sepia
セピア
『懐かしい匂いがする…』
それは、夏が終わり秋の近づく頃の曇りの夜だ
雨が降るか、降らないかのよくわからない夜の天気。
でも、秋をまとった夜風が髪をなびかせるくらい吹いていて、それでいてどこか暖かい。
『すごく懐かしい…なんだろこの匂い』
頭の中に思い浮かんだのは、小さい頃に遊んだ公園。通学路の近くにあった古い神社。いつかの夕焼け。
夜なのに…。
雨が降りそうな曇天空なのに…。
秋の夜風に混じって届いたものは
セピア色の思い出たちだった。
『あ、そうか。金木犀か』
僕は、夜に紛れて咲いている金木犀をみつけた。
『思い出か、忘れてたな』
その思い出にひっそりと耽りながらも、まだ僕の横顔を優しい夜風が吹いている。
memory