えるのが筋ではないだろうか。

 私の"意識の世界"に介入してくるなら、神の恩恵の力だろうか────

 或いは、私の想像の域を超えた超越した者なのだろうか────と。


「ほう、そう思った根拠は?」

 また、ニヤついた顔で彼は聞き返す。

「単純な理由だ。君はこの『意識の空間』に介入できているから、頭の中に直接語り掛けることとか出来るのかなって……」


 意識の空間────分かりやすく言えば夢の世界。つまり、私の脳内に存在する、()()()()()()だ。ならば、この世界に介入出来ている彼なら、私の普段の脳に直接語りかけてきてもおかしくは無い。あの時、私を助けたのが彼なら、今こうやって私に力を貸してくれているのにも少し納得がいく。


 怪しく口角が上がったままの表情で彼はこう言った。




「だとしたら、どうするのかね?」





 暗にそれは、"答え"を告げていた。


「じゃあ、あの魔法は、君が!」


 〘力を貸してやろう〙────あの時の言葉が彼のものなのなら、彼があの魔法を使ったのも彼がやったということになる。

 私は彼の聞き返しに対して、すぐさまその言葉を返した。

 だが、彼は笑ってこう返す。


「おいおい、それはもう導き出したじゃあないか。他でもないキミがさ」


 そう、それはもう終わった話なのだ。やったのは彼ではない。他でもない、私がやったことだって、さっき確信したばかりではないか。

 私は「そ、そうか」と言いつつ、熱くなった心を落ち着けた。たまたま浮かんだ疑問が、案が、答えに繋がったと思うとつい思考が低下してしまったのだ。



「まあ、あながち間違ってはいないんだがね」



 ボソッと呟いたその言葉を、私は聞き逃さなかった。


「えっ、それって……」

「おっと、残念ながらお目覚めの時間だ」


 またもや都合のいいように、その時間はやってきた。

 まるで逃げるかのようだ。私を弄んでいるかのようだ。なんだろう、この感覚────まるで人をからかうのが好きなベルに近い。あまり、いい気分とは言えない。


「次会うのは、3日後か。それともそれ以上かは分からないが、次会う時は良い結果を期待してるよ」


 意識が薄れる。

 この世界から遠ざかるのが分かる。


 次会うのはいつになるだろうか。

 果たして、答えはいつ導き出せるだろうか。

 だが、今回は収穫はあった。この答えが導き出せるのはそう遠くない気がする。



 そうして"意識の世界"の私は、現実の世界の私へとバトンを渡した。



 そしてこの時、私以外にもう1人、目覚め始めている者がいることを、私はまだ知らない。

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