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序章 プロローグ

この物語はただの創成物語(フィクション)である。

 

 フルメリア暦3052年 某日──

 私こと、セイン・アルトシュタインは死亡した。


 ──これだけの説明では、あまりにも脈略のない展開なので、申し訳ない限りであるが、しかしそれ以外、それ以上にこの状況の説明のしようがないのである。


 私という人物は、もう既に世にいない。


 "死"というのは受け入れ難いものだ。だがしかし、いざ死ぬとなってからでは案外すんなりと許容してしまうのだと、改めて思う。たじろぎもせず、挙句にはもはや何とも感じないでいる。まあ、これはこれで当然なのかもしれない。死んでどうこう言ったとて、今更何が変わる訳でもないのだから。


 けど、まるっきり心残りがない訳でもないのだ。

 遺してきた知人達、彼らへの感謝と陳謝──これに関しては、忘れたくても忘れることはないだろう。

 彼らには、言いたいことも山ほどある。

 彼らにやり残したことも山ほどある。


 ──だが、所詮は死人の戯言だ。死んでいる私には、それを伝える手段すらない。死んでいるのだから、当然と言えば当然なのだが。


 だから、認めるしかないのだ。己の死を。

 そして、諦めるしかないのだ。前世への未練を。



 まあ、そんな自問自答も、もう11度目になるのだが……。



 ────



 閑話(かんわ)休題。

 さて、話を変えると、では今の私は一体何なのかという話であるのだが、しかしそれに関しては、正直自分自身でもあまりよく分かっていない。

 私という人間は既に死んでいるはずだ。それは私自身よく分かっているし、事実死んでいる。だが、私という故人のその意識が、ここにまだ存在しているのもまた確かだ。

 今の自分の姿を自分自身で見ることが出来ていない為か、そう言われてもさっぱりなのだが──


 どうやら、今の私は"魂"だけの存在のようなのだ。


 いや、"魂"とは表現したものの、それでもなお私にはイマイチでピンと来てない。そもそも今の私の姿が、よく思い浮かべる火の玉のようなのか、はたまた煙玉のようなのかすら知らない。ただ、あのお方(・・・・)にそう言われて、そうなんだと納得しているだけなのだ。だが、それも案外受け入れ難いものでなく、今ではすんなりと浸透してしまっている。


 "魂"というのは、どんな生命にも在るようで、生きている間は器、つまりは身体に()()き、生命活動を終えると器の亡くなった魂は、集うように天に召されていく。それから魂は、原則(・・)2つの道へと分かれる。

 ある魂は地獄にて(けが)れを払い、またある魂は冥界にて次なる宿り木を探す。


 これから私は、そのどちらに分類されるか、選別されに行くのだ。

 吸い込まれるように、導かれるように、その選別される場所へと召されている途中なのだ。

 これは強制とと言っていい。"そういう運命"とも捉えても差し支えない。全ての魂は同じように捌かれ、無論私もその1つという訳だ。

 ──だが、どちらにせよ私の魂としての在り方は、既に決まったようなものなのだが……、それでも私は違う選択肢であって欲しいと願う。


 その選択を言い下すのは、これから会うあるお方(・・・・)だ。



 ────



 暫く進んでいると、とある門の前に辿り着いた。

 まるで私を見下ろすように、その存在感を示す巨大な扉。まるで何かと何かを阻むように構えており、見るだけで圧倒される。


 その門がの真下に見える位置まで来ると、さっきまで自然と動いていた私の身体は……、いや、魂は突然動きを止めた。どうやらここが目的地のようだ。

 今まで何かに導かれていた所為(せい)か、自分の意思で動くことができない。押さえつけられている感覚などないのだが、ここから動かないよう私を縛り付けているようだ。まあ、逃げ出そうとか、そんな気はさらさらないのだが。


