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妖精に愛された僕  作者: 豆田あんじ
13/32

その唇に願いを乗せて





「はあ、何か色んな事がやっと俺の中で当て嵌まったけど…」



ルルに下げられたジャージを穿きなおした森は髪をかき上げながら、智明の座っているベッドへと歩いてくる。


腰に手を当ててやや俯いた顔は多少の疲れも見える(ほぼルルのせいと思われる)が、そんな男臭い表情もかっこいいなあ、と智明は呑気に森に見惚れていた。


足を大きく開いてどすん、と智明の隣に座った森は、腿に肘を付いて指を組んだ。


ぽよん、とその振動で智明の体が僅かだが跳ねる。


智明から見たその森の姿が、落ち込んで項垂れているように見えてしまって、やっぱり話さない方がよかったのかなとか思い始める。


今までの智明の人生で、他人の自分に対する嫌な思いを一方的に浴びせられた経験が多いけれど、それでも強くあれたのは森と櫂がいたからであって。


だけどルルのことを森に話してしまった今、さっきから消えてくれない不安に押し流されそうな智明は、やっとのことで立っているような状態なのだ。


でももう過去には戻れない。


それに、智明にはまだ問題が残っていた。


それを遣り遂げるにはどうしたって、こんな気持ちのままでは無理な気がする。



そうだ。


ルルは?



無意識にルルを探さなくてはと思った智明は部屋を見回してみるが、またどこかに隠れてしまったのか鳴りを潜めてしまっている。


隠れていると言うことは、何の問題もないのだろうか。


ただの杞憂なのかどうかすら今の智明には推し量ることができないでいる。


森が関わるといつもこうだ。


何気ないことがすごく大事なことに思えるし、森が返す反応にいちいち一喜一憂してしまう。


そういえば恋をすると言うことは、そういうことなのだと櫂は言っていた。


櫂もそうだったのかと聞くと、やや間を空けて「そうだよ」と言った少し悲しそうな表情が智明の脳裏に浮かび上がる。


智明は自分だけじゃなく、かっこいいと普段から女の子にモテているこの従兄弟も、同じような恋をしているのだとその時知った。


実際智明はそう思わず言ってしまったのだ。



「…櫂はその人に告白、しないの?」


「うん、多分したらその人はすごく困るだろうから、俺はするつもりはないよ」


「え…。それって…」


「その人が誰を想っているか、俺は知ってるからね」


「そんな…」


「いくら他の人にもててもね、好きな人に想われなければ、俺には意味がないんだよ」



俺を好きになってくれたことに関してはありがたいと思うけどな、とぼそっと呟いた櫂はどこか大人びていて、智明の知らない顔をしていた。


だが、その気持ちは智明にも理解できる。


智明とて森以外の誰かに好意を寄せられても、その人と付き合えるかと問われれば無理だと思う。


そう答えた櫂の好きな相手が誰なのか、聞いてはいけないような気がして智明は何も言えなかった。



「だけど…もし俺の1番の願いが叶わなくても、その人が幸せでいてくれたらそれだけでいいかな」


「…幸せ?」


「俺に振り向いてくれなくてもさ、その人が好きな相手と一緒に幸せに笑ってれば、いいと思うんだよ」


「…櫂って、すごいね。僕だったら、そんな風に思えないよきっと…」


「だってさ?もし俺に無理矢理振り向かせても、それはその人にとって幸せじゃないだろ。ただ…」


「ただ?」


「その人がそいつに傷つけられたり蔑ろにされたりしたら、どんなに嫌がってもそいつから奪い返すけどな」



そう言い切った櫂の視線が思わず射るような真剣なものだったのに、智明は驚いて瞳をしばたかせる。


そんなにその人の事が大事なんだな、と智明は櫂の想い人が少し羨ましい気がした。


同時に自分は何て貪欲なんだろうと、自分も森にそう想われたいと一瞬でも考えてしまった、その浅ましさに泣きそうになる。



「…そっか。でも、櫂の好きな人がそんな想いに気付いてくれると、いいね」


「…いや、俺はいいんだ。だけど、智明は諦めるなよ。お前は必ず、幸せになれるから」


「櫂…?」



そう言って笑った櫂は、とてもきれいな笑顔だったのだけれど、どうしてあんなにも寂しそうに見えたのだろう。



智明がぼんやりと櫂との会話を思い出していたら、あの時の櫂が何故あんな話をしたのかが気になりだした。


いつだって櫂は智明の悩みを聞いてくれるのに、櫂が智明に何かを相談することはあまりないと言っていい。


僕は森にも櫂にも甘えて、そのくせ2人には何もしてあげられないなんて…。


自分は無力で器も小さくて、なんて弱いんだろう。



智明は何かを決心したように拳をぎゅっと膝の上で握ると、いつの間にか仰向けに転がっていた森に向き直る。


両手を頭の下に組んで枕にして足は片方床につけたまま、反対の足を膝に乗せて森は目を閉じていた。


眠くなってしまったのかな、と思い智明が声をかけるのを躊躇っていると、どこからかルルの羽音が聞こえてきた。


音を辿ってルルの姿を探すと、くるくると回りながら森の方へ飛んでいる。


智明がじっとそれを見守っているとルルは、森の顔にそのままダイブするように飛び込んで行き今度は頬に例の手紙を貼り付けた。



「あっ…!」


「え」



思わず声をあげてしまった智明にすぐ反応してぱち、と瞠目どうもくした森の視線が交わった。










やっぱり、櫂は男前だと思いますけど。


櫂にも幸せになって欲しいです。

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