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『奇跡は一時的? それとも』 バーシュウレイン視点

 何度同じ映像を再生したか分からない。だがそのたびに、エメラルドと黄色地のブラウスは首を横に振った。

「だって、いま距離を計ったでしょ。2メートル40センチよ。それを勢いもつけずに、たったの一歩でなんて、絶対に何かの間違い。それに今試してわかったでしょ。私たちにそんなジャンプ力がないことが」

 しかしルビーはそれを聞き流して、同じ質問を繰りかえした。

「ね、ね、その時どんな気持ちだった? 見えない糸に引っ張られているようだった? 誰かにそっと持ち上げられているような感じ?」

「だから、何度も言っているじゃない。これは何かの間違い。カメラの故障。再生ソフトの不具合。それでなかったとしたら」

 ムキになって否定する黄色地のブラウスを、ルビーは笑顔のままで遮った。

「そろそろ、認めた方がいいんじゃない? 確かにあなたたちは、今は飛べない。でもさっきは飛べた。こうやって映像に残っているのが証拠。思い出してみてよ、そのときのことを」

 黄色地のブラウスは口を尖らせた。

「自覚がないことを、簡単に認めるわけにはいかないわ」

 ルビーはフフフと笑った。

「じゃあ、あなたのほっぺの肌の張りはどうなるの? 自覚はあった? 指で触ったから、それに気づいたんじゃなかったかしら。あなたが肌の感じが違うと言ったから、私たちも自分の肌の変化に気づいたわけでしょ」

「え?」

 と言ったまま何も言えなくなった黄色地のブラウスに変わって、エメラルドが口を開いた。

「そう言われれば、そうよね。あの会話がなかったとしたら、私気づいていなかったと思う。コンタクトなしでも、こんなにきれいに見えることに……」

 そこまで言ったエメラルドの表情に陰りが現れた。

「どうしたの?」ルビーが心配そうな声で訊いた。

「いつの間にか、視力が戻っているの」

 エメラルドの力のない声に、黄色地のブラウスが反応した。

「どっちに戻ったの? 若い頃のあなたに? それとも」

「昨日までの、私」

 力のないエメラルドの声に、黄色地のブラウスの表情が強ばった。

「ちょっと待って」両手を上に伸ばそうとしたところで、黄色地のブラウスは「イタタタ」と言った。「肩が回らない」それからあわてて両手で頬を押さえた。「ということは、もうすぐこの張りも失われてしまうってことよね」

 その様子を見ていたルビーが冷静な声で言った。

「私たちに起きた奇跡は、長続きしないのかもしれないわね」それからパソコンに向き直った。「それはそれとして、今度は、全部のカメラをシンクロさせてみるわね」

 画面に呼び出した四つの映像の周辺部分に少々の歪みが生じているが、これは魚眼レンズ特有のもの。つい先ほどのこの部屋の模様を映していることに間違いなかった。

「よく見ていてね」ルビーはエンターキーを押した。「ほら、どの映像も同じタイミングでつま先が床を離れ、同じタイミングで着地しているわよ。どのカメラも、あなたたちがふわりと浮かんでいる間に、私の足がちょこまかと四回動いているのを捉えているでしょ」

 その映像を三回繰り返した後、ルビーは「じゃあ、今度は私のミラクル映像」と言いながら、自分が回転レシーブのような格好で天井を見上げている場面まで逆回転させて、画面を停めた。

「ね、こうやって四つの映像を見比べるとわかるでしょ。私の体が床から浮き上がっているのが」

「そうかしら」半信半疑の声でそう言いながらディスプレイに目を近づけて、四つの静止画を見比べていたエメラルドが、首を傾げた。

「上からの映像ばかりだから分からない。でも、あなたがそう言うんだから、浮いていたんでしょうね」それからルビーに視線を向けた。「どうだったの? その時の感じ」

「今にして思えば、床と私の体の間に、柔らかな、バネのようなものが存在していたみたい」

「つまり、勢いも反動もつけないのに、体が宙に浮かんだ状態で、半回転だか、一回転だかしたってわけね」

「感覚としては、そんな感じ」

「ねえ、もっと具体的に教えてよ」

 黄色地のブラウスが真剣な表情で言うと、ルビーは少しの間天井を見上げた。

「ほら、私たちが会社を立ち上げた頃、バランスボールを椅子代わりにしていたでしょ。あんな感じ」

「それだと分かる気がする。でもねぇ」しばらく遠くを見るような目で壁の一点を見つめていたエメラルドが、思い出したような顔でルビーを振り返った。「今試してみてよ。あなたには、まだ宙に浮く能力が残っているかもしんないわよ」


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