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妖精に愛された僕  作者: 豆田あんじ
29/32

運命へのカウントダウン

いきなり初キャラ登場です。(汗


「なあなあ、エイチ。淳さんが調べろって言ってた女たちの名前って、なんだっけ」



廃墟とも言えそうな無人のぼろぼろの倉庫で、古いパイプ椅子に座りスマホを片手でいじりながら問いかける若い男。


年の頃は成人前だろうか、まだ幼さの残る顔をしている。


蜂蜜色の髪は長めで緩く癖があり、両耳にこれ以上穴を開ける隙間はないだろうと言うほどに、様々な形状のピアスが貫かれている。


垂れた瞳がその幼さの原因なのかはたまた言動から来るものなのか、その男に「エイチ」と呼ばれた男は圧倒的に後者だと思っている。


エイチは彼に比べたら外見的にはあまり突出した特徴がない。


ごく平凡な容姿に髪もごく普通の長さでやや暗めの栗色。


ちゃんと見れば整っている顔立ちなのに、何故かすぐ周囲に溶け込んでしまうような、そんな印象を持つ男だった。


ただエイチのこの外見は意図的にしているもので、彼が生きていくために敢えて目立たぬようにしているだけだ。


エイチがポケットを探りながら眉間に皺を寄せて、呆れたように説教を始める。



「はあ?ケイ、いつも言ってんだろ、ちゃんと人の話は聞け、そして覚える努力をしろと何度言えば…」


「まあまあ、その代わりエイチが覚えてくれてんだから問題なくね。えっとなんだっけ。ほら、淳さんに調べておけって言われた?」



エイチに「ケイ」と呼ばれたピアスの男は堪えた様子もなく、あっさりと受け流し質問の続きを投げかける。


ちなみにエイチもケイも本名ではなく、彼らの名前の頭文字をそのまま呼んでいるだけである。


エイチはやっと探り当てたライターで咥えたタバコに点火し、美味そうに肺の奥まで吸い込んだ。


ふーっと勢いよく吐き出された紫煙を眺めながら、その辺に放置してあった空き缶を灰皿代わりにと手にする。



「ったく…。由麻がねじ込んできた話だろ?確か…律子?と有里じゃなかったっけか?」


「あーそんな名前だったっけ。エイチの方に写メ行ってるんだろ、俺にも送ってくれた?」


「んなもん昨日とっくに送ってる。確認もしてねえのか?つかケイお前今スマホいじってんのになんでメールチェックしねえんだよ!」



噛み付きそうな勢いでエイチがケイに怒鳴ると、さすがに罰が悪そうな表情を一瞬だけ見せる。



「いやほら今回ちょっとアレっていうか、あんま気が乗らないつかさあ…」


「なんだよ」



普段のケイはエイチになら思うことは何でも話してきたが、どうして今回は煮え切らない態度を見せる理由もエイチには何となくわかってはいた。


きっとケイは自分と同じ空気を感じているのだろう。


内心溜め息をつきながら敢えてケイ本人から話すのをエイチが促す。



「ぶっちゃけ、なんていうか俺さあ…。由麻って女、虫唾が走るくらい嫌いなんだよね」


「なるほど、そりゃ気が合うな。俺も会話したことはねえけど、淳さんや俺らを見る時のあの目がどうもな…」


「やっぱそうだろ?!やっぱエイチもそう思うよな!でも淳さんの女だし、迂闊なこと言えないしさ…。てかなんで淳さんそいつらの裏を調べろって言ったんだろ」


「そりゃ信じてねえからだろ」


「ええ?だって自分の女の頼みごとだって聞いたし?友達が告白するのに邪魔な男がいてそれをどうにかしてくれとかなんとか…」


「大体たかが目障りな虫がついてて告白できねえってタマかね、この女ども。見ろよ、告るよりとっとと薬でも盛って跨る顔だろこれ」



ケイの疑問ももっともだし、エイチの答えもあながち外れては居ない。


そう言われてケイはやっとメールをチェックすると、添付された写メを見て心底嫌そうに納得する。



「うへ…確かにエイチの言うとおり相当尻も頭も軽そうだけどさ。見た目で判断するなとかそういう問題でもなさそうだよ」


「由麻の事にしたってそうだろ。あの女が親友のため、なんて言うと思うか?淳さんなら気付かないはずがないんだけどな」


「信じてないけど信じたいって心境なんじゃね?」


「あの淳さんが?ケイそれマジで言ってんのか?」



ケイがそんな乙女思考な発言をするとは思いもよらなかったエイチだが、それをあの淳に当て嵌めようとはどんだけだ天然なんだと思った。


エイチは自分たちのボスの顔を思い浮かべて、ぞわっと鳥肌が立つのを感じた。


あの人はそんなんじゃない。


きっととっくの昔に何か感じて、既に動いているはずだ。


一見優男っぽくもある顔立ちだが、一旦なにかに執着するとその熱と嫉妬は常人の域を超え、そしてそれを見切る時の見極めの的確さと残酷さも突き抜けている。


少数精鋭とも言うべく淳の率いるグループは頭である彼の、類稀なる野生的なその勘で生き残ってきたようなものでもある。


調べろと言われたことも恐らく調査ではなく何らかの仕掛トラップけのためなのだろうとエイチは考えている。


それを踏まえどう動くかエイチが段取りを頭の中で巡らせていると、ケイが思い出したように弾んだ声を出した。



「あ、そうだ。この前入ったあの二人にやらせようぜ。そうだそうだ、あいつらさ、荒事よりも情報収集の方が得意らしいし」


「ああ、一昨日ケイが連れてきた奴らか。兄弟なんだろ?まあ二人とも男にしちゃケンカなんかしなそうなくっそ綺麗なツラしてたけどよ」


「最近よくあちこちで見かけるようになったんだけどなんつかさ、勘が鋭いって言うか、巻き込まれそうになるといつの間にか消えてるんだよ」


「へえ…。野生動物みてえなやつらだな」



まるでおケイみたいじゃねえか。


そう思ったがエイチは口に出すのを止めておいた。


ケイのことだ、どうせわけのわからない反論からすぐ脱線するに決まっているからだ。



「正にそれだ、マジで鼻が利くんだよ。そのせいでか滅多に群れたりしないんだけど、偶然俺が1回情報リークしてやった借りを返したいっていうからよ。淳さんに話したら連れて来いってことになってさ」


「え?んじゃ最初から淳さんはそいつらにやらせるために、お前に呼ばせたんじゃねえのか?」


「え?そうなん?」


「それしかないだろ…。ケイ、お前どんだけ天然なんだよ…」


「お、おう…」



いやだから、褒めてねえから照れるのやめろ。頬も染めんな、きもちわりい…。



何度同じ突っ込みをしたかわからないセリフを、エイチは泣く泣く飲み込んだ。







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