第一章 プロローグ
この物語はただの創成物語である。
古来より、この世界には"人間"という生物が支配者として文明を築き上げている。更にこの人間という生物には主に7の種族がおり、それぞれがそれぞれの特徴を持っている。
数が多く、得意不得意の無い平均的な身体能力を持つ『真人』──
体毛が濃く身体に獣の一部を持ち、洗練された運動神経を持つ『獣人』──
長い耳と背に羽を持ち、高度な魔法文明を築き上げた種族『精人』──
背に翼を持ち、高い知能と世界のあらゆる情報を把握する『天人』──
頭部の角か特徴で、高い技術を持ち、数々の発明をしてきた『地人』──
身体に鱗を持ち、唯一水中での長期活動が可能で独自の文明を持つ『海人』──
そして、最後の種族『魔人』──
この主な7の人間が主に今日の世界を創り上げている。
だが、かつて世界ではこの人間達によって、2度の世界大戦が行われていたことを忘れてはいけない。
その内の1つが『種族間大戦』──又の名を『大国戦争』。
その起源は、種族間による種族至上主義の争いである。
史実では、最初の戦争は真人による獣人の虐殺事件が発端と言われている。
真人側の裁判による判決が獣人の納得のいくものではなく、論争から真人による実力行使に発展。
その様子を第三者で傍観していた精人、天人はそれを仲介するが、真人はこれを拒否。
その最中、更に種族至上主義を掲げる人物が地人族長に就任したことで、周囲の国に侵略を進める。地人のよる突然の攻撃を受け、混乱した獣人は周囲を無差別に攻撃してしまい、精人や天人もこれに応戦。
そして今まで、中立に徹していた海人やその他の種族も侵攻を受け、この情勢に警戒し、巻き込まれる形で戦場に加わることとなる。
当時の世界は狂っていたという。
始めは他種族を蔑み、自分達が格上であると信じてやまない盲信者らが下らない理由で起こした侵略行為であったが、後に各種族内部で2つ、3つと意見が分かれ、同族間でも対立状態となり、結果12の国々が同じく大陸統一を目指して鎬を削る戦いを見せることとなった。
どの種族も他種族を殺すことに躍起となり、日々、殺戮兵器・殺傷魔法の研究と研鑽を続け、国は貧困で溢れていた。
勝てば全てが変わる。全てが終わる。
そう信じて、ただ戦場に赴いては殺し合いを続けた。
奴らが悪い。この貧困は、この不幸は、全て他国に起因する。
そう信じて、責任をを擦り付けては、自分達も愚行に身を捧げた。
この戦争は終わりが見えなかったという。
だが、137年前──この戦争を集結させる原因が発生する。
事は唐突に起きた。
大陸の西、ガルダーナ公国の首都が一夜にして占拠されたのである。
後に呼ばれる『ガルダーナの悲劇』と呼ばれる出来事である。
進行を始めた者の名は『マモン』。
神が自ら創りし『七つの神獣』の内の一つ、"強欲"を司る神獣『魔王』である。
魔王はガルダーナ公国を居城とし、すぐさま周囲の国々に伝号兵を送った。内容はガルダーナ公国の実質支配による報告と他の11の大国に対する宣戦布告──人類の隷属と世界の統治を目的とし、次々と大国に攻め入った。
これが先に述べた2つの大戦争のもう1つ──『対魔戦争』である。
その3年後には隣国の軍事国家『バルバロス』を──
その9年後には北西に位置する大国『エステラ王国』の王都が陥落──
日夜、その勢力を広めつつある一方だった。
そこで、争っていた残りの九大国は王を一同に呼び寄せ、会議に乗り出した。
内容は一時休戦と魔王の討伐に対する共同戦線──。
人類の危機に一丸となることを決意した九大国は対魔騎士団『シュバルツ』を結成、魔王勢力と接戦を喫することとなったが、とある存在の登場で、戦況が一気に変動することとなる。
人は過去にも先にも彼のことを『勇者』と呼んだ。
『勇者』が戦線に立ち、初めて戦果を上げたのは『シュバルツ』が誕生してから18年が経った頃だった。
そして遂に──
『対魔戦争』開始から32年、今から105年前、勇者によって魔王が封印されることとなる。
勇者は激しい闘いの中、その身を呈して戦死と相成るが、その力は後世の者に引き継がれるものとなる。
彼はその後、人類を救った『英雄』として伝説の語り草のなった。
一方で、この戦争で互いに協力し、互いを認めあった9つの大国は会談を開き、そこで大国戦争の和睦を承認。ここに停戦を宣言し、100年以上続いた戦争はようやく終焉を迎えたのである。
それから105年──世界は、人間は平和に満ちていた。
だが、平和はいつまでも続くものでは無い。始まりがあれば終わりがある。その、平和の終わりも今まさに迎えようとしている。
3度目の世界大戦が起きんとしているのは、まだこれから先の話のことである──