ルルの秘密
次話までコメディ風味が続く予定です。
「うんそう、そんな感じ」
「服は?」
「えっとね、羽衣?みたいな感じで布を巻きつけてる。瞳の色よりも少し薄い緑だよ」
「んー…巻きつけてる、ねえ…。どんな風に?」
「んと、肩からこう斜めに腰で一巻きして、それで足の方に下りてまたぐるっと…」
「む?」
「ご、ごめん。うまく説明できなくて…」
「うーん、こんな感じか?」
「森、すごい!!」
智明は元々何かを作ったり、絵を描いたりという作業に悉く向いていない。
ルルの特徴を森に伝えるだけでもかなりの労力を要した。
反対に森の方も要領の得ない智明の説明を、絵に起こす前にイメージしながらの作業だった。
森は特に絵が得意で、小学生の時に適当に描いた漫画の出来も相当完成度が高かったほどだ。
ああだこうだと2人で言いながら完成したルルの姿も、智明のあの説明でよくここまで再現できたと思う出来だった。
「へえ、ルルは相当美人だなこりゃ」
「うん、そうなんだよ。すごく可愛いよ」
「つか、ルルって男?女?」
「えっ!?」
至極普通の疑問を口にしただけなのに、何故そこまで驚くのか。
「なに、智明知らねえの?」
「…」
森の足の間でぽかーんと固まってしまった智明が、ぎぎぎ、と音がしそうな動きでゆっくりと森の方へ振り返る。
「…気にしたこと、なかったよ…」
「えっ」
今度は森が固まる番だった。
「…嘘だろ?一体どんだけ一緒にいたのに、性別スルー?」
「う…」
「んじゃ、ちょっと今訊いてみて?」
「う、うん。ルル、どっちなの?」
智明は天井の方へ向かって話しかけている。
きっと智明の問いに反応したルルが目線まで降りてきたのだろう、智明の顔の角度が正面にまで下がってきた。
「ルルは男の子?あ、違うの?じゃあ女の子なんだね?…えっ?」
「どうした?」
智明は左手で森の膝を掴み、それを軸にして体を捻り勢い良く振り返る。
「…どっちでも、ないって」
「えっ?」
「男でも女でもないって、首を横に振るんだけど、ど…どういう意味かなあ…」
「うーん?妖精だから両性ってこともある?」
ルルが森の言葉に反応したらしく、智明の視線がルルの動きを追っている。
じっとそれを見つめているらしい智明を、更にじっと見ている森。
「わあっ!!」
「うぇっ?!っど、どうしたっ!?」
いきなり叫びながら智明が森に助けを求めるように胸の中に逃げ込み、その手は森のジャージの腹の辺りをぎゅっと掴んでいる。
勢いが少々良すぎて変な声が出た気もするが、森も反射的に智明の体を守るように抱きしめる。
「ちょっ、ちょっと、ルル!足!」
「…足?」
「もういいから、足閉じてえええ!」
智明は森の胸に額を擦り合わせるように、力なく緩々(ゆるゆる)と首を左右に振った。
その仕草でふわりと動いた空気に、智明のシャンプーの香りが森の鼻腔を擽る。
家族で同じものを使っているはずなのに、どうして智明はこうも甘いんだろうか。
森にとって芳しきその香りを楽しんでいると、掴まれていたジャージが更に引き攣る感触と共に、疲れたような溜め息が聞こえてきた。
「なにがあったんだよ?」
「ルルってば…」
「ん?」
「僕の目の前でさ?こんな近くだよ?」
こんな、と表したと同時に智明が自分の顔から20センチ程離した辺りに、自分の手を翳す。
「着ていた布を捲り上げて、M字開脚したんだよね…」
「ぐはっ…!」
妖精のM字開脚…。
想像以上にハードだ…。
さっきルルの姿形を明らかにしてしまったので、森はイメージは容易に出来たがダメージも酷かった。
「…で?そこには何があったんだ?」
あまり聞きたくないが自分で振った話題の上に、智明まで結構なダメージを受けてるしで、有耶無耶にする訳にはいかないと思った。
「なにも…」
「え?なにも?」
「なんにも、なかったんだよ…」
「ええ?」
「ほら、子供の時着せ替え人形のパンツの中身を見るって言って、脱がしたことあったの覚えてる?」
「ああ…なるほど」
森がその時の記憶を反芻して、げんなりした声をあげる。
「な、なにもないからっていっても、ルルの…あ、あ、あんな…」
「落ち着け、智明。聞いたのは俺だし、ルルは答えてくれただけだろ?」
まあ言葉は話せないみたいだし、ルルも説明のしようがなくて実際に見せる形を取っただけなんだろうけど、M字はないわな。
森は苦笑しながら悪かったな、とまだ胸に縋り付いている智明の旋毛にキスを落とすと、ぴく、と智明の肩が反応する。
「ち、違う…」
「ん?」
「性別を判断するものはなにもなかったんだけど、ルルのお尻に…☆(星)のマークがついてて…」
「ぶは!」
「何もないなら、そのままにすればいいのに、なんであそこだけ…!」
M字の先には☆という衝撃的な事実に森の限界はとっくに超えてしまった。
「くくくっ…」
「し、森?」
「あっはははは!」
「ちょ、ど、どうしたの?」
智明を抱きしめたまま森が堪えきれなくなった笑いを解放すると、智明の体も同じように揺れてしまう。
夜中なのでその声を森が抑えようとすると、腹筋の動きがやけにリアルに智明に伝わる気がする。
実際に見てしまった智明には何気にショックだったのだが、森にはそうでもなかったらしい。
リリリ、と羽音が聞こえる先を視線で追うと、ルルが何事もなかったようにニコニコしながら飛んでいるのが目に入る。
「僕、ルルのこと色んな意味で、全然わかってなかったんだね…」
溜め息と共に漏れた呟きにいつの間にか笑いの治まっていた森が、掌で智明の頭をこてん、と自分の胸に寄せると泣きたくなるほどに優しく撫でてくれていた。
相変わらず、ルルが暴走中(汗