『ルビーが気づいたこと』 バーシュウレイン視点
「やっぱり、一連の出来事は全部つながっているのよ」
エメラルドがそう言ったのは、それからしばらくしてからだった。
「一連って、どこから、どこまでなの?」
黄色地のブラウスの問いかけに、エメラルドは短く答えた。
「昨日の胸騒ぎから、今の今まで」
「と言う事は、お石様のお告げも、その中に入っているってことよね」
「確信なんてないけど、そんなふうに考えた方が自然でしょ。だって三人同時に、チクリを感じたわけでしょ。肌の艶が良くなった。肩こりがなくなった。視力が戻った。膝の痛みが取れた。これって、奇跡よ。我々三人に数々の奇跡を起こしてくださったのは、お石様しかいないでしょ」
「確かにそうよね」一旦は同意を示した黄色地のブラウスだったが、そのあと遠慮がちな声で付け加えた。「私も心の中ではそう思っていたの。でもね、そうなると、分からないことがあるの。一人っ子の私に、どうして兄さんというお告げが降りてくるのかしら」
するとエメラルドは、困惑の表情を浮かべて視線を逸らした。
「そう言われると、何も言えなくなっちゃうわね。考えてみれば、私のお告げは、孫悟空だったわけだし……」
沈黙で終わった二人のやり取りを黙ってみていたルビーが割り込んだ。
「お石様のお告げの件は別にして、検証してみない?」
「検証?」
「三人に共通して起きた現象は、他にもあるみたいなの」
「他にも?」自分の頬の肌の張りを指先で確認していた黄色地のブラウスが、ちょっと驚いたような顔をした。「まだ、あったっけ?」
「もしかすると、私たち、オリンピック選手になれるかもしれないわよ」
「オリンピック? なに、それ」
脈絡のない話に戸惑ったように顔を見合わせる二人をちらっと見たルビーは、慣れた手つきでパソコン画面の左下に並んでいるアイコンのひとつをクリックした。
「この部屋にも監視カメラをつけておいて良かったとつくづく思うわ、私」
独り言のように言いながらルビーがキーボードで打ち込んだ文字は「偵察」
エンターキーを押すと同時に現れたのは、「私が偵察にいく」と言った後、クルリと体を半回転させて、ほふく前進の真似事をするルビーの姿。
「やっぱり、そうだったんだわ」それからルビーは二人を見た。「すごいと思わない?」
急に問いかけられた二人は、互いにぽかんとした顔を見合わせてからルビーに視線を戻した。
「どこが?」
「もちろん、ここに映っている私よ」
ルビーはパソコンを操作して映像を逆回しにすると、自分の体が上を向いた状態で画像を止めた。そして二人に向かって先ほどと同じセリフを口にした。「ね、ね、すごいと思わない?」
十数秒ほどして、エメラルドが確認するように言った。
「この格好が、さっきのオリンピックの話と繋がっているってことなのね」
「ピンポーン」
ルビーがおどけた声で言うと、エメラルドに笑顔が戻った。
「だったら、私たちも応援するわ」それからエメラルドは黄色地のブラウスに視線を向け、同意を求めるような声で「でも、カーペットの上で半回転できる程度でオリンピックに出られるとしたら、私たちも出場できるかもしれないわね」と言った。
「でもそうなると、オリンピック関係者は大変よ。三歳児でも、百歳過ぎていても参加できるってことになるわけでしょ。出場選手だらけで観客は誰もいなくなっちゃうわ」
エメラルドと黄色地のブラウスは、ルビーのオリンピック出場の話を冗談と受け取ったようだが、ルビーはそうではなかった。
「私は床運動。あなたたち二人は、走り幅跳びの選手」
相変わらず真面目な顔で答えるルビーに二人は、呆れ顔に戻った。
「はあ?」
しかしルビーは気にする様子もなく、停止状態を解除した。
「もし私の記憶に間違いなければ、すごいものが映っているはずよ」
モニター画面を睨んでいたルビーが「あ、やっぱりそうだ。あなたたち二人も、すごいすごい」と興奮した声で言ったのは、チクリの来る方向を確かめようとして、三人がバルコニーに向かう場面だった。
「どこがすごいというの?」
エメラルドが首を傾げながらモニターを覗き込んだ。
「ほら、ここよ。よーく見ていてね」
画面を巻き戻したルビーは、映像をスローモーションに切り替えると、画面を指さしながら数を数えた。
「いち、に、さん、し」
それから二人を交互に見た。
「私が四歩。あなたたちは一歩」




