『何なの? 履歴って』 管理人側視点
「これでも飲んで、気持ちを落ち着かせてください」
ベッキーがもってきてくれたコーラを飲みほしても、ため息はとまらなかった。
しかし、気落ちしたままでは、三人に迷惑をかける。というより、場の空気が冷える。現時点での主役は僕なのだ。
「はい、次、いきましょう」
気力を振り絞って、作り笑顔でそういうと、カモシンは意味不明な質問を口にした。
「ちぎれ雲さんは携帯電話をお持ちですよね」
どうして今更そんなことを訊く? 昨日も今日も使ったのに。でも考えるのも面倒だった。
「ええ」
それだけいって、ウエストポーチから取り出した携帯をテーブルに置いた。
カモシンはそれをしばらく眺めてから、僕に顔を向けた。
「カロンさんとは、この携帯を使って連絡を取り合っていたんですか?」
そこで僕は、カロン関連の検証がまだつづいていることに気づいた。と同時に、顔は忘れたが、カロンと過ごした日々の記憶はまだ残っていることにも。ちょっとだけ気持ちが明るくなった僕は大きくうなずいてからいった。
「カロンが遊びに来るとき、ほとんど連絡なしでした」とそこで、カモシンの表情に影が差したような気がしたので、あわてて付け加えた。
「もちろん、この携帯を使って話をしたこともあります。少なくとも、十数回は……」
「そんなにですか?」なぜかカモシンは嬉しそうな笑顔を浮かべて、
「履歴を見てもよろしいでしょうか」
とつづけた。
「履歴?」
僕の声のトーンが高かったのか、カモシンは怪訝そうな表情になった。
「消去されたんですか?」
ショウキョの意味がわからなかったが、僕はテーブルに置かれたままのアイパッドを、ちらりと見た。
「履歴を見ることができるのは、アイパッドだけじゃないんですか?」
「その機能は携帯にもついています」カモシンはその流れのままつづけた。
「調べてもかまいませんか? 履歴」
確認するところを見ると、履歴には何か重要なものがあるらしい。
「何のために?」
「携帯電話の履歴に、カロンさんの電話番号が残っているはずだからです」
恥ずかしい話、僕にはカモシンがなにをいおうとしているのかわからなかった。なにしろそれまでの僕に、こちらから相手に電話をかけるという発想がなかったからだ。
「その電話番号を、どうするつもりなんですか?」
カモシンは、ちょっと驚いたように目を見開いた。それからまばたきを二、三回くりかえしてから、ゆっくりとした声でこういった。
「いまでも、カロンさんがその携帯電話を持っていれば、カロンさんにつながるということになります」
つながる? カロンに? どうして?
体中の力が抜けるのを感じたのは、その十数秒後だった。自分の脳細胞の性能の低さにあきれ果てた僕は、頭の後ろで両手を組んで、天井を見上げた。
「こんな簡単な方法があったなんて……」
しばらくそのままの姿勢でいた僕の脳裏に、ある疑問が浮かんできた。
バーシュウレインの三人は、この方法があることを知らなかったのだろうか……
僕はゆっくりとからだを起こした。答えは、やわらかな笑みを浮かべて僕を見つめている三人の顔に書いてあった。
「どうして教えてくれなかったんですか? 知っていましたよね、僕がカロンを探していることを……」
その理由を、にこっと笑ったカモシンが教えてくれた。
「直接の依頼がなかったからです」




