告白 管理人側視点
僕は風呂場で思いついたことを、そのまま話すことにした。
だが、その前に確認しておかなければならないことがあった。
返事次第では、話の順番を入れ替えたり、ちょっとした脚色を加えなければならなくなるからだ。
「本当に、究極のビジネス話は覚えていないの?」
目を見ながら念を押すと、突き放すような声が返ってきた。
「わたし、記憶力には自信があるの。あの日話したのは、冷蔵庫の中身だけ」
カロンの表情や声に、嘘をついたり、何かをごまかそうとしている様子がないことに、ほっとした。
だったら、気を使うことはない。言い訳をする必要もない。夢で見たこととして進めれば、話はスムーズに進む。
「昔からそうなんだけど、夢と現実の区別がつかなくなることがあるんだ。たぶん先週のあれも、電話が終わった後に見た夢なんだろうね」
そんな前置きのどこが気に入ったのか、カロンはちょっとだけ笑った。
僕はカップの底に残っていた紅茶を飲み干してから、本題に入った。
いつも僕の仕事を心配してくれるカロンを喜ばせようとして、究極のビジネスを思いついたと嘘をついたこと。
名刺もできている。明日にでも会社を立ち上げようと思っている。と畳みかける僕に、カロンが、しきりに慎重論を唱えたこと。
黙って聞いていたカロンが口を挟んだのは、昨夜彼女が、予告なしにやってきた理由を、僕が勝手に勘違いした部分に差し掛かったときだった。
「つまりこのわたしが、一週間の間に慎重派から、推進派に心変わりしたと思ったわけね」
難解な謎でも解いたように、うれしそうに言うカロンの笑顔が、とてもかわいかった。
「ピンポーン」
声のトーンを上げて言うと、彼女はクスッと笑った。
「でも、残念ながら、究極のビジネスモデルは、絵に描いた餅にもならない代物。そこであなたは、こう思った。あれがウソだとバレたら、こっぴどく痛めつけられる。どうしよう」
まさにその通り。僕の拙い話の中から、肝心な部分だけをピックアップする能力には、いつも感心させられる。
「君には、占い師のような才能があるみたいだね。実を言うと、昨夜はほとんど眠れなかったんだ」
調子に乗ってつづけると、カロンは急に真面目な顔になった。
「そんなに怖いの? このわたしが」
一瞬言葉に詰まったが、正直に打ち明けた。
「君の魅力には、その部分も含まれているんだ」
「ふぅん」
僕の言い方に戸惑ったのか、カロンは困惑気味な顔でしばらく僕を見つめていたが、やがて肩をすくめて、小さく笑った。
「ほめ言葉だと思ったほうが、いいみたいね」
そこで僕の話が終わったと思ったのか、カロンは腰を上げた。
「どこに行くの?」
カロンは、あごでベッドを指した。
「夕方まで、ちょっと一眠り」
一旦寝てしまうと、カロンは死んだように眠ってしまう癖がある。いつもなら、引き止めないのだが、今日の場合、そうはいかない。
僕の話は、これから面白くなるのだ。すくなくとも自分では、そう思っていた。
「ねえ」僕はカロンを呼びとめた。「この顔を見て、何か思わない?」
彼女に向かって、自分の顔を突き出した。
「そういえば、なんだかすっきりしてきたみたいね」
「どうしてだか、わかる?」
カロンはにやりと笑った。
「うまくごまかしたと思っているんでしょ」
シャワーを浴びる前の僕なら飛び上がって驚くところだが、今は違う。逆にうれしくなった。
「甘いね、甘い。当分のあいだ、占い師なんて無理みたいだね」




