幸せの鳥
あるところに、とても小さな村がありました。
村では白い鳥は不吉だと言われています。理由はわかりませんが、昔のひとがそう言っていたので、ずっと白い鳥はみんなに嫌われていました。
その村に住んでいるネイは、とてもやさしい女の子です。
しかし、ネイは生まれつき片足が不自由で、その足を引きずって歩いていました。そのせいで友達にはいじめられて、村の人からは冷たい視線を浴びていました。
みんなと一緒に、水をくんだり重いものを運んだりして働くことが出来ないので仕方がない、とネイは思っていました。死んでしまったお母さんとお父さんが貯えを残してくれたので、暮らしに困ることはありません。
ある日、ネイは町まで買い物に出かけました。町まで行くには森を通らなければなりません。足の悪いネイは、なるべく平らな道を歩くので、とても大回りをしなければならず、時間がかかります。
ゆっくりと森の中を歩くのも楽しいわ、と思ってネイはあまり気にしていませんけれど。
白い鳥が、人間の仕掛けたワナに足をはさまれて困っていました。
彼の名前はクリヒといいます。この森に、白い鳥はクリヒだけです。
羽をバタバタさせて、なんとかしようと思いましたが、ちっとも飛び立てません。
そこにたまたま通りかかったのは、買い物から帰るところだったネイです。
ネイはクリヒを見つけると、声をかけました。
「大丈夫? 今助けるわ」
そう言うと、クリヒの足にからまっている鉄でできたワナを注意ぶかく取り除いていきます。
クリヒはびっくりしました。このワナだって、人間がクリヒを捕まえるために仕掛けたものに違いないのです。
人間の女の子が助けてくれるなんて、思ってもみませんでした。
「どうしてボクなんかを助けるんだい? ボクを助けたら願いごとを叶えてもらえるからかい?」
クリヒは、ネイに尋ねます。
「あなたが困っているから助けるのよ。それに、あなたは本当にそんなことができるの?」
ネイだって村でウワサは聞いたことがありましたが、あまり信じていませんでした。
困っているクリヒをほっておけなかっただけなのです。
そのウワサと言うのは、クリヒも言ったとおり、白い鳥には願いを叶えるちからがある、というものです。
クリヒはネイの言葉を聞いて、自分のことをぽつりぽつりとネイに話しはじめたのでした。
クリヒのお母さんとお父さんの羽は茶色でしたが、クリヒは生まれた時から白色でした。お母さんもお父さんも気味悪がって、すぐにクリヒを置いてどこかに行ってしまいました。
人間には石を投げられたり、殺されそうになったこともあります。他の鳥たちからは仲間にいれてもらえずにいつもひとりぼっちでした。
ある時、そんなクリヒをかわいそうに思った神様が、クリヒに不思議な力をくれたのです。それは、クリヒに親切にしてくれた者の願いを、なんでも三つかなえてあげられる、というものでした。
クリヒは喜びました。それならば、きっとみんなが親切にしてくれるにちがいありません。
うかれていたクリヒが最初に出会ったのが、村の若者でした。
いつもは人間に見つからないようにとても注意しているのですが、気持ちが緩んでいたようです。
狩りに来ていた若者はクリヒに向かって弓を構えています。不吉な鳥は殺してしまった方がいいに決まっているからです。
クリヒは必死になって殺さないでほしいと頼みました。打たないでくれれば君の願いをかなえてあげると言ったのです。
若者は半信半疑でしたが、クリヒのことを助ける事にしました。
そして若者の願いを三つかなえることになったのです。
若者は、大金持ちになり、村いちばんの美人と結婚し、まだ若いのに村長になりました。
村の人たちはそれを見て、白い鳥をなんとしても見つけようと必死に森の中を探しています。
不思議なちからをもらっても、クリヒは一人ぼっちのままでした。
村の人たちはクリヒを捕まえようと森のあちこちにワナをしかけていきます。他の鳥たちはそれを迷惑がって、ますますクリヒに近づかなくなってしまいました。
クリヒは、ネイがワナをはずしてくれている間、そんなことをネイに話しました。
ネイは黙ってそれを聞いています。
クリヒの足がワナから抜けました。
「君はボクを助けてくれたから、願いを三つ叶えてあげるよ」
親切にしてもらったのでクリヒはネイの願いを叶えることにします。
ネイはどきどきしながら言いました。
「それなら、私の足を治して自由に歩けるようにしてちょうだい」
すぐにそれは叶えられました。今までどんなお医者さんにみせても治らなかった足が、軽々と自分の意思で動くようになったのです。
ネイは嬉しくなってあたりを走ってみます。
「ありがとう。とてもうれしいわ」
ネイの笑顔をみて、クリヒも少し嬉しくなりました。
願い事はあと二つ残っています。
「さあ、次の願いはなに?」
クリヒは聞きました。ネイはしばらく考え込んでいましたが、願いを言いました。
「あなたの体の色をきれいな青い色に変えてちょうだい」
クリヒはびっくりしました。そんなことをしてもネイにはなんの得にもならないはずです。
「なんでそんなお願いをするの?」
「私の好きな色なのよ」
ネイはにっこりとして言いました。クリヒはそれをかなえます。
自分の体の色がいつも見慣れている白い色ではなくてきれいな青い色になりました。羽をひろげて自分の様子を確かめてみます。
これならみんなにいじめられなくてすむだろうと思って、クリヒは嬉しくなりました。
「ありがとう。ボクのためにこんな願い事を言ってくれたんだね?」
「私の足を治してくれたんだもの。あなたにも自由になってもらいたかったのよ」
「うん。じゃあ、最後の願い事は何にする?」
クリヒはネイに感謝しました。そしてネイのために願いを叶えてあげられることが嬉しいと思ったのです。
しかし、ネイは、もうお願いしたいことがなくて困ってしまいました。
お金持ちにならなくても足が治ったのだから自分で働けます。ずっと嫌だったみんなからのいじめだってクリヒにお願いしてなんとかしたいなんてことは思いつかなかったのです。
長い間考えて、ネイはようやく顔をあげました。
「それじゃあ、最後の願い事を言うわね。……私の友達になってくれる?」
それから、村人達は白い鳥の姿を見ることはありませんでした。いつの間にか、願いを叶えてくれるなどという話も忘れられていきます。
そのかわり、ネイの家によく遊びにくる美しい青い鳥のことが有名になりました。見ているだけで幸せになれるので、その鳥はとても大事にされましたし、ネイの家にも絶えず友達が集まるようになったそうです。