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妖精に愛された僕  作者: 豆田あんじ
17/32

狭間の幸せ




「んっ…」



キスをされてる。


そう自覚しただけで智明は体中の血液が沸騰してしまうんじゃないかと思った。


唇が合わさる瞬間の森の顔が、今目を閉じている智明の瞼の裏から消えない。


あんな色気のある表情なんか見たことなかった。


視線は智明の唇一点に注がれていて、薄く開けられた唇から覗いた森の舌に目を奪われてる間に、智明のそれは塞がれてしまっていた。


初めてするその行為は思ったよりも息苦しく塞がれた気道を外そうと試みるが、力を入れられてる自覚はないのに何故か智明は自分の指すら動かせない。


息がうまく継げなくて頭がくらくらするのに、森は智明の口を自由にはしてくれない。


合わされた唇が角度を変える度に出来る隙間から、空気を求めようと開きかけた智明の口内にするっと森の舌が侵入してきた。



「ふうっ…ん…」



時折無意識に鼻から抜けるこの甘い声は、本当に自分が発してるのだろうかと智明は羞恥で顔に血が昇るのを感じる。


圧倒的に足りない酸素を更に排出して、どんどん苦しくなるのに森のそれは智明を怯えさせないように、でも自分を拒否するのは許さないとばかりに、優しくそして執拗にその舌を追う。


智明の顔が感じてるというよりもただ単に酸欠で顔が赤くなってるのに、森は苦笑しながらその下唇を名残惜しそうにちゅっと音を立てて吸うと、漸く解放してやる。


涙目で酸素を求め荒い呼吸を繰り返す智明の髪を撫でながら、森は愛しくてしょうがないとオーラをだだ漏れにしながら眺める。



「智明、鼻で呼吸するんだよ」


「…はあ…はあ」



まだ息の整わない智明はその言葉に真っ赤になりながら、蕩けそうな目で自分を見てる森を見遣る。


だけどその視線に耐えられず、反射的に俯いてしまう。


こんな顔、反則だ。


そんな甘い顔して、更にかっこいいだなんて、ずるいだろ。


それになんだろう、この感じ。


自分にシッポがあったらこの辺かな、ってところがむずむずする。


恥ずかしくてこそばゆくて、嫌な感じじゃないけど何か落ち着かない。


だけど、どうして僕は森にキスをされたんだっけ…?



「ああ…もう俺、今まで生きてきてこんな嬉しいことなかったわ…」



体の底から吐き出されたように深く響く森の声は、智明の耳からじわじわとその甘さが侵食していくようなもので。


掌で両の頬をそっと包まれ額を付けられる。


その近さに慣れない智明は一瞬身を引こうとするが、鼻先同士を擽るように擦られるその、まるで恋人に対する仕草に智明は目を瞠る。



「ね、智明。好きって言って?ちゃんと俺のことが好きって言って?」


「…ええっ?!な、な、なんで?!」


「え、なんでって…智明、ひどい…」


「ええええええ!」



智明からしてみればさっきまで普段どおりの従兄弟が、急に森の纏う空気から表情や声や智明に触れる指先にまで、愛しくて仕方がないと隠しもしないその変化についていけてないというのに。


いまいちキスされた理由もわかってないのに、そんなことを言われて軽いパニックに陥る。


しょぼんと情けなく下げられた眉に、がっくりと落とされた肩。


もし今の森に獣の耳がついていたなら、確実にぺしゃりと伏せられていることだろう。



「だってさっきの、智明は俺に嫌われたら生きていけない位、俺のことが好きって意味だろ?」



さっきのって…。



森の言葉を頭の中で繰り返してみる。


途端にみるみる智明の顔が赤みを増し、森の顔を見詰めていた瞳は忙しなく泳ぎ始める。



言った…!!


確かに言ったけど、間違ってないけど…!!


そんなつもりで言ったわけじゃなかったのに!!



