『予想外の展開』 管理人側視点
さすがは超高感度4Kカメラ。
マンション横でタクシーを降りた僕が、玄関目がけて足早に歩く姿を克明に捉えていた。
昨夜はうす暗い街灯の明かりしかなかったはずなのに、昼間と見間違えるような映像。玄関周りに植えられた植物をうっすらと覆う夜露の一粒一粒までもが、くっきりと映しだされていた。
しかし画質や解像度なんて、どうでもいい。
僕の関心は、映像に記録されているタイムコードの数字だけ。
「そこで止めて下さい」
二百インチスクリーンを睨んでいた僕がそう言ったのは、画面上に23時59分53秒を示す数字が並んだ時。
801号室の郵便受けにさし込まれた名刺から、僕の指が離れた場面だ。
普通に考えれば、ここで僕、あるいはバーシュウレインの誰か。もしくは僕を含めた四人全員が、何らかのリアクションを見せなければおかしい。
ドラマでいえば、最重要シーン。僕とバーシュウレインの結びつきを示すキーワードが、この瞬間に明らかになる決定的な場面なのだから。
しかし、現実は違った。
ハッと息を吞む気配さえなかった。
かといって、驚きのあまり、身じろぎひとつできない状態に陥った、と言うわけでもない。
一言で言えば、一瞬にして穏やかな雰囲気が訪れたのだ。
僕の言葉によって、それまでのひりつくような緊張感が消し飛んだ。そんな感じだった。
たぶん僕が、止めて下さいと言った瞬間に、人知を超えた何かが僕達それぞれに作用したのだろう。
裏付けなんてなにもないが、そんなふうに考えないと、話のつじつまがあわなくなる。
「つまり、ここにあの数字が書かれているのですね」
スクリーンから視線を僕に移したカモシンが、折りたたんだままのポスト・イットも見ずにそう言い。
僕が笑顔で「そうです。皆さんの封筒の中身と同じ数字です」と応じ、ガウチが「ねえ、お茶にしましょうよ。喉がカラカラなの私」と言い、ベッキーが、にこっと笑っただけで、その場はすんなりと収まった。
ガウチとベッキーが飲み物の用意をするあいだに、彼女たちの守り神を見せてもらった。
お石様。それは光沢のある布の上に置かれていた。サイズは僕の拳よりやや小さめ。歪な形をしていた。
「何か感じませんか」
ただ黙って見つめるだけの僕に、遠慮がちな声でカモシンが訊いた。
僕に言わせると、ただの黒い石。河原や浜辺にいくらでも転がっていそうな石ころ。
「いえ、なにも」
正直に答えると、カモシンは少し考える顔になった。
「ということは、ちぎれ雲さんに降りたお告げは、私たちとは別のルートのようですね」
「別のルートですか?」
とつぶやいた僕は、ルートの意味について考えてみた。
みちすじ。通路。経路。日本語で言えば、たしかそうなるはず。
235953、しばし待たれよ、チキンレース。この三つが、僕の直感ではなく、別の場所から送られてきたものだとしたら、送り主がいなければならない。
その時点で僕が信じかけていたのは、守護霊、あるいは守護神。守護霊と守護神の違いはわからなかったが、仮に存在していた場合、自分の身体のどこかにいるのだろう、漠然とながらそんな思いがあった。
「いるとしたら、どのあたりにいるんでしょうね、神様は」
言ったあとで、しまったと思った。彼女らは信じているからこそ、この黒い石を私たちの守り神だと言っているのだ。
しかし返ってきたのは、予想もしていない答えだった。
「いないと思います」
なんの含みもない声に驚きを覚えた。
「え?」僕はカモシンに向きなおった。「だって、ほら」
僕がお石様に視線を移すと、カモシンはクスッと笑った。
「他の二人の意見も訊いてみませんか。実を言うと私、ガウチとベッキーがどのように考えているのか知らないんですよ」




