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美少女って何かと都合良いよね

「ふーん、聖剣ねぇ・・・」


私達は小屋の中の居間で席について(私もソファに立て掛けられて)話していた。

そして今この女性、フェロサ・オステンに、丁度全ての事情を説明したところだ。


フェロサはこの先行部隊の隊長であり、『金の杭』の副社長でもあるらしい。かなり地位は高いな。

実際の現場の工事から会社の行く末に関わる業務まで幅広くこなす天才な方なんです、とは小屋にいた他の社員の話。


長身でタンクトップに黒髪ショートというガテン系の女性で、レベルは堂々の2745。『金の杭』の本部がある街でも2500越えは数名しかいないらしいので、かなり強いと分かる。


「んで、この世界の様子とかどうやって生きてくかとかを知りたがってるから、それを知るまではとりあえずここに置いといてやってくれないっすか?ってことですよ」

「頼む」

「・・・なるほど。大体は理解した」

「お。ってことは」

「だが断る!!」

「なんっ!?」


腕を組んで椅子にもたれかかり、フェロサは難色を示した。


「だってさぁ、伝説の剣がこんな山に刺さってたとか、実は規定レベル500だったとか、今までの世界の記憶がないとか・・・どう考えても怪しいだろ」

「た、確かに・・・」

「仕方あるまい。一発で通してもらえるとも思っていないさ」


粗雑な性格のようではあるが、そこは流石副社長だな。不審な者を易々と受け入れたりしない。


「でもいいんじゃないですか?副社長~」

「副社長と呼ぶな。隊長と呼べ隊長と!」

「いえっさー!たいちょー!」


このほんわかとした雰囲気で喋る白髪の少女は、先行部隊の一人であるマーシェ・ルベルタールだ。外での調査活動をしない唯一の事務官で、最年少である。

白いワンピースを着ており、建設会社の社員というよりかは貴族のお嬢様といった感じだ。


「でもなんでだ?怪しいには怪しいだろ」

「でも置いておくくらいなら大丈夫だと思いますよ。ダイル君でもうっかり折っちゃえるくらいなんですから、私達にとってそれほど害はないと思うんです」

「うっ、はっきり言うな・・・」


心が痛い。だがここに置いてもらうにはこれくらい我慢せねば。


「それに、意思があるんだから可哀想です!もし話していた内容が本当だったら、頼る人がいない状況の中、ひとりぼっちで放り出されちゃうんですよ?」

「うっ・・・!」


必死の眼差しで迫るマーシェ。フェロサは言い返せずにたじろぐ。


「はははっ。隊長はマーシェちゃんに弱いっすよね~」

「うるさい!!」

「うがっ!」


ダイルが余計な事を言ったらしく、脳天にチョップをおみまいされた。


「ひでぇ・・・理不尽だ・・・」

「それに本物の聖剣かどうかは国に調べてもらわないといけませんけど、結局はそれまで預かっておかないといけないんですよ?」

「・・・む。正論だな」


フェロサが観念したように頷いた。


「認めてくれたのか?」

「・・・仕方ないと言わざるを得んな。マーシェの言う通りだ」

「おお、良かったなシュバンテ」

「うむ!」


これで一先ずは安心だ。まだ未来は見えんが、ここから見出せていけるだろう。


「説得ありがとうマーシェ。おかげで助かった」

「いえいえ、私もあなたといろいろお話してみたかったんですよ。よろしくお願いしますね!」


マーシェの優しき行動に胸を打たれていると、「だが」とフェロサが口を開いた。


「聖剣というくらいなんだから、何か特殊な能力を持っているんだろ?それを見せてみろ」


未だに不審な目を向けながら、聖剣としての証拠を求めてきた。


「た、隊長。規定レベル500なんすから、そんな高望みしなくても・・・」

「む?「高望み」とは、随分と見下した言い方だな」


確かに、現在の私はこの世で最も弱い存在と言えるだろう。

だがそれは剣の強度や、攻撃魔法の威力の問題だ。聖剣であるが故に与えられた特別な力が私にはある。


「いいだろう。少しばかりカチンときたので、お前らを見返してやる。聖剣の能力を見るがいいわっ」


私は魔法で自身の身体を浮かび上がらせ、さらにとある魔法を詠唱。

すると強い光が全身を包む。2本あった私は徐々にその輪郭を崩して統合し、変形していく。


そして、シルエットが大きくなり目的の形状にまでなった瞬間、光を全て弾き飛ばす。

完了だ。


「なっ!?」

「うわぁ・・・!」

「・・・!」


皆の目が丸くなる中、私は地面に降り立った。



──『擬人化』を発動して変身した、可愛らしい美少女の姿でな!



「ふふん。どうだ、これこそが私の固有能力、『擬人化』だ。他にもまだまだあるが、目に見えて分かりやすいのはこれだろうと・・・はっ!?」


私が自慢気に説明しようとした時、何やら凄まじいオーラが立ち上っているのを感じた。

その発生源は、フェロサ。


「な、なんだ」


周りを気圧す程のオーラを放つ彼女は、手を不気味に動かし、血走った目でこちらを見ている。

私がその意図を理解するより前に、フェロサは動き出した。


「・・・かっっわいいいいぃーーーーー!!」

「なぁっ!?」


突然私に飛び付き、抱き締めてきた!


