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妖精に愛された僕  作者: 豆田あんじ
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とかくこの世は






おもしろくねえ。


どうにもイライラが治まらねえ。


何でも無い振りをするにも、森はいい加減限界だと思い始めている。


智明がルルのことを森に問い詰められて、碌に上手い言い訳も思いつかず「なんのこと?」とすっとぼけた事で、智明が危惧したとおり森はへこんでいた。


怒りというよりも、智明の態度に正直傷付いた、というのが適当であろう。


あそこまで狼狽ろうばいして泳ぐ目を見たのは初めてだ。


自分に言えない何かがあの時存在していて、何かが起こっていたのは間違いない。


だがそれが何かを推測するには情報が少なすぎる。


自分が知らないなら櫂も恐らく知らないだろう。


だがもし自分だけ知らなかったのだとしたら?


森はそんなことを考えたくはないが、有り得ない事ではないとも思った。


腹の底に黒いものが溜まるようなこの感じ。


無意識にギリ、と歯軋りをする。



「ねえ、森、顔怖いよ?何怒ってんのお?」



森から大分低い位置から覗き込んで脳天気な声をかけてくる女。


名を鏑木かぶらぎ由麻ゆまといい、多少見目が良いのをこれでもかと言うほどに鼻にかけ、あらゆる意味で緩く痛いと評判である。


見目が良いというのも本人曰くで、メイクと髪型で強引に盛り上げた結果、自分はモテていると思い込んでる人種である。(ヤり目の男には後腐れなくて文字通りモテてはいるが)


ミルクティー色に染められたロングヘアーを毎日アイロンで巻いているらしいが、学校でも持ち歩き暇さえあればどこであろうとも鏡を見ながら巻きなおしている。


濃いアイラインとマスカラの重ね付けで繊維だらけの睫毛と、更に瞳を大きく見せる緑のカラコンを入れたそれは、森からすれば最早もはや目ではなく原生動物の繊毛せんもうにしか見えない。


黒髪のヅラ被せてメイクを落としたら、とんでもなくのっぺりしたこけしになるのは間違いない。


最近妙に付き纏われてるが、歯牙にもかけない森の態度に怯む事無く、こうして相変わらず行く先々に現れる。



「でもお、由麻は、そういう森の顔も好きだけどお?」



何してもかっこいいよねえ、と頭の悪そうな口調で自分の取り巻き共と騒いでいる。


類は友を呼ぶとはよく言ったもので、この由麻の周りにいる女二人も似たり寄ったりだった。


斉木律子さいき りつこ高里有里たかはら ゆうりはいつも由麻の金魚のフンよろしく、森にも纏わり付いてくる。


頭も股も緩く空気も読めず自己愛だけしかないような、なんでこんなスカスカのやつらに森は好かれるのか。


それは森の容姿に大いに関係がある。


髪の色は弟の櫂とは正反対のくすんだ橙色で、肩甲骨まで届くレイヤード。


普段は下ろしているが、たまにゴムで一つに纏めていたりもする。


やや下がり気味の二重のアーモンド形の大きな瞳は、強い意思を湛えていて一見チャラいと見紛う外見とは違うと語っている。


身長は櫂よりやや高く、骨太なため標準の筋肉を纏っているが、ちょっと鍛えすぎるとマッチョにジョブチェンジしてしまうのが本人的には嫌らしい。


森の世界はほぼ智明でできており、ぶっちゃけ本音は智明以外はどうでもいいと思ってる部分もある。


軽そうな見た目とは逆に実際はストイックな森は、誰にもなびかないのが有名で、隠れて見ている女も多いがこうして由麻のような女にも絡まれる。



ああ、マジでうぜえ…。


こいつらぶっ飛ばしたらすっきりするか?



そんな物騒なことを考えながら勝手に自分の腕に絡まってくる由麻を見下ろすと、何を勘違いしたのか下心丸出しの下品な笑みを見せて更に胸を押し付けてくる。



「ねえ、次の授業2人でフケようよ?由麻が森を癒してあげるしい?」


「…は?」


「だって今、Hしたいって思って由麻を見たでしょ?」


「…バカか、てめえは」



頭の螺子ねじも股も緩んでるこんなビッチに突っ込んで何が楽しいんだか。


森は呆れてこれ以上付き合ってられるか、と「うせろ」と一言言い捨てると力任せに腕を引き抜き教室に向かう。



「っちょっとお、森!由麻を置いてどこいくのよお!」



背後でわめき散らす女を振り返る事無く、森は教室の扉を後ろ手に閉めた。


それを見送っていた女達は授業開始のチャイムが鳴ると、彼女達の溜まり場でもある裏庭の体育倉庫に行った。


隠しておいたお菓子やらジュースやらを広げながら、取り留めの無い話をしていたがやはり話題は森のことに流れていく。



「ねえ、森今日超機嫌悪くない?」


「あ、やっぱ律子も思ってたんだ。元々うちらには優しくないけど、今日はちょっと変だった」


「有里の言うとおり、いつもと違うよね。由麻はなんか知ってるん?」


「知らないよお、でも多分…」


「なに?思い当たることあるん?」


「由麻は、森の従兄弟が原因だと思うんだよねえ」


「森の従兄弟…って、あの?」


「律子も有里も知ってるでしょお、芦屋智明って子。超由麻的に目障りなんだけどお、どうにかなんないかなあ」


「妙に男に人気があるよね、あの子」


「つか、何で由麻その従兄弟が不機嫌の原因って知ってるん」


「大分前にさあ、森に聞いたの。あの芦屋智明ってどういう子?って」


「そしたら?」


「きれいな子だし彼女いるのかなあ、とか言ってたら、急にすごい怒り出したんだよねえ」


「え、マジ?」


「すごい怖かったよお。あいつに何かしたら、ただじゃおかないって言われたしい?」


「うわ、それはマジだ」


「そういえばさ、森の双子の弟もそんな感じじゃなかったっけ?」


「そうそう。いつもくっついてるよね」


「だから由麻はあの従兄弟が怪しいと思うんだよねえ…。ねえ、何か良い手ないかなあ?」


「良い手って?」


「んー、由麻たちが怪しまれずにあの芦屋智明を森から引き離す方法、かなあ」


「えええ、由麻、それは無理じゃん?」


「なんでえ?」


「だって、うちらの頭じゃばれずにって無理だと思うし」


「んー。そうかなあ。じゃあさ、由麻たちが直接手を出さなきゃバレないんじゃないかなあ?」


「あ、そうか」


「それならいけるんじゃん?」


「じゃあ、色々計画立てようか」


「由麻ねえ、前から考えてたんだけどお…」



幼稚で浅はかではあるが、確実に智明に魔の手が迫っていることを、今は誰も知る由も無かった。








この話でやっと主要登場人物の外見が出揃いました。

ちなみに智明は自分の外見が好きではないので、告白#1では本人による自己評価のとても低い形容となっております。

実際は、言わずもがな、ですね。

でなければしょっちゅう襲われたりしません。

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