「セイン・アルトシュタイン」


 門を見上げていると、どこからか名前を呼ぶ声を感じた。勿論、周りには誰もいない。それが私の名であること、私が呼ばれていることは、直ぐに分かった。

 声の方向へ意識をやる。さっきまでは何も無かった扉の前。


 まるで私が来るずっと前からそこで待っていたかのように、そのお方(・・・・)は居た。


 そのお方(・・・・)は、私に選択肢を言い渡すお方。

 全ての魂に、満遍(まんべん)なく裁きを告げるお方。



 私が今回も会いに来た、あるお方(・・・・)だ。



「そうか……前世では"セイン"と呼ばれておったのか……」


「どうも、お久しぶりです、閻魔さん」


「久しいのぉ、ハッハッハ!!」


 ■ ■ ■


 地獄の閻魔様──と言えば聞こえはいい。

 全ての下々に平等に裁きを与え、魂を逝くべき場所へと断罪する。まあ、正確には"地獄"ではないのだが、その役目をここで全うしているのが、この閻魔大王様その方である。

 生物なら1度は耳にしたことがあるだろう。信じるか信じないかは別として、このお方の名前を知らない者はいない。


 世間一般のイメージとしては怪訝(けげん)だの崇高だの、そういったお堅い印象が深く根付いているだろう。──だが、私からすれば、そんなのは偏見当然である。



「どれどれ、今回の死因は何であろうかのぉ……」

「今回は確か……」

「ほう、"戦死"か。ガッハッハッハ! 面白味にかけるのぉ。これで3回目じゃぞ、セインよ!」

「人の死因で爆笑されるのは、流石に不謹慎では?」

「毎回、生命の死因を見とる我には、"死因"なんぞ占いの結果みたいなものじゃ」

「因みにどんな死因がご所望で?」

「そうじゃのぉ……、例えるなら"惑星滅亡による絶対死"とか"神の逆鱗に触れ、人類滅亡"とかかのぉ」

「成程──つまり、もっと閻魔の仕事をしたいと?」

「ガッハッハッハ!! 流石に魂を扱う存在が、そんな無下にするようなことを望んどらんよ。ほんの冗談じゃ」



 ──とまあ、こんな感じだ。


 剽軽(ひょうきん)、気さく、陽気……、どちらかと言うと、普段の閻魔さん(・・・・・・・)にはそういった言葉の方がお似合いだ。世間が持つそういうイメージとは、180度真逆のお方である。


 だが、あながち世間のイメージが間違っている訳でもない。こんな風に親しくなっている間柄でなければ、私はもっと偉人のような崇高さに溢れているように感じるだろう。でなければ、『さん付け』など到底できるはずがない。

 何もせずとも、そこにいるだけで場が引き締まる存在感と、目を合わせるだけで身の毛がよだつ緊張感、唯一無二にして醸し出す偉大さはもはや生物の域ではない。まるで"神"でも相手にするかの如く。

