表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11回目の転生目録  作者: 上代 迅甫
第一章
12/49

第 Ⅸ 話 王都『ギルティア』

この物語は、ただの創成物語(フィクション)である。

 故郷を出てから早1日、野宿を経て、私達は目的の街へと進んでいる。


 進んでいるはのだろうが、周りは鬱蒼(うっそう)と生い茂る木々が視界の殆どを占めており、代わり映えがしない。王都に行ったことのない私からすれば全く目的地に近づいている気がしない。

「王都まで、あとどれくらい?」

「もう少しだ」


 森を抜けると、高台に抜けたようで、周囲の景色が一望できる。

 辺り一面、広い草原──そして、その奥に巨大な城壁とその奥に佇む家々、そして崖の上に居を構える真っ白な王城が私達を迎えていた。

 まだ距離はあると見えるが、それでも城壁だけで街の大きさは想像に容易い。


 王都『ギルティア』──アルデート王国建国以来、数百年もの歴史を持つ大都市である。人口は120万人にも及び、その規模の大きさは世界第2位を誇る。

 大国戦争時代に他国の侵入を拒む為に築かれた堀は、その都市を丸々取り囲んでおり、唯一都市の入口に架けられた石橋は、その長い歴史を物語っている。

 橋を渡ると見えてくるのは巨大な城壁だ。これも王都の周囲をぐるっと1周しており、堀と相まって国への侵入をより困難なものとしている。又、城壁の4箇所に建てられた塔は空からの侵入を防ぐ為に、昔は結界が貼られていたそうだ。今はただの飾りと化しているが、それでもその存在感は未だ健在である。


 巨大な城壁に差し掛かり、唯一地上から王都内へと通ずる大門が私達を出迎える。その圧巻とした(たたず)まいに思わず、口が開いてしまっている。


 だが、門を潜ろうとすると、衛兵に呼び止められた。


 王都に入るには他国の許可証や王都内に住んでいるという居住証明が必要となる。内部に不審な人物が侵入するのを防いだり、王都への出入を管理したりする為である。もっとも、ここ数年でそんな大きな事件を聞いたことはないが……。

 声を掛けてきた衛兵は無精髭(ぶしょうひげ)を生やし、少し胡散臭そうな男がこちらに近づいてきた。白い胸当てや羽織を身にまとっており、一応王国の衛兵であることが分かる。しかし、私の想像するところの"王国の衛兵らしい人間"とは似ても似つかない顔立ちだ。


