それぞれの戸惑い バーシュウレイン視点
おんぼろアパートの管理人が、ことの顛末を話し始めた頃、高級マンションの一室では意見のとりまとめが行われていた。
最初に口を開いたのは、リーダー格のエメラルドのブレスレット。
「要するに、私たち三人に、何かが起ころうとしているってことね」
黄色地のブラウスが歯切れの良い声でつづけた。
「昨夜からの状況から判断すると、そうなるわね。胸騒ぎが起きたのも、誰かに抱きしめられたような気持ちになったのも、夢の中で涙を流したのも三人一緒。これを偶然の一致という方がおかしいと思う」
そのあとを、ルビーが笑いながらひきとった。
「それに、全員これまでで、一番きれいに見えているし」
しばらくの沈黙の後、黄色地のブラウスが不安げな顔で後を振り向いた。
「でも、お石様からの反応がなくなったのは、どうしてかしら」
その件については、他の二人も同じ気持ちを抱いていた。
いつもなら、お石様に向かって問いかけると、何らかの反応が返ってきた。返答がないときでも、今はその時期でない。というような声なき声を感じ取ることができていた。
だが今朝に限って言えば、ひのきの箱の中に納められているものは、ただの黒い石でしかなかった。
「もしかすると」エメラルドが遠慮がちな声で言った。「昨夜のお告げは、個人宛ではなくて、三人のお告げをひとつにつなげると、何かがわかるようになっているんじゃないかしら」
黄色地のブラウスも、その可能性を感じていた。
しかしそれだと、昨夜の涙の訳がわからなくなる。
お石様のお告げを自分なりに解釈した結果、自分には片親の違うお兄さんがいる。そんな結論に達していたからだ。
昨夜やさしく抱きしめてくれたのは、まだ見ぬ私のお兄さん。そのお兄さんと、私以外の二人がつながっているはずがない。昨夜のお告げは、私だけのもの。他の二人とは関係ない。裏付けなんてなかったが、そう信じ込もうとしていた。
昨夜のお告げの解釈で、一番悩んでいたのはルビーだった。
ほかの二人のお告げの内容は、なんとなく理解できた。
「なんだろ、これ。私には、お兄ちゃんなんていないわよ」
あれは、彼女には彼女の知らない兄がいるということを、お石様が伝えて下さったのだろう。
「これを解く鍵は、孫悟空にあるのかもしんないわよ」
あのせりふの中に隠れているのは、三蔵法師に間違いなさそうだ。きっと高貴で重要なお告げが降りてきたはず。
それに引き換え、この私は何だ。
昨夜のお告げに対する解釈は、ほかにもあったのかもしれない。でも、無意識とはいえ、自分の口から出てきたのはゴミ。どうして、あんな汚い言葉を言ってしまったのだろう。ゴミは、私の本質と関係があるのだろうか。
「ねえ、みんな」エメラルドが問いかけた。「昨日のお告げを、今から付き合わせてみましょうか」
「今から?」
エメラルドの提案に、ルビーと黄色地のブラウスは、互いに顔を見合わせた。
「私としては…」
黄色地のブラウスが消え入るような声で言うと、即座にルビーはそれにかぶせた。
「もう少し様子を見てからでもいいんじゃないかしら」
「それもそうね」
エメラルドが、ほっとしたような表情で先延ばしに同意したのは、昨夜反射的に口走った、孫悟空の意味を、自分でも把握できていなかったからだ。
「じゃあ、しばらく、このまま余韻に浸りましょうか」
エメラルドの言葉に、あとの二人は安心したようにゆっくりうなずくと、ソファに深くもたれてまぶたを閉じた。




