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Day 0 プロローグ

世界が静かだった。



いつもとは違う空気を感じた。


新聞配達のバイクの音もしなければ親父が毎朝つけるテレビの音もしない。

ベッドの横にあるサイドテーブルに置いた置き時計を見ると朝の7時を過ぎた頃。

何時もならもう親父が起きている時間だ。

何かがおかしい、そう感じた俺は朝独特の気だるさを振り切りながらベッドから起き上がった。

自分の部屋のドアを開けマンションの設計によくある短い廊下を歩き親父のいるはずの部屋へと向かった。

扉を開けさして広くないリビングへと入った。

親父と二人暮らしなのでこれくらいで十分なのだ。

しかし、そこに親父の姿はなかった。

朝早く出社したのかと思いキッチンへ向かい食べたはずの朝食に使ったお皿がないか確認してみたが何もなかった。

ありえない、親父は必ず朝は家で食べていく人だ。

昨日の夜は家にいたので出張で家を出てるってわけでもない。


「まだ寝てるのか?」


リビングの奥にある親父の部屋の扉の前へ向かう。

3回軽くノックした。


「おい親父ー、そろそろ起きないと遅刻すんぞ。今日の朝食当番は親父だろ。」


「・・・・・・・・」


「返事くらいしろよ・・・。俺遅刻したくないから親父は自分で朝食用意しろよ。」


リビングの壁に付けてある掛け時計は7時20分を指していた。


「やば。早く準備しないと遅刻するな。」


俺は家から40分電車に乗った所にある私立高校に通っている。

わざわざ電車通学をしなくても家の近所には高校はあるのに。

だが東京の通勤ラッシュに押し潰されながら都内の高校へと通っている。

それはなぜか。


男という生き物は単純であり無駄に行動力はある。

故に叶うはずの夢や願いを追い続けるのだ。

まあ要するに、俺には好きな人がいる。

中学1年の入学式に彼女を見てから一目惚れをして絶賛片思い中だ。

だが恋の神様は俺を気に入っていないのか中学では一度も同じクラスにはならず話すことさえ出来なかった。


俺の顔は中の中で普通の顔、どこにでもいるような顔つきだ。身長175cm。体重65kgで体型もごく普通な高校生。

それに対して彼女はバブル時代にいそうな顔つきで、ハーレーと革ジャンが似合いそうな雰囲気だ。

一部の男子の中では人気らしいが学年男子全員が美人と認めるような顔つきではない。

廊下ですれ違うときや学年集会のときに彼女のことを眺めているだけで俺は何も行動を起こさなかった。

男という生き物は無駄に行動力があると言ったがそれは嘘だ。

恋愛が関わってくると話は違う。


だが俺は1つだけ行動を起こした。

そう、彼女と同じ高校へと入学すること。

中学3年の夏、俺は彼女の志望する高校を調べ受験勉強を始めた。

俺の成績は中の下。

それに対して彼女の成績は上の中だ。

彼女の志望する高校はそれなりの難易度だった。

しかし、恋の魔法は凄かった。


人生で3大嫌いな物の勉強・えび・口臭い奴の1つを克服したのである。

それはそれは辛い道のりだった。

一日勉強7時間。

朝起きて寝るまで基本的にずっと勉強。

登下校中も単語帳片手に勉強。

学校の休み時間中も勉強。

人生で1番辛かった。

そんなにまだ人生送って無いけど。

そんなこんなでGoing to dieするほどの受験期間を乗り越えた俺は見事、彼女の志願する高校へと入学したのである。

勿論彼女も無事志願する高校へと入学できたらしい。



2015年の4月1日。

あの日の喜びを忘れることは無いだろう。

一年生クラス分けの掲示を見た時、一年B組に俺の名前と彼女の名前が書いてあった。

ああ神様、あなたはなんて優しいお方なのか。


毎日が最高にハッピーだった。

学校へ行くことがこんなにも楽しいものだとは思っていなかった。


勿論俺は彼女と幾度となく話をし、2人きりではないが休日にクラスのメンバーで遊びにも出かけた。

しかし、楽しい日々は長くは続かなかった・・・・




今日は2015年9月3日。

親父がいつまでたっても起きないのでありあわせのもので朝ごはんを作り、ほぼ噛まずに胃に流し込んで急いで制服に着替えて玄関を出た。

エレベータに乗り5階から1階へと下がった。

エレベータから降りてエントランスホールをぬけマンションから出ようとした時、いつもいるはずの管理人さんがいなかった。

いつもなら無精髭で笑いながらおはようと言ってエントランスホールを掃除している管理人さんがいないのだ。

このマンションに引っ越して4年目になるが、毎日この時間帯にここを通ると掃除をしていた。


「体調でも崩したのか?おっと、そんな場合じゃないな。急がないと電車に乗り遅れる!」


俺の住むマンションは線路沿いで駅から歩いて5分、走れば3分の立地にある。

腕時計を見た。

今の時間は7時40分。電車は7時45分に来る。


「走れば間に合うな・・・。」


俺は勢いよく地面を蹴って走り始めた。

マンションを出て線路沿いの道に出ると猛ダッシュで走った。




やはり様子がおかしい。



何時もなら通勤通学をする人で溢れかえっているはずの駅へ向かう道に誰も居ないのだ。



勿論車も走っていない。




聞こえるのは鳥のさえずりだけ・・・












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