「ちょっといいかね、そこの君達。君達はどういう関係かね?」

「俺達はギルダーの仲間同士です。この2人はこいつの知り合いになります」

「ふむ、なるほどねぇ……」


 明らかに怪しまれている様子だ。無理もない。破れや汚れが目立つ服装に、怪我をしていると一目で分かる見た目の私を背負っているのを見て、不審に思わない方が難しい話だ。

 何やら手持ちの紙に何かを書いているようだが……報告書だろうか。


 すると、ルークさんが1歩前に出て、その衛兵に話しかけた。


「申し訳ないですが、早急に衛兵団の方々に伝えて貰いたいことがあります」

「ん? 何かね?」

「突拍子のない話で申し訳ないのですが……」

 大して重要なことではないだろう、と思っているのだろう。持っている書類を書き込みながら、ルークさんの話を聞く。

 だが、次の瞬間、場が凍りつく。


「北西の町、『レガリア』が(ドラゴム)の被害に遭い……壊滅しました」


 彼の言葉を聞くと、衛兵は筆を止めた。

 近くで同じように聴取を受けている人たちもこちらを向いて驚く。

「それは本当かね?」

 冷静、かつ少し強ばった面持ちでルークさんに聞き返す。

 その表情は胡散臭い顔からは想像もつかないような"凄み"を感じさせる圧があった。

「こ、この2人がその生き残りです。偶然立ち寄ったところを発見し、保護しました」

 その警備兵の突然の変貌ぶりに、少したじろぎながらも、ルークさんは続きを述べた。凍りついた場が一気に慌ただしくなり、

「おい、急いでこのことを本部に伝えろ! 残りの兵は至急調査の準備と許可書を書き上げろ」

「はっ!」

 報告を命令された衛兵は急いで走っていき、一方で許可書の命令をされた衛兵達は準備を整える。事の大事さは目にも明らかだった。


「まあ……それは災難だったな……」

「信じるんですか?」

 突拍子もない話をしたのに対し、やけにすぐ飲み込む反応に、私も疑問を抱いていた。

「ん? ああ。近頃、魔物共の動きが活発化している。流石に壊滅まではいかないが、酷いものじゃあ村が半壊した報告もあるんだ。そこまで信じられん話でもないさ」

 確かに、週一で届く新聞でチラホラと町や村が魔物に襲われた話を目に通したことがある。町の人達が危機感を覚える中、私は大丈夫だろうとあまり重要視していなかった為忘れていたが、もしかして何か関係があるのだろうか……。

 だが、町が丸ごと壊滅してしまったケースは今回が初めてのようだ。関係があったとしても今までとは規模が違う。


 手元の書類を書き上げると、胡散臭い衛兵は私とベルを見つめ、1つ質問をしてきた。

「2人の身分を証明できるものはあるかね?」

「申し訳ないですが……」

 家も何もかも失っているのだ。当然、身分証明できるものなんて持ち合わせているはずもない。

「まあ、そうだろうねぇ……」

 少し身構える。薄々覚悟はしていたが、やはり私達は王都には入ることはできないのだろうか。


 すると、衛兵はおもむろに事務所に向かい、何かを取り出しては、それを持ってこちらに近づいてくる。

「そういうことなら分かった。だが、そこの2人の身分が証明できない以上、我々の監視下から見逃すことは出来ない。取り敢えず事実確認が出来るまでこれを付けさせて貰おう」


