表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

一寸先は夕闇

作者: 壱宮 なごみ

 幼馴染みで同級生の男女が恋仲になるなんて、そんな御伽噺みたいな設定を初めに考えたのは誰なんだろう。

 あたしと彼は、幼馴染みの同級生で、家は隣じゃないけど歩いて三十秒の距離にある。幼稚園、小学校と同じトコに通ってたけど、同じクラスになったのは九年間でたったの一回、年少の時だけだった。「来年は同じになれたらいーね」と苦笑し合ったのは小学三年生の時まで。あたし達は……マンガで描かれているソレとはかけ離れた〝幼馴染み〟だった。


 朝起きて初めに取る行動は、閉められたカーテンを開けること。目覚ましで半分起こされた頭を、日光で更に目覚めさせるため。

ふと下を見れば、そこには走って行く彼の姿。部活の朝練がある彼は、いつも人より早く登校してる。そしてその姿を、毎朝あたしは目にしてしまう。マンガの幼馴染みだったら、一緒に登校するんだよね。本当に羨ましい。届かない想いと知りながら、あたしの目は彼の背を追ってしまう。毎朝見て、確認する。あたしは今日もまだ、彼が好きなんだ……と。


 教室に行っても彼はいない。とりあえず女友達と駄弁りながら一日を過ごす。授業中には窓の外を見て、マンガみたいな展開を頭の中に描く。

隣の席には彼がいて、宿題見せ合ったりするんだ。少し抜けてるところがある彼だから、筆箱を忘れちゃうかも知れない。その時は絶対、あたしが貸してあげるの。

 妄想癖が激しいことは分かってる。だけど仕方ないじゃない、どう足掻いても好きなんだから。だけど隣のクラスには行かない。会話をしに来ましたとは言えないし、きっと周りの視線を痛いほど感じてしまうもの。

何て、何て臆病なんだろう。自分で自分に嫌気がさす。それでも、好きでいたかった。


 だからね、怒ってないよ。悔しくもない。あの子を憎むつもりも無い。今まで言えなかった、あたしが悪いんだから。

 十四歳の誕生日の一週間前、あたしはその光景を見てしまった。

 前を行く彼が、もし一人で歩いていたのなら、頑張って声をかけた。男友達と歩いていたのなら、わざと追い抜かして気付いてもらうことも出来た。……どちらも、出来なかった。

「本当に大丈夫?」

「平気だって、あとは俺の問題だし。それより……悪いな、付き合わせちまってよ」

「いいのいいの、うちのエースの頼みだもん。気にしないで」

 夢を見てるのかと思った、一生かかっても忘れられない最上級の悪夢を。彼の隣を歩くあの子は、その可愛さと真面目さで有名なマネージャーさん。

そうだよね、彼はあたしの自慢の幼馴染みなんだから。放っておかれるワケがないんだよ。きっとお似合いだよ、臆病なあたしと違って、あの子はみんなから好かれる理想の彼女だし。

 必死に必死に言い聞かせて、これまでの想いを全部消そうとする。悔しくないよ、憎らしくもないよ。

 それでも……理性がちゃんと解釈してても、溢れ出ちゃう涙はどうすればいいのかな?

 行かないで、待って、そう叫んでしまいそうな、このどうしようもない口はどうやったら上手く閉じてくれるかな?

 悔しくないよ、憎らしくもないよ。

 ただ少し……とっても、苦しいの。

 

 長く伸びる二つの影を踏まないように、逃げ出した。

 

 あたしはもう、貴方を見ることが出来ない。

 あたしはもう、貴方と話すことも出来ない。

 あたしには……もう、貴方の隣を歩く権利は無いんだ。


 いつもと違う小路を抜けて、あたしは家に駆け込んだ。勢いよく部屋のドアを閉めて、夕陽色のベッドに倒れ込んで泣いた。

 忘れなくちゃ、忘れなくちゃと割れそうな頭に自己暗示をかけながら。 



「あ、でも、上手くいかなくても私のせいにしないでね」

「分かってるって。つーかアイツ、俺のこと幼馴染みだって覚えてんのかなー……中学に入ってから全然喋ってねーんだけどさ」

「そうなの?幼馴染みなのに珍しいね」

「けど、だからこそ驚くかもなっ。俺、アイツに女物のプレゼントとかしたことねーからさ」

「そうだね、きっと上手くいくよ」





 【一寸先は夕闇】



読破感謝いたします。人間って、大事なこと言わないから勘違いとか起こるのよ、って話でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  おひさしぶりです、葵枝燕でございます。  「一寸先は夕闇」、読ませていただきました。  まさかの結末、驚きと共に感動しました。ハッピーエンドというか、「あたし」が笑顔になってくれればいいで…
[一言] 大事なことが言えない。いいテーマです。私の小説、『おっさん童貞クラブ』を読んでいただけたら嬉しいです。
[一言] 初めまして。紫乃咲と言います。 お邪魔させていただきました。 こういうオチ大好きです。 プレゼント貰った彼女はどんな反応するんだろう。 想像出来る余韻があるのが良いですね。 素敵な物語を…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