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妖精に愛された僕  作者: 豆田あんじ
19/32

その気持ちに嘘はないはずなのに

更新が滞っております、申し訳ありません(汗

そして話が全く進みまないのはどうしてなんでしょう…。









弓子と櫂が階下に降りて再び智明の部屋に静寂が戻る。


まだ森の腕の中でぽやんとしたまま覚醒しきっていない智明をずっと眺めていたかったが、とりあえず済ませるべきことをやっておかないとうちの家族は兎にも角にもやかましい。


このぬくもりから離れるのは名残惜しいが、やっと思いを通じ合わせた今それは、今日限りのものではない。


これからずっと自分が守っていくのだからと、森は決意も新たにとまず智明を起こすべく鼻息を荒くした。



「智明、起きて。飯食ってまだ眠かったらまた寝ていいから、ほら」


「ん…」



智明の首の下に掬うように腕を滑り込ませて肘をつくと、かくんと力の入らないその首は引力に逆らえずに傾く。


その無防備な様に愛しさが森の中に渦巻くのを感じる。


未だ呼吸は寝息そのもので、頬を撫でても軽く抓んでも起きる気配がない。



「智明…お前そんなに寝起き悪かったっけ?」



相変わらずすうすうと穏やかな寝息を立てている智明の額をぺちぺちと軽く叩く。



「んん…、痛いよ、ルル…。わかったってば、起きるよ…」



眉間にしわを寄せてうにゃうにゃと呟いた言葉に森の笑みがこぼれる。


なるほど、智明が寝起きがいいと思っていたのはルルのおかげだったのか。


ちなみに実際のルルは専用のベッドですやすや眠っている。


ふるふると睫毛を震わせて徐々に開かれる瞳を、じっと森が見詰めていたことなんて微塵も気づいてない智明は、ぼやける視界の中にその姿を認識すると同時にその顔の近さに驚きあられもない声を上げたのである…。



「うわわわわわーーっ!!!」


「…え」



もし智明が猫だったなら。


背中の毛は総毛立ち、シッポは倍の太さにまで膨らみ、効果音は威嚇でお約束の「シャーッ」ではなかろうか。


寝ぼけていてたとしても、そのせいで昨日何が起きたか忘れていたとしても、ただ純粋に驚いたからだとしても、突き飛ばさなくてもいいだろう。


まあ突き飛ばしても腕力と体重の差とかで結局森はちょっと胸を押された程度で、その反動で智明がずるりとベッドからやけにスローモーションで視界から消えるのを眺めながら森は思う。


その反応はちょっとないんじゃないか、とやっぱりちょっぴり泣きたくなった。


そして案の定、その声で何事かと弓子と櫂と、いつの間に帰ってきたのか、父のあけるがこぞって部屋に飛び込んできた。


その3人が目にしたものは。


智明のベッドの中で横たわり情けなく眉を下げた森と、背中から枕ごとベッドをずり落ちたらしい智明が、枕を下敷きに仰向けに片足をマットレスに乗せたまま、何故か顔を真っ赤にして硬直している何とも言い難い状況であった。



「…起きたなら早く降りて来い」



何となく理由がわかった櫂がほんの少しだけ森に同情しながらくるり、と背を向けて先に階段を下りる。



「まあ…怪我がないなら、ご飯にしましょうね」



間違いが起きたわけではなさそうだと瞬時に判断した弓子が、慌ててそのまま手にしていたおたまを握りなおして櫂に続く。



「今日のデザートはバナナと梨だよ、みんなで後で食べよう」



若いっていいねえ、と年寄りのような感想を浮かべながら明も、何事もなかったようにダイニングへと向かう。


残された二人は暫し魂が抜けた状態だったが、落ちたままの智明の手を掴みベッドへと引き上げると、森は深い溜め息をひとつ吐いて着替えるために自室へと戻った。


まだ混乱真っ最中の智明は瞬きを忘れるほどに呆然としながらも、ニコニコしながらくるくると飛び回るルルの動きを目で追っていた。


何故そんなにも嬉しそうなのだろうかと思っていると、ルルの手に現れた手提げの籠から小さなピンクのハートのような花びらを撒きはじめた。


これは…どこかで見たような…?


智明が記憶の糸を辿っていると、森がノックをしながら声をかけてきた。



「着替えたら降りて来いよ、俺は先行ってるから」


「あ、う…うん」



兎に角、顔を洗ってみんなとご飯を食べないと、おばさんに怒られる。


慌ててパジャマを脱ぎ捨てクローゼットから適当に服を引っ張り出して袖を通すと、パタパタとスリッパの音を立てながら階下へ降りた。



「おはよう、智明ちゃん」



洗顔を終えた智明がダイニングへ足を踏み入れると、皆既に食事を始めていた。


さっき明が買ってきたらしい梨を剥きながら弓子が声をかける。



「おはようございます」


「ベッドから落ちたみたいだけど、どこも怪我はしていないのよね?」


「あ、はい…」


「結構智明はアレだよな」


「アレってなんだよ、櫂…」



お茶を飲みながら櫂がこちらに寄こした視線でにやりと笑ったのがわかる。


何を言われるかは見当がついている智明はやや口を尖らせながら、櫂と森の間の椅子に手をかけ座る。



「…どんくさいってことじゃねえの」


「っちょ、森、なにそれ?」


「さあね」


「…」



なんだか森がいつもより機嫌が悪くて、なんだか意地悪だ。


自分は何かしてしまったんだろうか、とお茶に手を伸ばし口に付けながら隣に居る森の横顔を盗み見ると…。



「がはっ!!」


「えっ?うわ、大丈夫か!?」


「あら大変っ!布巾布巾…」


「え、ち、智明?」


「やっぱどっか具合が悪いんじゃないのかい?」


「ごほっ、ごふっ…」



さっきまでは何もなかったはずの森の頬に大きなハートが描かれており、その中には「祝」の文字が鎮座していたのだった。















ホントに夢落ちにしてやろうかなと思ったのはここだけの話です。


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