 すると衛兵は金属で出来た輪を取り出し、私とベルの左手首にとりつける。手錠のようだが、別に腕が不自由な訳ではなく、金属で出来た腕輪みたいである。


「これは……」

「ただの監察錠だ。安心しろ、我々の監視下であることを表す為の腕輪だ。妙なことを起こさなければその内外れる」


 どうやら監察身分のある人間に取り付けられる簡易な錠のようだ。仕掛けなどは教えてくれなかったが、話を聞く限り、普通に過ごしていれば別に危険なものでは無さそうだ。


「擦れ違いに他の衛兵に何か聞かれるかもしれないが、慌てずに普通に質問に答えれば、すぐ解放される」

「分かりました」

「ああ、あと他の3人の身分と持ち物は確認させてもらうよ。どうやら、かなり大物を持ち帰ったようで」


 勿論、こういった場において、持ち物検査は忘れてはいけない。

 ルークが手に持ってる大きなオリハルコンを見て衛兵はそう言った。羨ましそうではなさそうだが、こういうのを見慣れてきたであろう衛兵も物の良さに気がついていた。


「あとは取り敢えず、君達の名前を聞かせてもらおうか」

「私は『アベル=ライザック』です」

「『マナベル=レーブルク』と言います」

「ほう、レーブルク家の人間か……」


 特に言及はしなかったが、どうやらレガリアではそれなりの名家であるレーブルク家のことは知っている様子だった。


「2人は何処に置いておくつもりだ?」

「俺達のギルドの宿舎に住まわせるつもりです」

「なるほど、ギルドなら問題ないな……。数日後、うちの仲間が事情聴取しにそっちに伺う。その時は宜しくな。ちなみに代表者の名前は?」

「バッツ=ラースグニル、俺になります」

「ありがとう。これだけ聞けば、取り敢えず今は十分だ」


 そう言うと、衛兵は書類を書く手を止め、別の部下であろう衛兵にその書類を手渡す。


「まあ、なんだ……色々災難があった後なのに済まないな」


 無理もない。疑われるような身分に私達が置かれているのは重々承知だ。

 そんなこんなあって、私達は割とあっという間に開放された。もっと掛かるものだと思って、少し驚いたが、まあ短いのであればそれに越したことはない。


「それでは、君たちに神の御加護があらんことを」


 私達に手を振りながら、去り際に彼はそう言って私達を見届けた。


 ■ ■ ■


「痛っ!?」

「コラ、動かない。男なら我慢しなさい」


 ギルドに着くや否や、私たちは直ぐに医務室に連れていかれた。

 ベルの方は軽い処置で直ぐに開放され、アニキ達の部屋の方に向かって行った。まあ、特に怪我という怪我をしていなかったし、当たり前っちゃあ当たり前なのだが……、問題は私の方だ。

 片脚を折っている上に脇腹を抉っている。応急処置により傷口は回復しているものの、医師による判断は処置が必要とのことだった。


 女医は私の怪我のある脇腹や左脚を執拗に触ってくる……。もう少し丁寧にして欲しいものだ。まだ完璧に治った訳ではないのだから、変な力を加えられたらつい電撃が走ってしまう。


「症状はどうですか、カタリーナ先生」

「腹部の傷は順調に回復が進んでいるわ。応急処置と魔法が的確で助かったわね。介抱してくれた人に感謝しときなさいよ」


 やはり、あの窮地を救ってくれたベルには感謝しかない。先生の言う通り、後でもう一度頭を下げておこう。


「取り敢えず、命に別状はないわ。マナも安定してるし……取り敢えず、左脚の治りが悪いから、今から治療は行うけど、後は安静にしとけば3日くらいで良くなるわよ」

「分かりました」

「は、はぁ……」


 そう言うと、先生は手袋を取り出し、手に嵌める。一体どんな処置をしようと言うのだろうか。


「じゃあ、早速治療に取り掛かるわよ。手袋君、動かないようにそっち抑えてて」


 どうやらアニキは先生から手袋君と呼ばれているらしい。確かに常に手袋は嵌めているが……。

 いや、そんなことより、抑えててとはなんだ。抑えなければ動いてしまうような事をするのか。


「アベル、済まないがじっとしといてくれ」


 そう言うと、アニキは私の両腕に乗っかり、肩を押さつけた。抵抗しようと、必死に藻掻くが、アニキが怪力な上に、あまり筋力が培われていない私にはそれを振りほどく手段は無かった。

 一方でカタリーナ先生は私の右脚に乗っかり、じたばたしていた脚の身動きを封じる。


「強めに力を加えるわ。くっつきかけてる骨をわざと折るようなものだからかなり痛いわよ」

「えっ、それってどういう……」

「少し接着面がズレてるのよ。ちゃんとした治り方をしないと、また折れる可能性があるわよ」

「でも、他に方法があるんじゃあ……」

「技術が発展したとは言え、魔法は万能じゃあないの。貴方も知ってるでしょ。元のものに近いものには治せても、元のものと同じには戻せないのよ!」

「安心しろ! 先生の腕は確かだ! 一応、医師の資格も会得している」

「一応から先は余計よ」


 アニキの一言が更に私の不安を募らせる。


「大丈夫、どんな痛みも死ぬよりはマシよ」

 やばい、この先生、考えが流石に狂気じみている……。

 そう言うと、彼女はなんの躊躇もなく、私の脚に力を加える。さっきもそうだったが、女性とは思えないほどの怪力だ。痛い痛い……。このままじゃあ、本当に骨が折れかね──


 グキッ


 明らかに人体から鳴ってはいけない音が飛び出てきた。

 瞬時に身体全体を激痛が(ほとばし)る。




「う"ぎゃァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!」




 病室内に1人の怪我人の断末魔が轟いた。


 ■ ■ ■


 ダメだ。身体がピクリとも動かない。

 苦痛を乗り越え、アニキ達の部屋に運ばれた私を待っていたのはとてつもない疲労であった。死ぬほど痛い思いをしたとは言え、流石に骨が折れるような痛みに慣れは覚えない。いや、事実折られているのだが……お陰でかれこれ数時間ベッドの上だ。


