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Ephemeral note ~リディアス国立研究所  作者: 瑞月風花


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 窓を開けた覚えはなかった。しかし、風がその窓から吹き込んでくる。ランドは一人ぽつねんとしていた。ラルーは「神様のご加護をお祈りしておきましょう」と魔女にはあり得ないような言葉を残して、窓から飛び降りた。いや、窓の辺りまでは姿を留めていた。そして、その窓枠の外へ伸びる背景に吸い込まれるようにして消えてしまった。追いかけようにも、声を掛けようにもどうしようもない。


 ランドは頭を捻った。トーラに望まれた願いは人間の望みだった。銀の剣は、人間を魔女から護る唯一の希望……。しかし、魔女は銀の剣以外でも殺すことが出来る。


 銀の剣は何を護っているのだろう。


とりあえず、魔女があの短い時間で貧血すらも治してしまったということは事実だ。魔女とは虫と人間よりも異質な存在なのだ。そして、信用に値しない生き物。ラルーの言った言葉自体がランドを惑わせるだけのものなのかもしれない。


 リディア家が作り出した逸話が民衆を惑わせるように。


 銀の剣で刺された魔女は清められ、皆を護る神としての役目を与えられる。だから魔女狩りは不浄のものではなく正義そのものなのだ。これは聖戦。神に与えられし役目なのだ。


 もともと銀の剣自身が神から与えられたと言われているものだから、そのことについて誰も気にしていない。


 まったく都合のいい話だ。


 極度の人間不信であるアイルゴット王が傭兵達をことごとく解雇した後の魔女狩りはまだ終わりそうにない。ランドは研究所所長になり、自動的に次期長官が選ばれるまでの長官代理を務めることになった。とはいっても実質兵を動かす力はない。口を挟む程度の力だ。そして、これも自動的にマリアに毎日ぼやかれ叱られる毎日が始まった。笑えてくるくらいに忙しくて、自分が何に興味を示し、どんなものを好んでいたのかさえ曖昧になってきそうだ。こんなことをランネルもラルーも涼しい顔でやっていたのかと思うと、それこそノイローゼになりそうだった。全く、ランドがワカバに会いに行かなければ、ラルーはワカバを連れ出さなかったかもしれないと思うと、それだけで恨めしい。もしかしたら、あの逸材を失わせてしまったのはランドのせいなのではないだろうか。ランドがここにいたとして何が出来るというのだ。


 だから、ランドらしからぬ場所に足が伸びたのだ。白磁の女神がいる場所。妹がいなくなってから来なくなった場所。妹の好きだった場所。そして、ここに似つかわしい都合のいいことを考えていた。例えば信じたいことだけを信じるような危険なことを。


 例えば、この世を滅ぼすことが出来る力のある者たちにとって、生き物の死を予測することなんて赤子の手を捻るよりも簡単なことなのだろう。


 あの魔獣はガントが作り出したものだった。しかし、ラルーが選んだ日時、魔獣。何時何分に死亡するかまで分かっていたのなら、…。ワカバだって同じなのかもしれない。そして、そんなことの出来る者たちの


 後釜にランドがいる。


 大丈夫なわけがないでしょう? この立場にいるのでさえ、精一杯なんですから。いや、魔女は信用に値しない者、全部嘘なんじゃないですか? だけど、ワカバさんが戻って来ても安全なくらいにはしておきますから。魔女になんかならないでくださいよ。

 

 だけど、まぁ、長官のおっしゃった言葉は全て信じておきますから、神様のご加護の下りも裏切らないで祈っておいて下さいね。


 もちろん白磁の女神はその両の手を民に広げたまま何も答えない。これもあの時と同じ。


 ただ女神は微笑むだけ。



ランドとワカバのお話はこれでおしまいです。最後まで読んで頂きありがとうございました。


時系列としてはこの後本編へと繋がっております。何度か読み直して誤字などを訂正しておりますが、お気付きの点などご一報下さいますとありがたいです。


未熟な文章ですが、これからもよろしくお願いします。


瑞月風花

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