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『破れかぶれ」 管理人側視点

外見で物事を判断してはならない。

 いつ、誰からだったのか覚えていないが、そんな話を聞いたことがある。

 たしかその時僕は、こんな反論をしたと思う。

 冗談じゃない。それは間違い。第一印象ほど確かなものはない。

 しかし、僕の方が間違っていたようだ。

 外は手を触れただけで剥がれ落ちそうなぼろぼろのトタン壁。しかし彼女らの肩越し見える店内は、三つ星レストランかと思うほどの重厚な造り。

 驚いたのは、それだけではない。

 天井から吊されている横断幕の豪華さだ。

 仮に素材が和紙。『いらっしゃいませ、ちぎれ雲様』の文字が毛筆だったとしても、手際の良さに感心しなけれがならないところだ。

 なにしろ今朝の電話から、五時間も経っていないのだから。

 ところがその横断幕は、光沢豊かな布でできていた。たぶんサテン生地。文字のすべては縁取り付きの刺繍。

 目見当だが、サイズは、巾九十センチ。長さ四メートル。こういった業界のことをまったく知らない僕でもわかる。いくら安く見積もっても、三万円やそこらでできる代物ではない。五時間以内で設置まで終わらせることもできないはず。

 だが実際に、それが僕の視界の中に存在する。この現実を、どう捉えればいいのだろう。

 僕は混乱する頭の中で、この状況の背景を考えてみた。

 つまりバーシュウレイン側には、今日の出会いが、あらかじめわかっていた。そうとしか考えられない。

 とすると、いったい何者なんだこの三人。

 やっぱり変装した婦人警官?

 話を一時間聞くだけで三万円頂くことは、法律に触れるわけ? 

 僕の第一声いかんによっては、どこかに隠れている警官が飛び出してくる仕掛けになっているの? 

 でも、そうなると、話のつじつまが合わない。

 僕と電話が繋がらなかったり、僕が断った可能性だってあるのだ。実際に僕は、支払いは小切手でと言われたとき、一瞬断ろうと思ったほどだった。でも、あの電話の前に横断幕の製作が開始されていなければ、間に合わないはず。

 考えれば考えるほど、僕の混乱はひどくなっていった。

 逮捕が目的なら、どうして横断幕の文字が、いらっしゃいませ、ちぎれ雲様なんだ。それに、どうして三人は和服を着ているんだ。しかも赤、黄、緑。まるで信号じゃないか。

 ところで今朝の電話で、どんな会話を交わしたんだったっけ?

 と頭を切り換えたとき、閃きのようなものが走った。

 オブザーバー。

 そういえば電話の中で、こんなやりとりがあった。

 あなた様の感想を聞かせて頂くことも、可能でしょうか? 

 そこで僕は気づいた。僕を見つめている三人の目には優しさがただよっていた。それぞれが、口元に笑みをたたえていた。

 そのやわらかな表情に、僕は自信を得た。

 彼女らは、僕のアドバイスを待っているだけなんだ。

 いかがですか、この落差。料理が美味しいだけで客が呼べる時代は終わりました。

 便器のカタチの皿でカレーを食べる。尿瓶にいれたビールで乾杯する。

 そのような奇をてらったレストランが繁盛しているということも承知しております。でも私どもは、そのような品の悪いことはいたしません。

 一見すれば、ゴーストタウンと見間違うシャッター通り。でも中身は、ご覧の通り。  多くの方々と接しているちぎれ雲さんからみて、どうでございましょう。私どもの、このアイデア。

 彼女らが僕に求めているのは、第三者の率直な意見。それに間違いなさそうだ。

 だとしたら、ここは気の利いたセリフでガツンと返してやろう、

 と思ったが、そこは世の中のことをほとんど知らない素人の哀しさ。何をどう言っていいのか、さっぱりわからなかった。わかったことといえば、最初のコメントを発した時点で、もう結構ですと断られる可能性が極めて高いこと。

 しかし、縁あってここまでやってきたのだ。できることなら、もうすこし先を見てみたい。

 そこで僕が考えたのは、しばらく様子を見てからにしよう作戦。

 物事は、全体的に見なければわかりません。感想は最後の最後に言わせていただきます。

 思いつきにしてはグッドアイデア。それでいこうと、思ったのだが、口から出てきたのは、それとはまったく逆のセリフだった。

「僕、まったく何も知らないんです。今回のことは、なかったことにしていただけませんでしょうか」

 


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