 本来は、そんなお方なのだ、本来は……。



「ガッハッハッハ!!」



 いや、流石にこれを知ってからじゃあ想像も出来ないだろうな。


 ■ ■ ■


 この扉の前で行うことと言えば、"断罪"の他ない。

 魂を在るべき所へ向かわす為、それを見極め、その判決を告げるだけの空間であるここで、それ以外の用途なんてないはずなのだ。


 だが、それだけじゃあ閻魔さんは物足りないのか、こうやって毎回雑談を挟むのが恒例である。

 前世では何があったのか、どんな人に出会いどんな生き様だったのか。質問攻めで知る意欲満々の閻魔さんを尻目に、私は淡々と受け答えしていた。


 まあ、唯一私が何度甦ろうと、何度死のうと理解し合え、話し合える間柄だ。気兼ねなく話せる安心感が、私のどこかにはあるのだろう。

 閻魔さん自体も、私のような何度も話せる魂はそうそういない。毎度毎度持ってくる冥土の土産話に、少しは楽しみにしているはずだ。


 ──何時間話しただろうか。こうやってこの方と話をしていると、思わず時間を忘れてしまう。


 その中で、閻魔さんはふと私に言葉を零した。


「そういえば、何度目じゃったかのぉ。お主とこう話すのは」


 知っているくせに、この方はいつもわざと聞いてくる。


「聞かなくても、閻魔さんなら分かると思うのですが……」

「無論、知っとるよ。儂は司法の権化(ごんげ)じゃ。裁きを与える者の情報など、知り尽くさなければ裁く者としてここにおれん」



「敢えてじゃよ」


 答える理由もないが、答えない理由もない。

 閻魔さんの言葉に流されるように、私は言葉を返す。



「11回目、ですね──」



 死んだ回数──11回。


 普通なら1つの魂につき1回の機会であるこの場だが、私は11回もこの場に存在している。

 死に、そして蘇り、その蘇った場でまた死に──。

 それの繰り返しを途方に暮れるほど繰り返した11回──正直、この延々と行われている輪廻には、もううんざりである。


「そうか、改めて聞くと、もう11回にもなるのじゃのぉ……」

「一体いつになれば、この輪廻の連鎖は終わりを告げるのでしょうか……。もういっそのこと、"不滅者(・・・)"になってしまえば、楽になれるんじゃ……」

 何度も死に、何度も蘇る。死にはすれど、魂として存在が消えないことから閻魔さんが名付けた私達、転生者の名称──不滅者。

 普通は運の良いことである転生を皮肉り、まるでいいイメージを持たせないそれは、私としても的確に捉えてると感じている。そして、それを何度も繰り返す私は、その不滅者に近い存在──。

 この先、耐えらねぬ苦痛と罪悪感に永遠と向き合わなければならないのならば、もう不滅者になってしまえばいいのではないのか……。


 そう思うほどに、私の感覚は狂ってしまっていた。


「それは駄目じゃ。間違ってもあ奴らのようにはなってはいけない」


 しかし、閻魔さんはそれを真っ向から受け止め、その間違いを指摘する。


「お主のような境遇の者は大勢おる。そして、お主よりもより重度な者も、儂は大勢知っておる。そんな重症なあ奴らはもはやお主のような『心』など、既になくなっておる」


 私も何度か私と同じ境遇の不滅者と会ったことがある。

 11回も転生をしていれば、そりゃあ1人や2人出会っていてもおかしくないだろう。

 彼らにはもはや"心"どころか、生命としての生気すら感じられない。目には何も映らず、表情は死に、話すらまともに成り立たない──ただの人形のような姿をしていた。


「お主は運が悪い方じゃあまだマシな方じゃよ。じゃからこそ、お主はあ奴らとは違う。あ奴らのようにはなってはならんのじゃ」


 少しでも、閻魔さんが私の気を軽くさせようとしているのだろう。

 何度も死を繰り返し、何度も蘇らせられればそうなるのも致し方ない。死の恐怖を知っているというのはそういうことだ。想像を絶する痛みや苦しみ、それがいつか訪れると知りながら誰が普段通り生きてられるだろうか。

 私もその1人だ。多くの悲しみを知り、苦しみを知り、絶望とも呼べるこの輪廻の中で、私の心は廃れてしまった。感情は薄れ、今や"死"でさえ、感じるものがなくなってしまった。

 しかし、それでもなお、私がまだ理性を保てているのは、閻魔さんの言う"マシな"部類なのだろう。そう表わすことで、私の生きる気力を支えようとしてくれているのだろう。

 事実、その言葉が救いだ。重い記憶も、暗い過去も、そう言い聞かせることにより、多少は抑えられている。


 私はマシだ、私はマシだ。私はマシなの、だ……。



 ──だが、百年以上にも渡り積み重なった負の産物は、そう易々と払拭されない、痛みが痛みでなくなるほどに傷ついた私の心は偽り、そう思うようにしなければ私として、自我を保てない。何度発狂したか、何度嘔吐を催したか覚えがない。


