森と櫂と、智明
智明の過去のお話でいきなり何故か三人称(汗
智明と同い年の従兄弟は二卵性の双子で、顔も声も性格も全然似ていない。
智明の両親が休みを取れた時は彼らの所へ泊まりに行った。
その逆もあったが、一人っ子だった智明には彼らの存在は兄弟も同然だった。
兄の森と弟の櫂。
森の方がやんちゃで何かに夢中になると暴走しがちで、それを諌めるのが櫂の役目だった。
性格は正反対の2人だったが、不思議と兄弟仲は悪くなかった。
親戚が集まると決まって「森ちゃんと櫂ちゃんは兄と弟が逆みたいねえ」と言われていた。
3人はは休みの間ずっと一緒で、森と櫂が智明を取り合ってケンカするのが、いつもの風景だった。
「智明は俺と組むんだ!!」
「昨日は森が組んだんだから今日は俺の番だろ!!」
「うるせえ!櫂は弟なんだから俺の言う事聞けよ!」
「双子なのにそんなの関係ないじゃんか! 森はいつも約束も破るし、ずるい!」
毎日同じような原因で展開されるケンカ。
嬉しいような反面、こうも毎回だとさすがにややうんざり。
でも収められるのも智明だけなのも紛れもない事実。
親が介入すると更に拗れて、大騒ぎになる。
「もうあんたたちはどうして毎度毎度揉めるの!智明ちゃんだってあんたたちのケンカに巻き込まれてかわいそうでしょ?」
「お母さんはあっち行っててよ!」
「そうだよ、関係ないじゃん!」
「いい加減にしなさい!!とにかく交代でやればいいじゃないの、まったく…」
「交代って決めたのに森がいつもずるして守らないから悪いんじゃん!」
「櫂はいちいちうるさいんだよ!!弟は兄貴の言う事聞いてればいいんだ!」
「また生意気なことばかり言って…ホントにどうして智明ちゃんのことになるとこうなるのかしらねえ?」
「まあ、智明ったら相変わらず森ちゃん達にもてもてねえ…」
森たちの母、弓子が仲裁を諦めて一人ごちた時、背後から呑気な声が聞こえてきた。
恒例の騒ぎを見に来た智明の母、智香が団扇を片手に縁側に腰を下ろした。
「智明ちゃん優しくて可愛いから、森も櫂も夢中なのよ。あたし、この子達がいつか智明ちゃんをお嫁さんにするって言い出しても驚かない自信あるわ」
「そうねえ、森ちゃんと櫂ちゃんだったら智明を幸せにしてくれるでしょうねえ」
「あら、反対しないの?」
「ええ、本人達がいいなら私はいいのよ。だって、あの子達の人生だもの」
「お義兄さんも、そういう感じなのかしら?」
「英明さんはほら、智明にメロメロだから」
「あはは、ホントにそんな感じね」
「智明が自分で決めたことなら、反対はしないと思うわ。それに、森ちゃんと櫂ちゃんなら、私達も心配なんてないもの」
「でもどっちを選ぶかですごい修羅場になりそうじゃない?」
「ふふ、そんな心配しなくても大丈夫よ。あの子達なら、大きくなってもこんな感じじゃないかと思うの」
「ああ、そうかもね。あたしもそんな気がする。いつまで経っても子供みたいな独占欲で、ケンカしてるのが目に浮かんできた」
弓子と智香が我が子らのケンカを眺めつつ、呑気に笑いながらこんな会話をしていたのは勿論彼らが知る由もない。
一方、現在修羅場の渦中にいる智明は黙ってそれを眺めているのもそろそろ飽きてきたので、仲裁を始めることにした。
「森も櫂も、ケンカしちゃやだよ」
「智明はいいの!俺と櫂の話だから!」
「森は俺の話なんか聞いてないじゃん!」
ややもすれば掴み合いになりそうな気配。
二人とも普段は智明には優しいし、どうして自分の事なんかでケンカするのが智明には理解できない。
理性を失いかけたこの子供らに効く呪文を智明は習得済みではある。
「ケンカするなら、二人とはもう遊ばない」
本気で言ってはいないけど、もう沢山だとばかりに2人から背を向ければ効果覿面。
「一人で遊んでくる!」
「え…」
「智明、ごめん!もうしないから!」
魂を抜かれたような声で呆然としているのが森で、慌てて追いかけ即謝るのは櫂。
行かないで、と繋がれた手をじっと見つめる。
そこからじんわりと櫂の優しい気持ちが流れてくるような、そんな気がした。
もういいよ、と思いを載せて微笑むと櫂はほっとして、繋いだ手に少し力を込めて笑った。
振り返ると櫂とは違い少し意地っ張りな森は、自分から謝るのが苦手でまだ膨れっ面でこっちを見ている。
「森は?」
「わかったよ…」
「それから?」
「…ごめん」
そっぽを向いた頬はまだ膨れている。
櫂と繋いだままの手を解かず、森の方へもう一方の手を伸ばす。
ちらちらと森がそれを盗み見ながら、両手を胸の前でもじもじさせている。
「森、行こう?」
智明が小首を傾げ微笑みながら森に誘えば、弾かれたようにその手を握る。
智明がもう怒っていないことを確認し、森は漸く笑みを浮かべる。
そんな二人に挟まれて、智明は本当に森と櫂と兄弟になれたらいいのに、と思った。
「いつもさすがだわ、智明ちゃんまるで猛獣使いみたいねえ」
「やだあ、弓子さんったら」
「智香義姉さんもそう思ったでしょう?」
「ううん、私は我が子ながら小悪魔だなって思ったけど」
「ちょ、小悪魔って…」
「なかなかいい具合に森ちゃんと櫂ちゃんが振り回されてるわ」
「ちょっ、ツボに…」
仲裁を見守っていた弓子と智香のこんな会話もあったんじゃないかなあ、と(笑