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『黄色地のブラウスが気づいたこと』  バーシュウレイン視点

「どうしちゃったのかしら、私」

 ルビーはつぶやくような声でそう言うと、納得できないというような表情を浮かべて、自分の体のあちこちを指で押し始めた。

 その様子をうかがっていた黄色地のブラウスは絶望的な気持ちになった。ルビーの指輪をはめた彼女を、新たな痛みが襲っているようにしか見えなかったからだ。

 普通の人なら見逃すような微かな表情の変化。ちょっとした仕草。そのようなものから、相手の心理や体調をずばりと言い当てる。そんな能力があったからこそ、今の地位がある。

 ひょっとすると、その能力が消滅してしまったのかもしれない。

 黄色地のブラウスは、本気でそう思ったのだ。

「ね、ね」おそるおそる訊いてみた。「痛み、なくなったんじゃないの?」

 その呼びかけにルビーは我に返ったが、黄色地のブラウスが何を言ったのかは分からなかった。

「なに?」

 黄色地のブラウスは、すこし苛立った声で言った。「どっちなの?」

「なにが?」

「痛みよ、痛み。まだ痛いの?」

 そこでルビーは質問の趣旨を理解した。

「消えたわよ。きれいさっぱりと」

 黄色地のブラウスは安心したものの、むかっ腹が立った。言い方が、あまりにもそっけなかったからだ。

「だったら、喜ぶべきよ。笑顔を見せるべき」

「それは分かっているの。でもね」無表情のまま答えたルビーは、いやいやでもするように首を左右に振った。「痛みが取れた喜びより、それに気づかなかった自分が情けないの」

「そうだったとしても」黄色地のブラウスはルビーを睨んだ。「痛みが取れたことを先に言うべきでしょ。よけいな心配をさせないでよ」

 険悪な空気になりかけたところで、エメラルドがゆったりとした声で言った。

「ねぇ、いま思い出したんだけど。私たち、何も食べていなかったわよね」


 バーシュウレインメンバーが運営するピザ屋に、注文の電話をかけたのは三ヶ月ぶりだった。

 フルーツトッピング満載の特Lサイズは五人前を想定した分量。しかし、朝から水一杯飲んでいなかった三人の胃の中に、あっという間に消えた。

「さっきは、ごめんね」

 お詫びの印にと、ルビーは自分の部屋から持ってきたハーブティーをふたりに振る舞った。ちなみにルビーは、ハーブコーディネーターの資格を持っている。

「お家元様直々のお茶が飲めるのなら、これからも、ちょいちょい怒ってみようかしら」

 と、おどけた声で言いながらペパーミントティーをすする黄色地のブラウス。その横でパソコン画面の映像を眺めていたエメラルドが、独り言のように言った。

「エネルギー切れの電池を、取り替えてくれたのは、だれだったのかしら?」

 さきほどから繰り返し流れている映像は、ルビーが絨毯の上に倒れ込んでから、軽快な足取りでパソコンの前に行くまでの、一分弱の映像。疲労困憊。苦痛に歪む顔に生気が戻るまで、ほんの数秒。

「足は西を向いていたわけよね」自分の表情と動作が変化していく様を何度も確認していたルビーが、思い出したように顔を上げた。「もし、東側に足を向けて寝ていたら、どうなっていたのかしら……」

 そこで考えるような目を天井に向けたルビーに、エメラルドが言った。

「バカなことはやめた方がいいわよ。取り返しのつかないことになるかもしんないし」

「違う違う。バカなことなんかじゃない。検証よ。推測が正しいかどうかを試してみたいの。危険なことはなにもないわ。痛みが取れないと分かった時点で、足を西に向ければいいわけでしょ」

「理屈では確かにそうなる。でも、足を西に向けたのは、無意識だったと思うの。意識してそうしていたら、違う結果になっていたかもしんないわよ」

「つまり、私の痛みは一生とれない」

「そこまでは言っていないわよ。因果関係がはっきりするまではやめておいた方がいいと言っただけ」

「因果関係を知るには検証が必要でしょ。それが今」

「気持ちは分かるけど、急がば回れ」

「違う、違う、善は急げ」

 そんな二人のやり取りを眺めていた黄色地のブラウスに、あるアイデアが浮かんできたのは、この時点で、多数決で決めなければならないとしたら、自分はどっちの意見に従うべきだろうと思った時だった。

 黄色地のブラウスに躊躇はなかった。バーシュウレインを立ち上げる際、三人で誓った項目の中に「思いついたことは、すべて口にする」というものがあったからだ。

 黄色地のブラウスはハーブティーを飲み干してから、そのアイデアを披露した。

「これからは、昔のニックネームで呼び合うようにしたらどうかしら?」


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