 そしていつの日か、そんな苦痛から解放される日を願い続けている。

 だからこそ私はこう思う。



「願うならこの死が最後の死なら嬉しいのですが……」



 責任逃れと言えば悪く聞こえる。だが、もうそろそろ私も全てを手放しても良いのではないんじゃあないのか。思いつく苦悩は全て体感してきた。思いつく不幸は全て受け止めてきた。なら、もういいじゃあないか。そこまでして、私にこれ以上固執する必要があるのだろあか。

 私がこれ以上苦しむ必要があるのだろうか──。


 しかし、現実は、運命は、そんな願望をいとも容易く破壊する。


「これから儂の言うことなど、お主ならとっくに察しがついているだろうに……」

「……」


 この方の言う通りだ。返す言葉がない。私ならこの場に着いたときから、もうそのことに心当たりしかない。


「では、前世名(ぜんせな)セイン・アルトシュタインよ、お主に裁きを与えん」


 手に持つ木槌を叩きつけると、辺りにその打ち付ける音が響き渡り、静かな空間がより静寂に包まれる。それが、今から放つ言葉により重みが加わる。少しの間が、より長く感じる。

 ゆっくりと閻魔さんの口が開く。


「お主には」




 "転生"を命ずる──




 ──知っていた。

 閻魔さんも、そして私も、この判決が下されることは言われるよりもずっと前から分かっていた。これを過去に10回も繰り返しているのだ。寧ろ、察しがつかない方がおかしい。

 しかし、毎回その判決がなされるとしても、私はつい願ってしまうのだ。

 あわよくば"地獄行き"が言い渡されることを──。


「いつもすまぬな……」

「いや、いいんです。これが私の運命(さだめ)ですから」


 閻魔さんが謝る必要性はない。この方はただ、私がそうあるべきか見定めただけで、そこに閻魔さんの意思や意図はない。全ての断罪人として、平等に付き合いなど関係なく私に判決を下しただけなのだ。


 寧ろ、私が悪いのだ。私がそうである原因は私にある。

 この結果は、ただの自業自得の末路なのだ。


 あの時、私に力さえあれば、こうはならなかった……。

 私に、罪を背負う権利さえなければ、こうは……。



 ────



 私がここに導かれた理由である"断罪"がなされ、遂に閻魔さんとの別れの時が迫る。ここにいる存在意義を失くした者は容赦なくこの場から弾き出されるのだ。

 視界が白い何かに包まれ、閻魔さんの姿が徐々に薄まっていく。


「あっという間じゃったのぉ。儂も久々にお主と話せて良かったわい」

「私も少し落ち着きました」


次は(・・)果たせると(・・・・・)いいのぉ(・・・・)

「ええ、そうですね……」


 閻魔さんが投げかけた意味深なその言葉に答える。自信がないからか、少し声が小さくなってしまった。

 次は果たせるといい、か──そんな日が果たして訪れるのだろうか……。



「では、お元気で」

「次に逢う日が、そう近くないことを願っとるよ。良い一生を」



 閻魔さんのいつもの挨拶を聞き届け、閻魔さんの姿がぼやけ、やがて認識できなくなる。


 ──そして完全に記憶が飛んだ。


 こうして、新たな世界に"転生"をした私の12回目の一生が、幕を開けたのである。

この度、11回目の転生目録を書かせていただいた上代迅甫と申します。実はこの作品、全ての話を1度消去し、話の構成を今一度見直した末に再投稿しています。前回の作品を閲覧して下さった方には申し訳ないですが、私的な感想から、少し話の作りが甘いものだと思ったのでそもそもの設定から見直し、この結果となりました。

また、タイトルも変更致しました。流石に101回は転生し過ぎだと気づいたので……。

恐らく、この文章にも至らない点があると思いますが、できるだけ自分が出せる精一杯の物語を綴るつもりなので宜しく御願いします。

あと、私の都合上、この作品の投稿頻度は恐らく1ヶ月に1~3話程度と非常に遅いペースで仕上げていくと思いますのでご了承ください。


長くなってしまいましたが、良ければコメントや評価の方も宜しく御願いします。

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