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『兄さん。悟空。ゴミ。勘違いの理由。そして』     管理人側視点

僕にとっての初めての瓶コーラは、ベッキーお勧めの直飲みだった。

 同じコーラなのに、別の飲み物みたいな感じがした。

 たぶんそれは、栓を開けたときのシュポーンという小気味よい音や、掌にフィットする容器、ガラス自体が持つ冷たさ、硬さ、重量感、といったような味覚とは関係もない要因も加味された結果だと思うが、それはそれとして、僕は二本目も彼女に任せることにした。

「私たちが若い頃、コーラを注文すると、たいていこのスタイルだったのよ」

 彼女はそう言いながら、氷入りの8オンスタンブラーにコーラを注ぎ、仕上げに薄く切ったレモンスライスを一枚浮かべた。

「どう?」

 酸味に弱い僕はレモンも苦手。舌先の酸っぱさに片目をつぶって答えた。

「昭和の味がします」

 ギャグとも呼べないものだったが、三人にはけっこうウケた。

グラスの中身が半分ほどになったとき、四つ折りのポスト・イットがカモシンの前に置かれたままになっていることに気づいた。

「せっかくです。僕達の出会いを予言した数字の答合わせをしてみませんか」

 僕の提案に、三人は恥ずかしそうな笑みを浮かべた。

 もしかすると、封筒は空っぽ? 一瞬そう思ったが、違った。

 苦笑いの理由をカモシンが教えてくれた。

「実を言いますと、監視カメラの映像を見るまで、私たちは、自分に降りてきたお告げの意味を取り違えていたんです」

カモシンが自分の横に置いていた封筒から紙片を取りだすと、他の二人も同様の動作をした。

 僕の目の前に置かれたのは色違いのポスト・イット三枚。裏返しになっているのは、内容がわからないようにするためだろう。

「私たちは、ラッキーカラーというものを信じています」カモシンは黄色のポスト・イットを開けた。「これはベッキーに降りたお告げです」

 23。

「彼女はこの数字を、兄さんだと受け取りました」

 そのあとをベッキーが引き継いだ。

「たぶん私には、そんな願望があったんでしょうね」

 彼女が言ったのはそれだけだった。でもその表情には、どこか寂しげな色が浮かんでいた。

「これは私です」カモシンはグリーンのポスト・イットを僕に向けた。

 59。

「笑われるかもしれませんが、これを見た瞬間浮かんできた文字は悟空でした。悟空と言えば、西遊記。西遊記と言えば、三蔵法師。三蔵法師と言えば、玄奘三蔵。玄奘三蔵と言えば僧侶。というように、言葉だけはどこまでもどこまでも繋がっていくのですが、終着点を見つけることはできませんでした。どうして59を悟空だと思い込んだのか、今でもわかりません。なにしろ悟空がでてくる小説や絵本をみた記憶さえないのですから」

 カモシンはしばらく自分の文字を眺めていたが、やがて小さく首を振ると、ピンクの紙片に手を伸ばした。

 53。

「それは私です」

 ガウチが自分で説明した。

「私がそれをゴミだと思った理由は、なんとなくわかります。幼い頃の私は、ものすごい潔癖症だったんです」

 もう少しつづけたいような顔をしていたが、ガウチはそこで「以上です」と言って話をやめた。

「今回の経験で、学んだことがあります」カモシンが話をまとめてくれた。「思い込みの怖さです」

 残りのコーラを一気に飲み干した僕は、四つ折りのポスト・イットに手を伸ばした。そして中身を確認してから、三人に向けた。

「どうです。同じでしょ。23・59・53。でも、不思議と言えば不思議ですよね。こんなことが実際に起きるなんて」

 しかし、だれの表情にも変化はなかった。どうやらこの件は、三人の中では、すでに過去の出来事として処理されているらしかった。

 場がしらけたような気がした僕は、そこを取り繕ってやろうと考えた。

 先ほどカモシンにした質問を、他のふたりにもしてみようと思ったのだ。

 しかしその前に、天井を見上げたカモシンが、妙なことを言いだした。

「どこにいらっしゃるんですか? あなた様は」

 彼女の視線は、落ち着きなく左右に揺れているように見えた。

 その異変に気づいたガウチが、眉間にしわを寄せて訊ねた。

「だれに言っているの?」

 カモシンは、さらりとした声で答えた。

「決まっているじゃない。神様よ」


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