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妖精に愛された僕  作者: 豆田あんじ
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君が居るから、僕は生きてこられた




「智明君ばっかずるくない?」


「どうして森君も櫂君も取っちゃうの?」


「あたしたちだって二人と遊びたいのに、いつも智明君が止めるよね?」



ちがう、僕はそんなことしてない。



「ちょっと可愛いって言われるからって、いい気になってるんじゃない?」


「可愛いって言われて喜んでる男とか、気持ちわるーい!」



僕は可愛くもないし、そんなこと言われたくもない。



「あっ、あたし知ってる、そういうのなんていうか!」


「なに?なんていうの?」


「ホモっていうのよ!親戚のお姉ちゃんが言ってた!」


「どういう意味?」


「男しか好きになれない変態だって!お姉ちゃんはホモに彼氏を取られたんだって!ホモは悪いやつなんだよ!」



そ、それは…、僕は森が好きだけど…。


森以外の男なんか好きになったことないよ。


それに、君のお姉ちゃんなんか、僕知らないよ。



「じゃあ、智明君もホモなんだから悪いやつじゃん!あたしたちがこらしめてもいいよね!」


「そうだよ!ホモは女の敵なんだって!」


「ちょー最低!あんたなんかどっかいっちゃえばいいのに!」



僕が森を好きになるのが、悪いことなの?


誰にも、森にも言うつもりないのに、好きでいたらいけないの?
















…まただ。


最近どうしてか昔の嫌な夢ばかり見る。


眠りも浅く、魘される夢で起こされるのが多くなってきた。


深い溜め息をついて、ふと時計を見遣る。



「ええ…、まだ1時45分?」



ベッドに入ったのが0時少し回ったところだったはず。


眠くないわけじゃないが、また目を閉じれば同じような夢を見るのではないかと思うと、それすら億劫になる。



リリリン。



智明の右肩からルルの羽音が聞こえる。


きっといつものように心配そうな顔をして智明を窺ってるのだろう。


大丈夫だよ、と言おうとルルが居るであろう右側を振り向くと、思ったより遠くにその姿を確認する。


ルルは部屋のドアを指差して手招きをしている。



「…開ければいいの?」



首を傾げながらルルに問うと、ニコニコしたルルが何度も激しくかぶりを縦に振った。



かわいいなあ、なんて呑気に思いながら何の気もなしに勢いよく扉を開けると。



「うおっ!」


「ええっ?!」



廊下に向かって開いた扉に驚いてった、森がそこに固まっていた。



「な…に、してるの、森…?」


「いや、なんか眠れねえから、下でテレビでも見るかと思って出てきたら、智明がいきなりドア開けるから…」


「あ。ご、ごめん」



つい最近同じようなことがあったなあ、とぼんやり智明が思っていたら森も同じことを考えていたらしい。



「や、なんか最近こういうの多いよな…」


「あ、うん、そうだね…」



お互いルルのことで気まずい空気のまま修復できてないのを気にしていたが、同じ学校に通い同じ家に住んでいてもきっかけのタイミングを失うと、なかなかそれを話すことも難しく思える。


今がチャンスだとは思う。


だが、智明にはまたルルの話を蒸し返して、再び上手く説明できずに墓穴を掘る自信は十二分にある。



「てか、智明は何でこんな時間に出てきたんだ?」


「えっ!」


「えっ?」



ぎく、と肩をすくませて飛び上がらんばかりに驚いた、智明の声に今度は森が驚く。



あれあれあれあれ、どうしよう!?


僕が今扉を開けたのはルルが開けろって言ったからだけど、それを言えるわけないしでも言わなければ更に気まずくなるよね?


ルル…、何でドア開けろなんて言ったのさ…。



どう言いつくろうか寝起きの頭で智明が必死にぐるぐる考えてると、またルルの羽音が智明の頭の上から聞こえてくる。


何をしてるのかと思いそちらに視線を遣ると。



「ちょ…っ!」


「え、なんだよ、さっきから変だぞ?」



智明は自分が今見ている光景が信じられなくて、じりじりと森から後ずさる。



「おい、智明…?」


「ど、どういうこと?」


「え、なにが?」


「だ、だって…」



ルルはどこから持ってきたのか、ピンクのペンキと刷毛はけを手に、森の両の頬に大きくハートを描いていた。



いつも思うけど、ルルはペンキをどこから持ってくるんだろう…。


前に僕に悪戯しようとしたおじさんには真っ黒いペンキで、顔に大きな罰印も書いたことあったよね…。


大きな紙に抱えるほどの大きな筆でパフォーマンスする書道家みたいに、満足気な顔して書いてたよね…。



ルルは今まさに満足気に鼻からムフー、と荒い息を吐いて踏ん反り返っている。


そして持っていたはずのペンキと刷毛は既に消え、今度は森の寝巻き代わりに着ているジャージの腕の部分を智明の部屋に向かって引っ張っている。


もちろん、そんなことは森にはわからない。


落ちそうな位に見開かれた瞳を、森の顔と森の腕を交互に見遣る智明を、どうしていいやらおろおろしている。



「…どうして?」


「え?」


「この前はダメって言ったのに。何で今はいいの?」


「お、おい智明…、何言ってんだ?」



智明は涙の滲む瞳で森に何かを訊いて来るが、どうも様子がおかしい。


第一森の腕に話しかけてるように見えるのは気のせいだろうか。


智明と自分しかいない空間で、自分ではない何かに話しかける智明。


…どっかでおんなじような事があったよな。



「智明」


「え」


「ルル、か?」


「っ!!」



びくん、と弾かれたように体を竦ませる智明を見て、確信めいた声音で森が言った。


恐る恐る見上げた森の顔が、何故か辛そうに見えるのはどうしてなのか。


そして自分はどんな顔をして森を見ているんだろう。



「ルルに話してるんだな、お前」


「ど、どうして…」



わかっちゃったんだろう。


ルルが話してもいいって言ったけど、森がそれを信じてくれるかどうかはわからないのに。


櫂は信じてくれると思っていた。


いつも俺は智明の味方だから、って言ってくれたから。


でも、森は?


もし森に本当のことを言って嫌われたら?


櫂はそんなことないって言ってくれたけど、櫂は森じゃない。


もし僕に色んなことがありすぎたせいで、おかしくなったって思われたら?



そんな智明の思考がわかるかのように、ルルが森の腕から飛んできて頬を撫でる。


智明はルルを顔に貼り付けたまま、自分の部屋に駆け込んだ。







ルルが色々頑張ってます。

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