自分が言った事でこんな事態に陥っていることをやっと理解した智明は、改めて自分の迂闊さに頭を抱えたくなった。


告白なんかするつもり全然なかったのに、森に指摘された通りに智明はあれがとんでもなく破壊力のある愛の言葉に思えてきて、羞恥で暴れだしたい気分だった。



「え…あ、あれ?」


「ん?どした?」



智明が脳内でじたばた暴れていると、ふと冷静に先程の怒濤のように自身に起きたあれこれを思い返す。


相変わらず赤い顔した智明が思案顔で視線を上に向けるのにならい、ルルがまた何かのアクションをしているのだろうか、と森もつられてそちらを見遣る。


すると智明の体が雷に打たれたかの如く痙攣するように跳ねた。



「お、おい、智明?!」


「……」



ぐらり、と一気に体の力を抜いた智明がくずおれそうになるのを、慌てて抱きとめる。


何かの発作だろうかと首の据わらなくなってしまい項垂れた智明のそれに手を添え、顔を自分に向ける。


虚ろな視線で宙を見詰めていた智明の視線が、ゆっくりと森の輪郭を捉える動きを見せる。



「どこか具合でも…」


「森…」


「え?」


「僕を好きだから…、キスをしたの?」


「…え?」



智明の信じられない、と言ったような口調の疑問に、ちょっぴり森は泣きたくなった。



俺ちゃんと言ったよな?


何か色々通じてないからさっきからこんな反応だったのか?


てか智明、それ今気が付いたの?



何か途轍とてつもない無力感に襲われた森だったが、やっと森と同じ気持ちを理解して智明がこちらを向いてくれたのだ。


じっと視線を合わせたまま森の答えを待つ智明は、期待と諦めが混じったような複雑な表情で、森が何を言おうともその瞳はきっと涙を零すのだろう。


こんなに愛しい存在を森は他に知らない。



「…そうだよ。ずっと、智明が好きで好きでどうにかなりそうだった」


「っ…」



驚きで見開かれた瞳に新たな涙が隆々と迫り上がってくる様を、やっぱり思ったとおりになってしまったなと森が見詰めながら言う。



「だからさっき智明が俺に嫌われたら生きていけないって聞いたとき、多分智明が想像するよりすげえ嬉しかったんだけど…。舞い上がってんのは俺だけ?智明はどう…」


「っ、好き!!僕も森がずっと、好きだった…!!」



森が言い終えぬうちにせきを切ったように智明が、森の胸元をぎゅっと掴みながら必死に訴える。


今度は森の方が気圧されかねぬ勢いで、だけど感動と驚きに言葉を詰まらせる。



「うん、俺今、すげえ幸せ」



照れ笑いを浮かべながら本当に幸せそうな顔をする森が、また智明にゆっくりと近付いてくる。


再びキスの予感を感じながらふと森の背後に、ルルの羽音が聞こえると同時に上から何かが降ってくるのを見た。


唇が触れそうになって瞼を伏せかけた智明の視界に映ったのは、桜の花びらに似た小さなハートだったような気がした。


森が合わせるだけのキスを何度か繰り返すと、智明の体からふっと力が抜け重みが少し増したのを認めて耳元で名を呼んでみる。



「智明…?」



耳元に口を寄せたことで智明の呼吸が森の耳に入る、規則的な音が寝てしまったことを知らせる。


この2~3時間の間に見舞われた、思いも寄らぬ緊張やストレスで疲れ果ててしまったのだろう。


やっとこの愛しい人の心を手に入れた実感に満たされながら、森はもう一度頬に触れるだけのキスを落とした。



「おやすみ、智明。目が覚めても、ずっと俺を好きでいてくれるよな…?」



夢落ちは勘弁な、と苦笑しながら自分の腕を枕に智明をベッドに横たわらせると、森もその瞳を閉じた。

















いちゃいちゃを書きたかったのに、微妙に失敗。

そして、色気が皆無でした。

力のなさを嫌というほど実感した回でした(汗

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