 アニキの部屋はルークと共同になっており2つあるベッドのうち、アニキが使っている寝床を借りている。


「アニキ、ベッドを借りても良かったのか?」

「別に寝られればそれでいい」


 そう言って床で横になるアニキ。その姿を見ると余計に申し訳なくなるが……この状態じゃあ強がりも言えない。

 お言葉に甘えて使わせてもらうまでだ。


「それより、怪我はどうだ?」

「腕が腫れてきた……耐えられる痛みだけど……」

「ま、まあ、荒治療とはいえ、うちのギルドの医療班だ。的確に治療してくれているのには間違いない」


 聞くところによれば、ギルドの医療班は治療の早さを優先している組織らしいのだ。


「俺も何回骨を折られたか分からん」

「えぇ……」


 聞くに恐ろしい、想像もしたくない。それならば、二度と怪我は御免である。


「まあ、今はゆっくりしておけ。欲しいモンがあれば俺達が用意するからよ」


 そう言って、「何か欲しいものはないか?」と尋ねてくるアニキ。何故かやる気満々というか、自信ありげなその表情を見ると、どうしても甘えずにはいられなくなる。今は特に何も望んでいるものは無いが……適当に何か頼もう。

「じゃあ……」


 ぐぅぅぅぅ〜


 部屋中に私の腹の虫が鳴り響いた。恥ずかしい。

 私の虫の鳴き声に、ホッコリしたのかアニキの顔がはにかむ。ますます恥ずかしい。確かにお腹は空いた。

「そう言えば、そろそろメシの時間だなぁ。安心しろ、既にその手筈は出来ている」

 すると、アニキは自身の部屋の扉を開け、他の皆を呼んだ。「飯はまだか?」という問いに、「今持ってく」と答えている。

 部屋に入ってきた他の3人はテーブルやお盆などを持っており、手馴れた様子でそれを並べていく。一方でアニキは見ているだけだ。


「流石に1人は寂しいだろ。っつーことで……」


 いい匂いがする。出来たてを感じさせ、食欲をそそるいい匂いが。


「暫くは俺達の部屋で全員揃ってのメシだ」


 ■ ■ ■


「ほれ、口開けろ」

 そう言われて口を開けると、アニキは私の口内に料理の乗ったスプーンを力ずくで突っ込む。流石に奥まで入れすぎて思わず()せる。「どうだ? 美味いか?」とアニキが聞いてくるが、料理が熱い上に痛みで味が分からなかった。案外気が利かないアニキらしいっちゃあアニキらしいが、ちょっとは加減というものをして欲しい……。

 でも、何でだろうか。心は暖かい。

 料理の温かみとかそういうのではなく、安心感というか、そういったホッとするものが心を覆う。

 私が飲み込むのを見た途端、アニキは手にある食器(ぶき)を再び私の口に捩じ込む。さっきとは違って上手い具合に口に食べ物が運ばれ、口内から食器(ぶき)が出ていった。やっぱり熱いがしっかりと味が感じられる。美味い。顔が少しはにかむ。


 その表情を見逃さなかったアニキは「そうか! 美味いか!」とまるで自分が作ったかのように振る舞う。

 横から「お前は何もしてねぇだろ」だったり「私達が作ったのにな」だったりで、アニキの発言を撃ち落とすが、アニキは食い下がらない。

「料理は皆で食うから美味いんだ! この雰囲気を作ったのは俺も含む。よって、料理は俺も関わっている」などと無理やり理由づけて3人から反感を食らっているが、私は1人その様子を見てさらに笑みを零していた。

 この賑やかな雰囲気は楽しいし、より食事が美味しく感じるのはアニキの言う通りなのが、少し滑稽だったからだ。



 一方でこのありふれた日常があまり長く続かないことは、まだ誰も知らない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