「ちょっ、何をする!?」


必死にもがくが、当然高レベルの彼女の拘束には敵わない。


「一体何なんだお前はぁ!ちっこい身体、雪のように白い肌、ツインテにしたサラッサラの銀髪・・・まさにお人形さんのようじゃないか!可愛いやつめー!」


我を忘れて興奮し、少女となった私を撫でつけたり頬をぐりぐりと押し付けたりするフェロサ。

・・・今までの厳しく威厳のあった人格が嘘のようだ。顔は緩みに緩みきり、でれでれとしている。


まぁ、擬人化した私がかなりの美少女だという自覚はあるのだがな!


しかしどうするべきかと視線をさ迷わせていると、ダイルと目が合った。彼は、


「・・・お前ってそんな姿になれたんだな。でも、隊長って可愛い女の子が大好きなんだぜ。性格とか体裁とか頭ん中からブッ飛ぶくらいにな」


と苦笑混じりに言った。

そうだったのか・・・まさかこの女性にそんな一面もあったとはな・・・。


すると今度はマーシェが声をかけてきた。


「すごく可愛らしくなりましたね!さすがは聖剣さんです!」

「あ、ありがとう・・・だが、この状況は・・・」

「これは隊長と出会った少女の宿命、とでも言いましょうかね・・・。私も最初の頃は、こんなふうに抱き締められてました」


あはは、と少し照れながら話すマーシェ。

建設会社に勤務するという少女は少ないだろうから、その分かなりの熱愛を受けたのではないかと思われる。いや今も受けていそうだ。


だが2人共フェロサを止めてくれないのは、立場上からかレベルの差からか、はたまた面白がっているからか・・・?

なんにせよ、こっちはいい加減解放されたい。


「・・・フェロサ、私が最初に自分で美少女と言ったのはこういうことをされたいからではなくてだな・・・」

「心配するな。いくらレベル差があろうと圧死させるようなマネはしない。力加減は心得ている」

「ちがっ、話聞いてねぇ・・・!解放されたいのだ私は!」

「む?そうか。あまりやりすぎても嫌われてしまうしな、うん」


大声で叫ぶと、案外素直に受け入れてくれた。単に聞こえてなかっただけのようだ。


フェロサと私はそれぞれソファに座り直すと、話を元に戻す。


「これで私が聖剣だという証拠になったか?」

「もちろんだ。意思を持ち、さらに人型に変身できるという物体はなかなかないからな。可愛いし」


ダイルやマーシェもうんうんと頷き、その特異さを認めてくれた。


しかし、少し不安もあった。

最後に私が目覚めた時代では、姿形を変える手段が「変幻の腕環」というアイテムしかなかったため、『擬人化』はまだ私固有の魔法だった。

だが数百年経って魔法も技術も著しく発展した今では、変身する魔法も一般化されているのではないかという懸念があったのだ。


私が生まれた当時から『擬人化』の詳細については秘匿されてきていたが、「変幻の腕環」から新たに変身魔法が作られた、となっては隠していた意味がない。

そんな訳で内心恐れていた部分もあったが、どうやら杞憂に終わったらしいな。


「でも、見れば見るほど可愛いですね~。ちっちゃくて保護欲がそそられます!」

「この場においては誰よりも年上だがな」

「年齢に不相応な口調で喚いてたやつがよく言うよ・・・」

「う、うるさい!裏切られる悲しみは時として年の功をも無価値にするのだ!」


ウィッチなどの魔物もそうだが、私は世界に裏切られたと言っても過言ではない。

・・・だって放っとかれたもん!


「それより、今後の方針はどうするんだ?」


私が憤っていると、すっかり副社長(隊長)としての威厳を取り戻したフェロサが切り出した。


「聖剣であることはほぼ確実だけど、なら尚更国に報告しなきゃならんな。まぁそこまでは心配要らんだろうが」

「問題はその後、だな」

「ああ。国からの保護を仰ぐか、独立して別の道を目指すか、になるな」


フェロサが2択を出すと、ダイルは前者を推した。


「俺は国からの保護を受けるのが妥当だと思うぞ。レベル低いし」

「くっ・・・!それは言うな!」

「おい女の子を泣かせんじゃねぇ!」

「えぐッ!?・・・ぜ、全然「子」って歳じゃ、ねぇだろ・・・!」


うーむ・・・。国に頼るなど私の意地が許さないが、独立して生きるのはやはり辛いだろうな。


「だが、でも・・・」

「迷ってるんですか?ならウチで働いてもいいですよ~」

「おお、ナイスアイディア!そうだ、そっちの方が良い!いやもうそれしかない!そうしろ!」


有無を言わさぬ強い口調で、フェロサはここぞとばかりにマーシェの意見に乗ってきた。


「ドレスとかならいっぱい持ってるし着せ替えしてやろう!それが終わったらお菓子を食べようか!ケーキもクッキーもあるぞ?えーと、普段はとりあえず私に抱き締められてくれ。生きる力になる。ああ待てよ?仕事場にもいてもらえると、いつもの10倍以上は働ける気がするからよろしく!あとそれから・・・」

「あ~あ・・・これ前にディスト男爵のご息女預かった時と同じ状態だわ・・・」


ダイルが溜息をついた。マーシェも苦笑している。

こんな様子になるのなら、私は擬人化しない方が良いのでは・・・?



「そ、それは取り敢えず置いといて、まず私は何の役に立てそうかを──」


と話題を元に戻そうとした時、小屋のドアが急に開け放たれた。


「大変だぁーッ!!」

「ん?」


1人の工事員が、外から焦った様子で飛び込んでくる。

何事かと小屋内にいた全員が振り向くと──


「──宇宙怪獣が出たぞーーッ!!」

「「「「!?」」」」

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